序章：冤罪と追放
――深い闇がアレン・フェルストの心を覆っていた。だが、その闇がすべてを飲み込むわけではなかった。あの時、彼はまだ希望を持っていた。家族と共に歩んできた日々、名門フェルスト家の誇り、高貴なる血統。しかし、そのすべてが一夜にして崩れ去った。
「アレン・フェルスト、お前は父親を殺した罪で、即刻処罰されるべきだ」
その声は、アレンがかつて尊敬していた公爵、レオナルド・グレイヴのものであった。貴族社会の頂点に君臨する彼の言葉は、決して疑うことなく、すべての者を黙らせた。
だが、それは真実ではなかった。アレンの父、フェリックス・フェルストは、ある夜、公爵と激しく争っていた。公爵は言った、「父上が私を裏切ろうとした」と。しかし、実際にはそれは公爵の策略で、フェリックスの死は、彼が公爵に逆らうことを決意したからに過ぎなかった。
アレンは、それを知っていた。だが、彼はその事実を証明する術を持たなかった。すべてはあまりにも巧妙に仕組まれていた。公爵の命令で、家族は次々と逮捕され、証拠も何もかもが歪められていった。最終的に、アレンの家族は冤罪で死刑にされた。公爵の手によって。
「アレン・フェルスト、お前に対する罪は確定した。処刑を免れることはできない」
その言葉が響いた瞬間、アレンは全身を震わせた。だが、命を奪われることよりも、家族を失ったことが、彼の胸に重くのしかかった。
それからの記憶は、あまりにも早く過ぎ去った。アレンは捕えられ貴族としての地位も、名誉も、すべてを奪われ、ただ一人監獄の中に閉じ込められた。だが、彼の心には深い憎しみが生まれた。あの公爵に、家族を奪われたその痛みが、怒りとなって彼を包み込んだ。
死を覚悟した彼を救ったのは、運命だった。ある夜、監獄の扉が音を立てて開かれる。目の前に現れたのは、身分を隠した魔法使いの男だった。
「お前を逃がす。だが、これはお前に課せられた試練だ。復讐する力を、私は与える」
その言葉は、アレンにとって全ての運命を変えるものだった。彼はその男の手引きで、監獄から逃げ出し、異国の地で新たな生活を始めることとなる。
逃げるように生きる中で、アレンは自分の力を取り戻す決意を固める。魔法の力、剣術、そして鍛冶の技術を学ぶことが、彼にとっての唯一の生きる意味となった。家族を殺した公爵に対する復讐、それが彼の心を支える唯一の希望となる。
その日から、アレンは誓った――。
「必ず、あの公爵に復讐を果たし、すべてを取り戻す」
だが、それには膨大な力と時間が必要だった。最初の一歩を踏み出すために、アレンは絶望の淵から這い上がり、魔法と鍛冶の技を身につけ、力をつけていく。彼の未来に待ち受けるのは、ただ復讐だけではない。愛、友情、そして何よりも――自分自身の誇りを取り戻すための戦いが始まるのだった。
