闇の中の声
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黒い門がリンの背後で重々しい音を立てて閉じた。
無数の魂の嘆きのように、響き渡る。
血と埃の臭いが漂い、光は完全に奪われ、闇がすべてを支配していた。
リンは震える手で前を見据えて立っていた。
冷たい石の床に、赤い血のような古代文字が這い回る。
「ここに入る者よ……光を捨てよ。」
低く、遠くから響く声が空間全体を震わせる。
—「……お前は誰だ?」
リンは唇を噛み、喉が詰まる。
—「……俺は……リンだ。」
—「違う。」
—「お前はもう名前を持たぬ者。守りたかったものと共に死んだ者だ。ここは、何も残されていない者の場所。」
声が一拍置き、続ける。
—「お前はこの門を越え、何を求める? 光か……闇か?」
リンは血がにじむほど拳を握りしめ、憎しみのこもった瞳で答える。
—「……光などいらない。力が欲しい。全てを取り戻すために。」
—「良い。」
—「だが、その力には代償がある……それでも構わぬか?」
—「……構わない。」
その瞬間、足元の大地がひび割れ、巨大な魔法陣が現れた。
古代の文字が赤く輝き、冷たい風が吹き荒れる。
深い闇の底から、一つの存在が現れた。
それは人の形をした怪物で、黒い翼を持ち、無数の赤い目が全身に開いていた。
リンの心臓が凍りつきそうになるが、一歩も退かない。
怪物が口を開く。
—「俺は門番だ。先に進みたければ……耐えろ。」
その言葉と同時に、怪物が襲いかかる。
鎌のような爪が空気を切り裂き、肩に深く食い込み、血が飛び散る。
痛みは数百の刃が体を裂くようだったが、リンは歯を食いしばり、倒れなかった。
—「……もっと来い!」
—「殺したければ、殺せ! 俺は……止まらない!」
怪物は少し止まり、低く笑った。
—「良い。」
その体から無数の闇の柱が伸び、リンの胸、額、背骨に突き刺さり、彼を地面に押し付ける。
頭の中に無数の悲鳴が響く。記憶が掘り返される。
父が槍に貫かれ、母が斬られ、ハルが血だらけで横たわる。
かすかな声が聞こえる。
—— 「お兄ちゃん……ヒーローでしょ……」
—「……黙れ!!」
リンの叫びが闇を引き裂いた。
彼の体から黒い光が噴き出し、鎖を砕いた。
怪物は大きく笑った。
—「ついに目覚めたな。」
リンの傷は血が止まり、皮膚が熱を帯び、血管が黒く染まり、瞳が赤く輝く。
手の甲には燃えるような黒い翼の紋章が浮かび上がる。
リンはよろめきながら立ち上がり、冷たい汗でびっしょりになった。
—「……終わったか?」
—「いいや。まだ始まったばかりだ。」
怪物は闇の中に消え、代わりに一筋の道が現れる。
その先に、かすかに光る扉があり、白い外套をまとった人物が待っていた。
リンが近づくと、冷たい声が響く。
—「ようこそ、壊れた世界へ、選ばれし者よ。」
リンは眉をひそめ、尋ねる。
—「……壊れた世界?」
—「そこは法も正義もない、強者だけが生き残る場所。そしてお前は……その一部となる。」
リンは拳を握りしめ、扉をくぐる。冷たい風が顔を打ちつける。
目の前には、灰色の空、砕けた山々、黒い海、崩れた城が広がり、遠くでは巨大な怪物が互いを引き裂いていた。
狂気に満ち、壮絶で、美しい世界。
そしてその空を黒い鳥たちが飛び交う。
一羽がリンの肩に舞い降り、ささやいた。
—「……選ばれし者よ……見せてみろ……お前の光を……あるいは闇を。」
リンは目を閉じ、低く答えた。
—「誰も救えないなら……俺が全てを焼き尽くしてやる。」
鳥が飛び立ち、空が裂け、大地に太鼓のような音が鳴り響く。
新たな“悪魔”の誕生を告げる音だった。
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