浮かぶオンナ
飯田美咲(15)は、中学のオカルト研究部に所属している。
といっても、活動内容は「怖い話を集めて自作する」という半分遊びのようなものだった。
ある日、美咲は部室で、古い資料箱の中から気になる新聞の切り抜きを見つけた。
【昭和43年・○○県○○市】
“ダム建設により沈んだ集落から、出産直後の女性の遺体が見つかる”
──遺体は水没前の村の病院跡から発見され、赤ん坊の姿はなし。身元不明。
地元では「浮かぶ産女」の伝説が囁かれている──
興味を惹かれた美咲は、週末を使って一人でそのダムに向かった。
人里離れた山奥にある、人気のない場所。満水期にはほとんど水面しか見えないが、ちょうど渇水期で、水位がかなり下がっていた。
──ゴォォ……
風が音を吸い込むようにうなる中、水辺に降りた美咲は、異様な気配に包まれているのを感じた。
そこで彼女は見てしまった。
ダム湖の中央あたり、水に沈んだ旧集落のあたりに、白くぼやけた女の影が浮かんでいた。
女はびしょ濡れで、腹が大きいまま、ぴくりとも動かず立っているようだった。
目を凝らすと、女の腕には赤ん坊のようなものがある。
だがよく見ると、それは布のようなもので、中身は空っぽ。
──いや、「空っぽの布」を、女は必死に抱いて、何かを探しているようだった。
その瞬間、女がこちらを見た。
びちゃ。
足元に水がないはずの場所から水音がした。
美咲が足元を見ると、地面に水たまりができており、誰かの足跡が並んでいる。
それは、美咲の足跡のすぐ後ろまで迫っていた。
「……かえして」
かすれた声。確かに耳元で聞こえた。
振り返ると誰もいない。しかし、背中に濡れた布のような感触が──。
美咲は叫び声を上げ、気を失った。
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数時間後、地元の釣り客に発見されて病院に搬送された美咲は、「湖の中に女がいる」と繰り返し訴えた。
しかし誰も信じず、記録的暑さのせいで「熱中症による幻覚」と片づけられた。
だがその後、美咲の身の回りで異変が起こる。
毎晩、耳元で赤ん坊の泣き声がする
目を閉じると水に沈んだ部屋の中が見える
鏡に映る自分の後ろに、濡れた女が立っている
オカルト研究部の仲間たちが除霊まがいの儀式を試みるも、状況は悪化する一方だった。
ある日、部室に一枚の紙が貼られていた。
【届けてください】
「赤ちゃんを見つけたらここまで連絡を」
「赤ちゃんを見つけたらここまで連絡を」
「赤ちゃん、赤ちゃん、赤ちゃん、赤ちゃん」
そしてその日から、美咲は学校に来なくなった。
家族によれば、最後に見た美咲は、誰もいない部屋の片隅で、空の布を抱いていたという。