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第4話:冒険の始まりと隠された試練

 アレンとリリスは、静かに朝を迎えた。小屋の外では、鳥たちが一斉にさえずり、森が目覚めたかのように活気を取り戻している。訓練を続けた数日間の集大成として、リリスは新たな提案をしてきた。


「アレン、今日からは少し場所を変えようと思うの。ここでの訓練も大事だけど、実際に外の世界に出て、実戦経験を積むことがもっと重要だから」


 リリスはアレンを見つめながら言った。彼女の瞳には新たな決意と、アレンに対する期待の色が宿っていた。


「外に出るのか……どこへ行くんだ」


「森の外にある古代の遺跡に向かうよ。そこには、魔力が集まる場所があって、アレンの力を試すのに最適なんだ」


 リリスの言葉に、アレンの胸は高鳴った。未知の冒険への期待と不安が入り混じり、彼の中に新たな興奮を呼び起こしていた。

 数時間の旅の末、二人は古代の遺跡に到着した。その場所は森の奥に隠れるように存在し、苔むした石柱や朽ち果てた彫像が並んでいた。遺跡の中央には大きな門があり、そこに刻まれた古代文字が二人を迎えている。


「ここが遺跡か……不思議な感じだな」


 アレンは目の前の光景に圧倒されていた。門の向こう側からは、何か強い魔力を感じることができた。しかし、門に近づいた瞬間、リリスが急に足を止めた。


「アレン……私、どうやらこの遺跡には入れないみたい」


 リリスは何度も門に手を伸ばそうとしたが、まるで透明な壁に阻まれたかのように進むことができなかった。彼女の表情には驚きと困惑が浮かんでいた。


「どうして……リリスが入れないなんて」


「この遺跡は、挑戦者だけを受け入れるようになっているみたい。アレン、一人で挑むことになるわ」


 リリスはアレンを真っ直ぐに見つめ、彼の手を握った。


 「私が一緒に行けないのは不安だけど、君ならきっと乗り越えられる。外で待っているから、無事に戻ってきて」


 アレンはリリスの手を握り返し、頷いた。「分かった、リリス。必ず戻ってくる。君のために、そして自分のためにも」


 

 アレンは一人で遺跡の中に足を踏み入れた。遺跡の中は暗く、冷たい空気が漂っている。しばらく進むと、突然周囲が明るくなり、彼は広いホールに立たされた。ホールには無数の道があり、どれが正しいのか分からないほどに複雑だった。道の分岐は迷宮のように入り組んでおり、どれも似たような景色で混乱を招く仕掛けになっている。


「これは……迷いの間か」


 アレンはリリスからの説明を思い出し、深呼吸をして心を落ち着けようとした。しかし、一人きりの状況に焦りが募り、冷静さを保つことが難しかった。迷いと過去の不安が心に広がり、彼の足は重くなる。


「落ち着け、俺ならできるはずだ……」


 何度も道を選んで進んでは、同じ場所に戻ってくるような感覚に襲われた。次第にアレンの心は疲弊していき、焦りと絶望が胸を締め付けた。進んでも進んでも、終わりが見えない状況に彼の心は次第に崩れていった。


「何で……うまくいかないんだ」


 アレンは立ち止まり、壁に手をついた。疲労と苛立ちが重なり、体が重く感じた。そしてその場に膝をつき、拳を地面に叩きつけた。


「無理だ……俺一人じゃ無理なんだ……」


 孤独の中で心が折れかける。何度もリリスが隣にいてくれたらと思ったが、彼女はいない。この場所にはアレンしかいないのだ。孤独感が彼の心を蝕み、体から力が抜け落ちていく。


「リリス……君がいれば……」


 涙がこぼれ、アレンは顔を覆った。リリスの存在がどれだけ自分にとって大きな支えであったかを痛感し、彼はその失った支えの重みを改めて感じた。孤独と不安が絡み合い、彼の心は深い闇に沈み込んでいった。

 気づいたら、かれこれ数時間が経っていた。


「もうやめたい……俺にはこんな試練、耐えられない……」


 心の中で何度も諦めの声が響く。ここで倒れてしまえば、全てが楽になるような気がした。何も考えず、ただこの場所で眠ってしまいたい――そんな思いが何度も頭をよぎる。


 しかし、その時、ふと目の前にポケットから落ちた何かが見えた。光る小さな石だった。それはリリスが旅の途中で見つけた特別な石。アレンに渡してくれた「守り」だった。


「リリスが……俺を守ってくれる」


 その石を手に取ると、リリスの顔が脳裏に浮かんだ。彼女の笑顔、信じていると言ってくれた言葉。その全てがアレンに力を与えた。


「諦めるわけにはいかない……リリスが待っているんだから……」


 アレンは深呼吸をし、もう一度立ち上がった。そして、自分を信じて、一歩を踏み出す勇気を振り絞った。守りたいという思い、リリスとの約束を胸に、再び歩みを進めた。

 今度は、感情に振り回されることなく、静かに集中し、自分の心に問いかけた。そしてついに、1つの道が淡い光を放ち始めたのだった。

 魔法の流れを可視化することによって魔力の流れる道ができあがったのだ。


「これが……正しい道か……よし、信じて進もう」


 迷いの間を抜けた後、アレンは次に鏡で覆われた部屋にたどり着いた。部屋の中央には巨大な鏡が立っており、彼の姿を映している。しかし、その鏡に映る姿はどこか歪んでいて、アレンの恐怖や不安が反映されているようだった。

 鏡に映る自分は、先程までの試練での疲労感で膝をつき目には無力で、絶望の色が宿っていた。脳裏には過去の後悔と失敗が映し出され、その全てがアレンに襲いかかるようだった。


「これは……俺の弱さを映しているのか」


 アレンは鏡の中の自分を見つめながら、胸の中で再び不安が広がっていくのを感じた。「俺は……本当にこれを乗り越えられるのか」

 鏡の中に映る自分の姿――それは無力で、何も変えられなかった自分そのものだった。村が襲われ、家族が目の前で奪われた時、自分は何もできなかった。その無力さが胸を締め付け、頭を埋め尽くすようにして恐怖が広がっていく。


「俺なんかに、何ができるっていうんだ……」


 その時、鏡の中から幻影が出現した。それはアレンの姿をしていたが、冷笑を浮かべ、彼を嘲笑っていた。


「お前に何ができる? また同じ過ちを繰り返すだけだ。誰も救えない、無力なままだ」


 その言葉に、アレンは心の底から恐怖と無力感に支配された。幻影が彼の周囲を囲み、重くのしかかってくる。


「やめろ……」


 アレンは震える手で剣を構えようとしたが、手は重く、体はまるで石のように動かない。


「どうして……どうして俺はこんなにも無力なんだ……」


 心は砕け、もう立ち上がることは不可能に思えた。その時、彼の耳に微かに響いた声があった。


「諦めちゃダメ、アレン。私は信じてる。君なら乗り越えられるはずだって」


 その声は小さかったが、確かな暖かさがあった。そうきっと待っててくれているリリスの声だった。アレンはゆっくりと顔を上げた。


 「たとえどんなに無力でも……俺は、リリスが信じてくれる限り、立ち上がらなきゃいけないんだ」

 

 そして彼は決心した。幻影に向かって剣を構え、恐怖を切り裂くように一歩を踏み出した。


 「俺は無力なんかじゃない! 俺は前に進む!」

 

 剣を振りかざし、幻影を切り裂くと、その瞬間、鏡は砕け散り、彼の前に新たな道が開かれた。

 次に辿り着いたのは、巨大な壁が立ちはだかる広間だった。その壁はまるで生きているかのように脈打ち、そこには無数の記憶が映し出されていた。アレンの目には、自分の家族が襲われたあの日の光景が映り込んでいた。


「これは……」


 目の前に広がるのは、家族が襲われた日の恐ろしい光景だった。家が燃え、家族の悲鳴が響き渡る。アレンはまるでその場に戻ったかのような錯覚に囚われ、全身が凍りつくような感覚に襲われた。彼はその場に立ち尽くし、ただ見ていることしかできなかった。


「どうして……またこの記憶が……」


 壁に映る家族の姿は、助けを求めてアレンに手を伸ばしている。だが、いくら手を伸ばしても、彼らに触れることはできなかった。その無力感がアレンの心を引き裂くように襲いかかる。


「俺には……何もできなかった……」


 家が襲われたあの日、アレンはまだ弱く、何も守れなかった。ただ家族が目の前で奪われるのを見ていることしかできなかった。それがどれほど恐ろしく、悔しく、心に傷を残したか。あの日の絶望が再び、全身に重くのしかかってきた。


「もうやめてくれ……これ以上見たくない……」


 アレンは両手で顔を覆い、その場に膝をついた。心はすでに砕けかけていた。家族の泣き叫ぶ声が耳にこだまし、彼を責め続ける。


「なぜ……どうして守れなかった……」


 その問いかけは、誰よりもアレン自身が抱き続けてきたものだった。自分の無力さを呪い、何度もあの日に戻ってやり直したいと願った。しかし現実は変わらず、彼はただ無力で、自分の過去に囚われていた。

 家族の姿が、壁に映し出されたまま消えない。アレンの心に、過去の苦しみが再び鮮明に刻み込まれていく。


 「俺は……また同じことを繰り返すのか? 守れないまま……大切な人を失うのか?」


 体は重く、全ての力が抜け落ちていく感覚だった。目の前の壁はあまりにも高く、彼にとっては絶対に乗り越えられないもののように見えた。


「俺は……無力だ……何も変えられない……」


 アレンは顔をうつむけ、両膝をついたまま涙をこぼした。心の中には深い虚無感が広がり、全てを放り出したくなる衝動に駆られた。壁に映る家族の姿が、彼の胸に突き刺さり、絶望に押しつぶされていく。

 その時、また彼の耳にかすかな声が聞こえた。


「諦めないで、アレン。君ならできる。私は信じているから……」


 リリスの声が、どこからともなく響いたように感じた。その言葉は小さくとも、なにか温かいものを再び絶望に打ちひしがれているアレンの心に注ぎ、彼の心の深い闇に光が差し込むようだった。


「リリス……」


 彼女の顔が脳裏に浮かび、彼女の笑顔がアレンの心に力を与えた。リリスはいつも、彼を信じてくれていた。彼がどんなに弱くても、どんなに失敗しても、彼女は決して彼を見捨てなかった。


「俺は……ここで諦めるわけにはいかない……リリスが俺を信じてくれているんだから……」


 アレンは震える体を何とか立ち上がらせようとした。しかし、足はまだ重く、立ち上がるのは容易ではなかった。心の中に再び過去の記憶が押し寄せ、再び彼を引きずり倒そうとする。


「ダメだ……俺は……」


 その瞬間、リリスが旅の途中で渡してくれた「守り」の石の感触が手に伝わった。彼はその石を握り締め、再びリリスの声を思い出した。「君ならできる。私は信じているから」


 アレンは再び深呼吸をし、両足に力を込めて立ち上がった。「リリスが信じてくれているなら、俺も自分を信じてみせる……!」

 

 過去の記憶に囚われたままでは、未来に進むことなどできない。家族を守れなかったこと、それは変えられない事実だ。しかし、それに囚われ続けている限り、アレンは何も守れないままだ。


「俺は過去に囚われない……失ったものは取り戻せないけど……これから先、守るんだ!」


 アレンは全ての力を振り絞り、目の前の壁に向かって拳を振り下ろした。その瞬間、壁は激しく揺れ、ひび割れが広がっていった。家族の幻影も次第に薄れていき、壁は徐々に崩れ始めた。


「未来のために、この壁を越えるんだ!」


 崩れゆく壁の向こうに新たな道が開かれた。アレンは涙を拭い、息を整えた。そして、深い決意を胸に再び歩みを進めた。過去に囚われるのではなく、未来に進むため。

 最後にたどり着いたのは、非常に神秘的で危険な雰囲気を醸し出す広間だった。そこには中央に古びた台座があり、その上には2つの水晶が光を放ちながら置かれていた。片方は冷たい青、もう片方は炎のような赤の輝きを持っている。

 突然、遺跡全体が震え始め、2つの水晶から声のようなものが響いた。「この試練では、自分を犠牲にするか、大切な人を犠牲にするかを選べ」


 アレンの心に重い選択が突きつけられた。彼は何度も水晶を見つめ、葛藤に苛まれた。「リリスを犠牲にするなんて、そんなことできない……でも、自分を犠牲にしてしまえば、彼女は一人で……」


 アレンは目を閉じ、深く息を吸い込んだ。リリスの笑顔、彼女と共に過ごした時間、そして彼女が自分にかけてくれた言葉。すべてが彼に答えを与えてくれた。そう。答えなんて決まっている。


「選ぶんじゃなくて、俺は全てを守り抜くんだ……!」


 アレンは両方の水晶に手をかざし、全ての魔力を注ぎ込んだ。その瞬間、激しい光が広間を包み込み、2つの水晶は音を立てて砕け散った。

 光が収まると、目の前に新たな道が開かれていた。アレンは額から汗を拭い、強い決意を胸に次の道へと足を踏み出した。


 試練の全てを乗り越えたアレンは、遺跡の奥深くにある神秘的な広間にたどり着いた。そこには、古代の魔法使いたちが遺したと思われる巨大な石碑が立ち、その周囲には古い文字が刻まれていた。

 アレンは石碑に手を当てた。その瞬間、体を包み込むように暖かな光が広がり、彼の心に新たな力が宿ったのを感じた。


「これは……新しい力……」


 その時、遺跡の外で待っていたリリスが門の開く音を聞き、振り返った。そこには疲れ果てながらも、自信に満ちた顔で戻ってくるアレンの姿があった。


「アレン……!」


 リリスは涙をこらえながらアレンに駆け寄った。「よくやったね、帰ってきてくれて本当に嬉しい」


 アレンは微笑み、リリスの手を取った。「リリス、君の支えがあったからこそ乗り越えられたよ。これで、俺たちはもっと強くなれる」


 二人は互いに微笑み合い、力強く手を握り合った。そして、その新たな力を糧に、さらなる冒険に立ち向かう準備が整ったのだ。

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