第12章:固有結界・無限の剣製
~魔法少女イリヤ世界線~
「あっ…!!!」
イリヤは息を呑んだ。ほんの一瞬のシーンだったが、その衝撃は計り知れなかった。
士郎が願いをかけた時、スクリーンには彼女自身の記憶――美遊と士郎の絆が映し出されたのだ。
「兄さん…」
美遊は拳を握り締め、再び涙が頬を伝った。このシーンを見ても、やはり感動せずにはいられなかった…
兄は全てを犠牲にした。理想も、力も、生命力さえも――それなのに彼女は誤解していた。
今やサーヴァントカードの力を失った士郎は、一人で不可能な敵に立ち向かっている。
「心配ありません、美遊様…」
魔法サファイアが近くに浮かび、慰めの言葉をかけた。
「映像はまだ終わっていません。衛宮士郎はきっと勝ちます!」
「もしかしたら、もう美遊様を探しに向かっているかもしれません!!」
美遊を慰めるためとはいえ、魔法サファイアは士郎が美遊の転送が完了するまで持ちこたえたことが奇跡だと思っていた。
先ほどの短い戦闘で、士郎が全く相手にならないことは明らかだった。サーヴァントの力を失った士郎に勝ち目はない。
「そうだといいのですが…」
美遊はかすかに呟き、声を殺してスクリーンに集中した。兄が生き延びるかどうか、次の展開を見届ける必要があった。
~第四次聖杯戦争時間軸~
~遠坂邸~
「この野郎…!!」
ギルガメッシュは目を細め、アンジェリカと衛宮士郎の激突を見守った。再び苛立ちを覚えている。
偽物を軽蔑しながらも、ギルガメッシュは士郎の揺るぎない決意に敬意を抱かざるを得なかった。
映像の外の誰もが、士郎が美遊のために払った代償を見ていた。
だからこそ、ギルガメッシュも士郎の目的を理解した。
「正義の味方?とっくに捨てた名残だ」
ギルガメッシュは声に出して呟いた。
士郎の目的は明確だった――何が何でも美遊を守ること。
ギルガメッシュはそんな純粋な目的を賞賛した。たとえアンジェリカが自分の力を乱用しているのが癪でも。
彼が苛立っている理由は、アンジェリカが王の風格を示さずに自分の力を使っているからだ…
「少しは品位を見せろ、雑種」
ギルガメッシュは苛立ちを滲ませながら呟いた。
~第五次聖杯戦争時間軸~
~衛宮邸~
「これが最後の戦いだ…」
遠坂凛は静かに呟き、士郎と赤のアーチャー【エミヤ】を見比べた。
アルトリアは厳かに頷いた。
「そうなるでしょう」
実際、遠坂凛が本当に聞きたいのは、彼らが皆衛宮士郎なのに、どうして映像の中の自分をそんなに冷静に見ていられるのかということだ。
例えば今、士郎は首を傾げ、冷静に赤のアーチャーに尋ねる。
「勝てるのか?」
赤のアーチャー【エミヤ】は映像から目を離さず、同じく冷静な口調で答える:
「固有結界を使えば、勝機はある――だがごくわずかだ…」
赤のアーチャー【エミヤ】の見立てでは、ギルガメッシュの力を得たアンジェリカに士郎が勝つ可能性は低い。
~第四次聖杯戦争時間軸~
~アインツベルン城~
衛宮切嗣は士郎の急速に白髪化していく髪――魔術回路を駆動させるために生命力が削られている明らかな兆候を見た。
サーヴァントカードも聖杯の力もない今、士郎は自らの体だけを頼りにしていた。
高精度の投影を維持するには、たとえ偽物の英霊となっても膨大なエネルギーが必要だ。
「士郎は死ぬの、切嗣?」
アイリスフィールは声を震わせて尋ねた。
彼女は衛宮士郎がどんな子供かを見て取っていた。
切嗣は沈黙した――重い意味を込めた沈黙だった。
映像は再生を続ける
【煙が散ると、アンジェリカは慌てて立ち上がる衛宮士郎を見て言った:「どんな手を使おうと無意味だ。待っているのは破滅だけ」
「わかっている」士郎は歯を食いしばり、苦しそうに立ち上がって続けた:「俺が今まで必死に戦ってきた理由、お前が言うくだらない手段こそが絆だ!!」
士郎の目は恐ろしいほどに鋭くなり、真剣な声で言った:「美遊はいつも俺を支えてくれた。俺は本当に役立たずの兄だが、だからこそ…」
「残りの命をここで使い切る…」
士郎はボロボロのコートを引き裂き、右手を左手に添えた。
「―――此は、我が屍で出来た剣で―――」
「鋼を体とし 炎を血として」
「幾千の剣を創り上げてきた」
士郎が詠唱している間、アンジェリカ背後に金色の漣が乱れ、幾つもの宝具が発射され士郎を襲った。
しかし全て、士郎の前に再現された巨大な花弁に阻まれた。
士郎はその隙に詠唱を続ける。
「始まりも知らず」
「終わりも知らない」
「不一致の武器で痛みに耐え この手は何も掴めない」
彼が語る間、士郎が投影した巨大な花弁は砕け散り、地面から金色の漣と共に現れた鎖が士郎を縛り上げた。
これは天の鎖…
アンジェリカもその隙に剣を手に士郎へ突進する。
縛られながらも、士郎は詠唱を止めなかった。
「それでも、炎は消えない」
「我が全身は、依然として無限の剣製であった」
瞬間、周囲の空間が変容した。色を失ったかのようだった。
アンジェリカは少し呆然とした。一片の雪が肩に落ちると、空間全体が雪原と化し、周囲は次第に色を取り戻した。
「個人と世界、幻想と現実、内と外を交換し、俺の考え通りに現実世界を書き換える」
士郎が語るようにして少し離れた場所に現れ、アンジェリカは冷静に彼を見つめた。まるで動じていないようだった。
士郎は雪の中に立ち、固有結界の中で剣を軽く握りながら静かに言った:「これが最強の魔術――固有結界だ」
「どうだ?無限を内包する剣の世界。俺にとってこれらは全て墓碑だ」
「だが残念だ。俺の体が消えるまで、ここで一緒にいてもらう」
アンジェリカは周囲の剣と雪を見回し、最後に士郎を見つめて冷たく言い放った:「ならば望み通り、これらの墓碑の下で眠れ」
「ブーン!!!」
両者の周りに金色の漣が再び現れ、無数の武器が飛び出し士郎へ襲いかかった。
「ガン――!!!」
武器の衝突音と共に、士郎もアンジェリカへ走り出し、途中で攻撃する武器を撃ち落としていく。
攻撃を阻まれたアンジェリカの表情は微動だにせず、背後に再び金色の漣が現れたが、今度はさらに数が多かった。
「―――」
これを見た士郎は素早く状況を把握し、金色の漣から発射されようとする宝具を瞬時に複製した。
次の瞬間、同じ宝具が士郎の背後から放たれ、金色の漣の宝具を破壊する…
「発射される前に…」
アンジェリカは本当に驚き、少しばかり信じられない様子だった。
「遅い」士郎は嘲り、距離を詰めた。
素早い一閃で、アンジェリカを斬りつけた。彼女の一瞬の隙を完璧に突いたのだ。】