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第2話:新たな決意と試練

少々読みづらいとの感想があったので改善してみました。読みやすくなっただけでもいいので感想にいただけると……!!

 アレンは、朝の柔らかな光に包まれた山小屋のベッドで目を覚ました。窓から差し込む陽射しと、草原を渡る涼やかな風が部屋を満たしている。昨夜、リリスに聞いた「心の力を試す試練」という言葉が頭の中を占めていた。


「感情と向き合う訓練か…」

アレンは静かに呟いた。


 これまでの訓練は、剣術や魔法を中心としたもので、自分を守り、敵を倒すための技術を磨くことに集中していた。しかし、心の力とは一体何なのか、どうやって鍛えるのか。その答えはまだ見えていなかった。


 ドアがそっと開き、リリスが顔を覗かせた。朝の光を受けた彼女の笑顔は、いつものように柔らかく、どこか楽しそうだった。


「おはよう、アレン。今日は少し特別な訓練になるけど、準備はできてる」

リリスが優しく声をかける。


「ああ、準備ならできてる。でも、正直何をするのか全然想像がつかない」

アレンは軽く首を振りながら答えた。


「だよね。でも大丈夫だよ。私がちゃんとサポートするから」

リリスは安心させるように微笑みながら、部屋に入ってきた。


「今日は、君の心の中にある感情を見つけて、それを整理する訓練をしようと思うの」


「感情を整理する……」

アレンは眉をひそめ、困惑を隠せない。


「そうだよ。君の中には、怒りや悲しみ、色んな感情が渦巻いているはず。それを無視して力を使おうとすると、いつかその感情に振り回されてしまうの」

リリスはアレンの目を真っ直ぐに見つめて言った。


「だから、まずは自分の感情と向き合って、それを受け入れることから始めてみよう」


 アレンはその言葉に、心の中に小さな火が灯るのを感じた。これまで感情を抑え込んで力に変えようとしてきたが、リリスの言葉には説得力があった。


「わかった。君がそう言うなら、やってみる」

アレンは深く頷いた。


「よし、じゃあ早速始めよう」

リリスは嬉しそうに微笑み、アレンを外へと誘った。


 山小屋を出た二人は、草原を抜け、しばらく森の中を歩いていった。リリスは軽やかな足取りで、時折振り返りながらアレンに話しかける。


「ここから見える景色、素敵だよね」

リリスが指差した先には、小さな泉があった。澄んだ水が静かに湧き出し、その周囲には木々が影を落としている。


「確かに、静かでいい場所だ」

アレンは頷きながら辺りを見渡した。


「でも、ここで何をするんだ」


「ここはね、君が心の中の感情を見つめ直すのにぴったりな場所だと思うの」


リリスは泉のほとりに座り、アレンに隣に座るよう促した。


「さあ、まずは目を閉じて、深呼吸してみて」


 アレンはリリスの指示に従い、目を閉じて深く息を吸い込んだ。木々の間を通り抜ける風の音、水のせせらぎ、そして鳥の声が耳に届く。次第に、頭の中が静かになっていくのを感じた。


「そのままね。次に、君の心の中にある感情を探してみて。それが何であってもいいよ。怒りでも、悲しみでも、喜びでも、何でも」


リリスの声は穏やかでアレンの心に優しく響いた。


 アレンは静かに自分の心を見つめる。最初に浮かんできたのは、あの公爵への怒りだった。家族を奪われた悲しみと憎しみが、1つの大きな炎のように胸の中で燃え上がる。


「リリス……怒りが大きすぎて、それ以外のことが考えられない」

アレンは静かに言った。


「大丈夫だよ。その怒りをしっかり感じてみて。でも、その感情に飲み込まれないようにね。君の中の怒りは確かに強いけど、それが全てじゃないから」

リリスは優しく言い、アレンを励ました。


 アレンは怒りの奥にあるものを探ろうとした。次第に、そこに別の感情が隠れていることに気づいた。喪失感、無力感、そして家族を失った悲しみ。それらが複雑に絡み合い、胸の奥でくすぶっていた。


「リリス……俺は、家族を守れなかった」

アレンの声は震えていた。


「それが君の本当の気持ちなんだよ」

リリスはそっとアレンの肩に手を置き、静かに語りかける。


「その感情を否定しないで。ちゃんと受け止めてみて」


 アレンは深く息を吐き、リリスの言葉を胸に、心の中の感情を受け入れる努力を続けた。そして、次第にその感情が力ではなく、自分自身を形作る大切な一部であることに気づき始めた。

 訓練が終わり、二人は山小屋に戻って夕食をとった。リリスが作ったスープの香りが、部屋を優しく包み込む。アレンはスプーンを持ちながら、今日の訓練を振り返っていた。


「今日の訓練、どうだった」

リリスがアレンを見つめながら尋ねる。


「正直、難しかった。でも、君のおかげで少しだけ感情を整理できた気がする」

アレンは素直に答えた。


「それならよかった。君が前に進めたことが、私にとっても嬉しいよ」

リリスは柔らかく微笑んだ。


「ありがとう、リリス。君がいなかったら、きっとこんな風に考えることもできなかったと思う」

アレンは感謝の気持ちを込めて言った。


「うふふ、それなら私も頑張った甲斐があるよ」

リリスは照れくさそうに笑った。


 夜が更け、アレンは星空を見上げながらベッドに横たわっていた。今日の訓練で得たものを思い返しながら、これからの試練に向けて新たな決意を抱く。


「感情を力に変えるか……簡単ではないけど、やってみるしかない」

アレンは自分に言い聞かせるように呟いた。


 その言葉の裏には、リリスへの感謝と、これからの自分への期待が込められていた。そして、静かな夜の中で、アレンは再び目を閉じた。


 翌朝、リリスは再びアレンを訓練に誘った。今日は新しい段階に進むと言う。


「昨日は感情を見つめる訓練だったけど、今日はその感情を具体的にどう扱うかを学んでもらうよ」

リリスはいつもの優しい笑顔を浮かべながら、アレンを草原へと誘った。


 二人は草原の真ん中に立ち、リリスは杖を地面に軽く突き立てた。その瞬間、周囲に小さな光の玉が浮かび上がった。それはリリスの魔法によるもので、次第に形を変えて人の姿を模した幻影となった。


「これが今日の相手だよ。君が抱える感情を、この幻影を通して表現してみて。それが怒りでも悲しみでもいい。その感情を魔力として形にするんだ」

リリスは真剣な表情で言った。


「感情を形に……」

アレンはその言葉を繰り返し、幻影に目を向けた。


 幻影は無表情で立っているが、その存在感は不思議と圧倒的だった。アレンは目を閉じ、心の中にある感情を探り始めた。怒り、悲しみ、恐れ、それらが渦巻く中で彼は深く息を吸い込む。


「俺の感情を力に変える……やってみる」

アレンは静かに呟き、魔力を集中させた。


 アレンの手から小さな炎が生まれ、次第にその大きさを増していく。それは彼の心の中にある怒りが形となったものだった。炎は幻影に向かって放たれ、直撃した。だが、幻影はすぐに再生し、元の姿に戻った。

「すごいよ、アレン。その炎は君の怒りが力になった証拠だね。でも、次はもっと穏やかな感情を試してみようか」リリスは微笑みながら提案した。


「穏やかな感情……」

アレンは驚いたようにリリスを見つめた。


「俺の中にそんなものがあるのか」

「あるよ、絶対に。君が家族を大切に思っていた気持ちや、誰かを守りたいと思う気持ち。それも立派な感情だよ」

リリスはアレンに歩み寄り、静かに言った。


 アレンは再び目を閉じ、心の中を探り始めた。これまで、怒りや悲しみばかりが自分を支配していると思っていたが、その奥には確かに家族を守りたかったという強い思いがあった。それは暖かく、静かな光のような感情だった。


 その感情に意識を集中すると、アレンの手のひらに小さな光が生まれた。その光は穏やかに揺れながらも、強い輝きを放っている。


「それが君の優しさや守りたいという気持ちだよ。それを力に変えることで、もっと安定した魔力を使えるようになるはず」

リリスはその光を見つめながら、嬉しそうに頷いた。


 アレンはその光を幻影に向かって放った。光は静かに幻影を包み込み、消し去った。これまでの怒りの炎とは異なる感覚に、アレンは少し驚きを覚えた。


「こんな方法があるなんて……」

アレンは呟きながら、手のひらを見つめた。


「そうだよ。感情を力に変える方法は1つじゃないの。君の中にある様々な感情を知ることで、それをどう使うか選べるようになるんだよ」

リリスは柔らかく微笑んだ。


 訓練を終えた二人は山小屋に戻り、夕食を共にした。今日の訓練で学んだことを振り返りながら、アレンはリリスに感謝の言葉を伝えた。


「リリス、ありがとう。君のおかげで少しずつだけど、前に進めている気がする」


「どういたしまして。アレンが成長していく姿を見られるのが、私にとっても嬉しいんだよ」

リリスは照れたように笑いながら答えた。


 その夜、アレンはベッドに横たわりながら、また今日の訓練を思い返していた。怒りや悲しみだけでなく、優しさや守りたいという感情も自分の力にできると知ったことは、彼にとって大きな収穫だった。


「感情を力に変える……それができれば、俺はもっと強くなれる」

アレンは静かに呟き、決意を新たにした。


 窓の外には満天の星空が広がっている。その光を見つめながら、アレンは再び目を閉じた。


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