転生したが「ヒーロー役実はカスじゃない?」と気づいた悪役令嬢、カスを逆手にとってヒーロー役を煽ててみた
カメリアという少女がいる。
彼女はコッテコテの転生悪役令嬢だ。
天涯孤独の身の上の前世の彼女は、ブラック企業でこき使われて体調を崩してそのまま世界からドロップアウトした。…と、思ったらなろう系小説の悪役令嬢になってた。なんでや。
とはいえカメリアは、であれば悪役令嬢ルートを回避せねばと頭を回した。
小説の設定を事細かくノートにまとめる。
「えーと、ここは獣人の国で主要人物は全員獣人。獣人には運命の番と呼ばれる存在がいる。運命の番とは奇跡的なレベルで相性のいい相手であり、しかし出会えるのも奇跡的な確率なので『運命』の番。出会える確率は限りなく低いので、人々は運命の番との出会いを待たず恋愛して結婚。あるいは生まれながらの婚約者を持ったりする。でも婚約者がいても、結婚してても、運命の番と奇跡が起きて出会ってしまうと基本そっち優先…なにこの設定、クソじゃない」
出来上がったノートを途中まで読み上げて、悪態を吐くカメリア。
うん、まあ、クソだよね。妻子がいても婚約者がいても、運命と出会えばそっち優先とか反吐がでるのもまあわかる、うん。
「…ヒロインは平民の女、ステラ。孤児院育ち…まあ、だから私この小説読み始めたのよね、うん。で、運命の番であるロレンツォ…公爵令息で私の婚約者…と出会い恋に落ちると」
読んでた時はときめいていたが、悪役令嬢側になると傍迷惑な話である。
「ロレンツォは悪役令嬢のことは印象が悪いのよね。スペックが高い代わりにプライドエベレスト級な男だから、同じくスペックが高いカメリアが邪魔なのよね…あれ?このヒーロー役カスじゃない?」
プライドエベレスト級のカスが相手となると打つ手はあるがクソ面倒になる。
「まあ、とりあえず…それで、ロレンツォはステラを理由に婚約破棄を申し出る。カメリアはカメリアであのヒーロー役にある意味お似合いの『スペックが高いプライドエベレスト級のカス』なのでステラを虐めて、それを断罪されることとなる。運命の番に出会えた二人を元カノが攻撃するのはこの世界ではご法度だから、伯爵家の娘という立場であるカメリアは散々な目にあう」
なるほど、なるほど。
肝が分かればなんてことないはず。
カメリアは悪役令嬢ルートを避ける作戦をノートに新たにまとめた。
「まず第一に、私はプライドを捨てる。そして『スペックの低い且つ自分のプライドを気にしない』女の子になる」
これはロレンツォに憎まれるのを阻止するためだ。伯爵令嬢としてはダメダメな子になるが、そもそも公爵家の後継に伯爵の娘を嫁がせるという婚約を成立させた奴が悪い、知らん。
「そして次に、ロレンツォを立てまくる。陰になり日向になり支え、煽て、心から愛しているフリをする」
ここまですればプライドエベレスト級のカスの心は動かせるだろう。
「最後に。二人が出会ったら即座に、悲しそうにでも潔く身を引く。そしてその後本当の私をお披露目して知識チートで成り上がりでもなんでもして、こっちはこっちで幸せになってあちらには関わらない…うん!完璧な作戦!」
完璧だろうか。一つボタンを掛け違えたら面倒に面倒が重なる作戦ではなかろうか。
「まだロレンツォと出会う前に前世を思い出してよかったぁ!!!だめな子になーろおっと」
変な作戦をさっそく決行したカメリア。まだ三歳時点で前世を思い出したおかげで、家族から怪しまれるでもなく『ドジっ子』『ど天然』なカメリアになることができたのだった。
そして七歳。見事に『ドジっ子』『ど天然』『お勉強は平均的だが不器用』『でも自然と人に好かれる』という属性を得たカメリア。
なお自然と人に好かれるの部分は目下の者に優しく寛容で感謝を欠かさないというのを徹底した結果なので、自然でもなんでもない。目上の者への媚ももちろん忘れていない。
「はじめまして、僕の婚約者さん」
にっこり微笑むロレンツォ。
彼は彼で、優しい微笑みの下に下卑た本性を隠していた。
自分でも気づいていないが、カメリアの評判を聞いてこいつは格下だと認定したロレンツォ。
だからこそカメリアに優しく接することが出来るのだ。
「は、はじめましてっ、ひゃ、舌噛んだっ」
「大丈夫かい?落ち着いて、痛くない?」
「痛いけど…だ、大丈夫、です、ごめんなさい、ロレンツォ様…」
ウルウルと目を潤ませるカメリアに、ロレンツォは悦に浸る。
このダメさ加減がすごくいい。
「謝らなくていいよ。ほら、僕の魔術で癒してあげる」
優しく声をかけて、治癒魔術を施す。
そんなロレンツォをカメリアは憧れの目で見つめる。
「すごい…痛くない…!ロレンツォ様は、とってもとってもすごいです…!」
この年齢で治癒魔術を習得したのは、偏にロレンツォの才能。
普通この年頃の子供はまだ魔力の調整すら難しいのだ。
「そんなことないさ。僕はそんな大それたことはしていないよ」
そんなことを言いつつも、心の中でカメリアの『よいしょ』を心地よく受け取るロレンツォ。
ロレンツォは、格下の相手に対して王子様プレイをするのが好きなある意味ヤベェ男なのだ。
だからこそ運命の番が平民であった原作でも、平民である相手を快く迎え入れていたのだ。
その本質は変えられない。
だからこそそれを突いたカメリアの作戦は、見事に彼にハマったのである。
「貴方は…」
「君は…」
やがて時が過ぎ、カメリアが十八歳となったこの日。
皮肉にも、ロレンツォとステラが運命の出会いを果たした。
これは原作通り、である。
「やっと…運命の番に会えた…!」
ロレンツォがカメリアの誕生日を祝いに行くための移動中、ちょっと立ち寄った店で店番中のステラと出会ったのだ。
が、ロレンツォの対応は冷たいモノだった。
「ああ、何を興奮してるのか知らないが悪いね。僕には愛する婚約者がいるから君とは結ばれる気はないよ」
「え?」
「僕の婚約者は伯爵家の娘。君は平民。どちらを選ぶかなんて明白だろう?」
「そんなっ…」
「それに、僕の婚約者は僕が大好き過ぎる子で且つおっちょこちょいだ。僕があの子の手を離したら、彼女は生きてはいけないだろう。だから君とは無理。ごめんね?」
…カメリアにとって良いか悪いかは置いておいて。
カメリアのロレンツォに対する作戦は非常に上手くいっていた。
『ダメな子』なカメリアが『自分に尽くし』『自分を愛し』『自分を褒めちぎってくれる』という最高に気持ちのいい環境を享受してきたロレンツォ。
しかもカメリアは『顔もスタイルもいい』から『多少ダメな子でもそばに置く分には様になる』ということで、ロレンツォはカメリアが大大大大好きになっていた。
いつのまにかロレンツォのカメリアへの想いは、打算を伴うけれどもその分とても大きな愛になっていた。
『あの子は僕がいないと生きていけない』という、完全なる驕りなのだが…そういう自信もカメリアへの愛を補強する。
カメリアの大誤算である。
「じゃあ、この出会いは忘れてくれ。さようなら」
「あ、あ、まって、私の運命の人…!!!」
こうしてステラは、せっかくの運命の番との出会いをなかったことにされてしまった。
一番の被害者は彼女だろう。
だが、そんなことカメリアにとっては知ったこっちゃないのだ。
「カメリア、お誕生日おめでとう」
「ロレンツォ様!ありがとうございます!」
カメリアはロレンツォが現れて驚いたものの、笑顔を瞬時に作ってお礼を言う。
だが内心焦っていた。
運命の番と出会ってイチャイチャしてこないはずの彼が来たから。
「ところであの…」
「ん?」
「運命の番と出会ったとお聞きしました」
「…!どうして」
情報の伝達が早すぎる。ロレンツォは驚愕したが、人の噂に戸は立てられないのでこれも仕方がないかと切り替える。
「たしかに、僕は運命の番と出会ったよ」
「では…」
「だけど、お相手にお断りをしたんだ」
「え?」
「だって、僕がいないと君は生きていけないだろう?」
…カメリアは、ステラとロレンツォが出会ったら身を引く気でいた。
つまり、こうなってしまうとここからノープランだ。
自分の大誤算に気付いた彼女は頭を回す。
どうしようか考えて、そして。
「いえ…ロレンツォ様には幸せになっていただきたいです。だから私は身を引きます」
「僕の幸せは君だ」
「そんなことをおっしゃらないで、どうか運命の番の元へ…」
「それでも僕は君がいい」
「…ごめんなさいっ」
辛いけど身を引きますオーラを全開にして被害者ぶって、なんとか婚約破棄なり解消なり白紙化なりをもぎ取ろうとするカメリアvsなんとかそんな婚約者を引き止めたいロレンツォの戦いが始まることとなった。
ちなみにこの戦いは数年続き、ロレンツォの勝利となる。
が、その時にはカメリアが自分を偽らずともラブラブなカップルになっているので、カメリアにとってもアリな結末となったのだった。
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