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the world   作者: RAN
8/44

残された約束

霧が泡のように足元に絡みつき、白く重く漂っていた。

リンは一歩ずつ進む。冷たい汗が背中を伝い、ここでは一息ごとが肺を切り裂く刃のようだった。


後ろから、ミラと傷のある男が無言でついてくる。

泥がぬかるみ、ぴちゃぴちゃと響き、リンの心臓の音と重なった。


—「…ここは何なの?」

ミラがかすれ声で尋ねる。

—「毒霧の沼だ。」

傷の男が低く答え、大きなナイフを強く握った。

「吸いすぎれば…肺は腐り、脳みそは耳から垂れ出す。狂った奴だけが通る場所だ。」


リンはぼんやりと前を見つめる。泥は膝まで埋まり、表面では灰色の怪物の手が時折浮かび上がっては消えた。


リンは黒いナイフを握りしめる。

—「…進むしかない。」


重い足取りで、手からにじむ闇が刃を覆い、泥の触手を切り裂きながら進む。


—「…大丈夫?」

ミラが後ろから小さな声で聞いた。

リンは答えず、ただ頷く。だが心の中では声が響く。


「あの子が…いつまで自分の足で立っていられるか。」


頭の奥深くで、闇がくすくすと笑った。


「置いていけ。一人なら…生き残れる。」


—「黙れ…」

リンは歯を食いしばり、呟く。


その時、足元が激しく揺れ、巨大な影が泥から現れた。

泥にまみれた半人半怪物、赤く燃える二つの目がこちらを睨む。


傷の男が低く呟いた。

—「沼の鬼だ…」


怪物は叫び、泥を巻き上げて腕を振り回す。

リンは刃を振るが、泥が絡みつき、動きが鈍る。


—「避けて!!」

ミラが叫び、手作りの槍を投げつけ、怪物の片目を貫く。


怪物は唸るが止まらない。

リンは足に闇を集め、地面を踏み抜いて穴を作り、勢いよく跳び上がる。

黒いナイフが怪物の胸を切り裂く。だが泥が刃を蝕み、煙が立つ。


—「まだだ…」

リンは呟き、目が赤く光る。


「ここで止まれば…全員死ぬ。」


ナイフを抜き、何度も何度も突き刺す。泥が破裂し、飛び散る。

ミラはリンの腕を掴み、傷の男が怪物の背に飛び乗り、首筋にナイフを突き立てる。


— ドガァンッ!!


泥の巨体が爆ぜ、熱い泥があたりに降り注ぐ。

三人は泥の中に倒れ込み、荒い息をつく。血がぬるい泥に混ざる。


ミラはリンの手を掴み、心配そうに覗き込む。

—「ひどい怪我だよ…」


リンは目を閉じ、唇から血を垂らしながら思う。


「なぜ…まだ二人を守ろうとする?」


傷の男がかすれ声で笑った。

—「死ななければ…勝ちだ。」


リンは薄く笑う。弱々しく、震えるように。

—「…まだ…下じゃない。」


三人は再び立ち上がり、毒霧の沼を後にする。

リンの長い影が泥の上に伸びる。その赤い目は固い決意を宿しつつも、奥底では孤独が静かに燃えていた。



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