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第6話

彼女の部屋に、初めて来客があった。


学生時代の友人らしい。二十代後半の女性。明るい性格のようだ。二人はテーブルを囲んで、持ち込んだ惣菜とワインで夕食を始めた。

俺は聞き耳を立てた。いや、耳がなくとも勝手に聞こえてくるのだ。


「で、結局あの人とは会うの?」友人が聞いた。


彼女は黙り込む。ワイングラスを見つめている。


「まだ決めてないの?25日までもうすぐだよ」

「分かってるけど...」


「あのね」友人は身を乗り出した。「彼氏が悪いんでしょ。浮気した方が悪いの。あなたが謝る必要なんてないの」


浮気。


その言葉で、全てが繋がった。

彼女は彼氏に会おうとしている。クリスマスに。でも相手は浮気をした。それでも彼女は会いたいと思っている。


なるほど。


「でも、私にも悪いところがあったのかもって...」彼女が小さな声で言った。

「ないよ!」友人が強く言った。「十分尽くしてたじゃない。仕事で忙しいのに、彼の家まで行って料理作ったり、掃除したり。それなのに——」

「構いすぎたのかな。束縛してたのかも」

「してないわよ。週末に会うくらいで束縛なんて言わない」


友人は溜息をついた。


「あのね、あなたは優しすぎるの。都合のいい女なんか損しかしないよ。もっと自分を大事にしなよ」


都合のいい女。


その言葉が、部屋に重く響いた。

彼女は黙って、俺を見上げた。25日の枠を見つめている。

俺も同じことを思う。

彼女は優しすぎる。自分を責めすぎる。悪いのは浮気した男の方だ。


でも——人の心は複雑だ。

頭では分かっていても、心がついていかない。まだ好きだという感情が、理性を上回る。

俺にも分かる。

四十八歳のおっさんでも、いや、だからこそ分かる。


ライター時代、終末期の患者を取材したことがある。

人生の最期に何を後悔するか、という記事だった。

彼らが口を揃えて言うのは「自分の気持ちを伝えなかったこと」「会いたい人に会えばよかった」だった。

許すとか許さないとか、そんなことじゃない。

曖昧なまま関係を終わらせた相手が、一番心に残ると。

謝りたかった。ありがとうと言いたかった。もう一度だけ話したかった。

でも、もう遅い——そう言って涙を流す人を何人も見た。


だから俺は彼女に会ってほしいと思う。


友人が帰った後、彼女は一人、涙を流した。


「どうすればいいの...」


俺は、カレンダーである俺は願った。

彼女に幸せになってほしい。

たとえそれが、俺の思い通りの形じゃなくても。

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