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第9話

12月24日。


前日。

彼女は一日中落ち着かない様子だった。何度も25日の枠を見つめ、スマホを確認する。

そして夜、彼女は俺の前に立った。


「決めた」


彼女の目には、もう迷いがなかった。

「会う。会って、全部話す。まだ好きだってこと。でも、もう傷つきたくないってことも」

強い目だ。

いい顔だ。


その夜、彼女は深く眠った。明日への覚悟を決めて。

俺も——もうすぐ終わる。

12月が終われば、俺はただの紙切れだ。


でも、それでいい。

悔いはない。


そして12月25日。クリスマス。


朝、彼女は念入りに身支度を整えた。選んだ服を着て、鏡の前で何度も確認する。

「よし」

彼女は俺を見上げ、微笑んだ。


「行ってくる」


行ってこい。


彼女が出かけた後、部屋は静かになった。

俺は待った。何時間も。

時間の感覚が曖昧になっていく。


カレンダーとして、俺はもうすぐ役目を終える。12月31日が終われば、俺は用無しだ。

ただの紙切れだ。きっと意識も消えるだろう。

でも、それでいい。


彼女の背中を押せたなら、それで十分だ。

生前の俺は、何を成し遂げただろう。

記事を書いた。金をもらった。それだけだ。

誰かを幸せにしただろうか。

誰かの人生を変えただろうか。

たぶん、何もしていない。


でも今、この一ヶ月で——


俺は彼女を支えた。

カレンダーとして。ただの紙として支えた。

それが、俺の最後の仕事だった。


夜遅く、彼女が帰ってきた。


目が赤い。泣いていたのだろう。でも、その顔には——

清々しさがあった。


「ただいま」


彼女は俺に向かって言った。

「ありがとう。会ってきたよ」

彼女はベッドに座り、俺を見上げた。

「話し合った。全部話した。私の気持ちも、彼の気持ちも」

彼女は微笑んだ。涙を浮かべながら。

「別れた。ちゃんと、今度こそちゃんと別れた」

そうか。


「もう未練はない。諦めたわけじゃない。ちゃんと受け入れたの。彼との時間は終わったんだって」


彼女は立ち上がり、俺の前に立った。


「これから私、生きていく。一人でも。ちゃんと前を向いて」


強い目だ。

もう、あの泣いていた彼女じゃない。

「あのね」彼女が続けた。「あなたのおかげだよ」


俺はただのおっさんだ。

でも、役に立てたなら——嬉しいよ。


彼女は逃げなかった。

俺とは違う。

俺は十五年前、向き合うことから逃げた。そのまま死んだ。


彼女は、傷つくかもしれないと分かっていて、それでも会いに行った。

俺と違って人生に後悔を積み上げなかった。

自分で決めた。自分の人生に、自分でケリをつけた。

それがどれだけ難しいことか、俺には分かる。

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