第8話
12月20日。
彼女は決意したようだった。
朝、鏡の前で念入りに身支度を整える。いつもより丁寧に髪を梳かし、薄く化粧をする。
「久しぶりだな、こんなの」
彼女が微笑んだ。
俺は見ていた。
彼女の変化を。決意の表情を。
仕事から帰ってきた夜、彼女はクローゼットを開け、服を選び始めた。25日に着ていく服を。
何着も試着しては鏡を見る。ワンピース、ブラウス、スカート。
その姿は——恋をしている女性の姿だ。
まだ好きなんだな。
俺は少し切ない気持ちになった。
おっさんの感傷だ。でも、仕方ない。
彼女の恋が報われることを願う。
でも同時に、報われなくてもいいとも思う。
大切なのは、彼女が逃げないことだ。向き合うことだ。
結果がどうであれ、それが彼女の人生だから。
12月23日。
彼女は再び迷い始めていた。
「やっぱり...怖いな。それに、あっちにも何か理由があったのかもしれないし」
ベッドに座り込み、スマホを握りしめている。
「会って、何を話せばいいんだろう。『やり直したい』なんて、バカみたいだよね。浮気されたのに」
彼女の声が震えている。
「でも...でも、まだ好きなんだよ」
俺は聞いていた。
彼女の心の叫びを。
好きだという感情に、理屈はない。傷つけられても、裏切られても、それでも好きだという感情は消えない。
それは弱さなのか。それとも強さなのか。俺には分からない。
でも——人間らしさだとは思う。
彼女はゆっくりと立ち上がり、俺に向かって歩いてきた。
「ねえ、あなたは私に会えって言ったよね」
彼女は俺に、カレンダーに額を押し当てた。
温もりが伝わる。人間の温もり。生きている証。
「もし...もし本当に誰かがそこにいるなら、教えて。私、会うべき?それとも忘れるべき?」
俺は答えられない。
でも、もし答えられるなら——
結論は変わらない。会え。
逃げずに向き合いなさい。
それがあなたの人生だから。
あなたの選択だから。




