第7話
クリスマスの一週間前。
その夜、変化が起きた。
彼女がボールペンを手に、俺の前に立った。25日の枠を見つめている。
「やっぱり...好きなの。どうしたらいいかわからない...」
彼女はペンを俺に近づけた。「マサト」の文字を線で消そうとしている。
違う。それは違う。俺は強く思った。
わからないなら会うべきだ。会って、自分の気持ちを確かめるべきだ。選択肢を残したまま逃げるな。後悔するぞ。
「マサト」に横線を引こうとした、その瞬間——
ペンが弾かれた。
いや、正確には、インクが紙に乗らない。何度書こうとしても、まったく文字が書けない。線が引けない。
彼女は驚いて手を止めた。
「え...インク切れ?」
彼女は試しに隣のメモ帳に線を引いた。ちゃんと書ける。
再び俺に書こうとする。書けない。
「なに、これ...」
彼女は俺をじっと見つめた。その目には、恐怖ではなく驚きと、そして不思議な安堵があった。
「もしかして...」
俺は何もできない。何も言えない。ただのカレンダーだ。
でも——今、確かに何かが起きた。
俺の意志が、現実に影響を与えた。確かにインクを弾いた。
どうやって?なぜ?紙なのに?
分からない。でも、起きた。
「どうすればいいの?」彼女が俺に聞いた。
俺は答えられない。
「会えってこと?会って、ちゃんと終わらせろってこと?」
そうだ。その通りだ。
逃げるな。向き合え。ヨリを戻すのも、ぶん殴ってくるのも、全ては自由だ。
自分の人生に責任を持て。人生に後悔を積み上げるな。
彼女は俺に手を当てた。紙越しに伝わる温もり。人間の手の温もり。
「わかった」
彼女が微笑んだ。




