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7歳になり、やっと関門海峡にめどが立つようなところまで来た。九州はここまでなので最終決戦となる。勢力の存亡をかけた一大決戦となる。ただもうここまでくるまでに相手勢力は衰えているので3倍の兵力さがあり、かつ武器防具が桁違いだ。
僕は盾を持つ部隊は発展の遅れた部隊だとは単純には思わない。1つは遅れてる面として過渡期においてやはり十分に訓練されてない兵隊は防御を高くしてやった方が良い。ただファランクスを組むような集団は臆病であっては困るんだ。この辺りが難しい…。盾を持つ部隊は戦闘慣れしてない農民兵が望ましいが、前線で相手を真っ先に迎え撃つ盾持ち集団は精鋭じゃないと務まらない。
一番重要なのは、騎馬のほとんどをこっちが握ってる点。重い盾の部隊はどうしても機動力に欠ける。最大の問題が騎馬戦闘がその後の時代に増えていくことだ。盾よりも長い槍を盾にするって方が理にかなってる。戦国時代も生き残り続ける盾持ち部隊は弓への対応が大きい。機動力の高い戦いが進んでいくと今後はそういうカタチで残っていくだろうからまあ問題はないだろう。
まずは弩弓の混成部隊がわんさか弓の雨を降らせる。もうこの時点で大勢は決まってしまっている。ここまでじっくり戦いを重ねてきたため弓の練度が高く、それを補う数の弩の量が全く違う。次に中央の盾持ちファランクスを押し上げていく。農民の長やり部隊は盾を持たない分の機動力を生かして側面を補うように進行する。
後槍の長さに長槍としての統一性を持ってない混成部隊は徹底した側面防御に回す。この部隊はこれまでの経験と練度の高い専門兵士で構成されていて、当然狙ってくるやり部隊の側面防御に活動してもらう。
後騎馬による刀部隊はあくまで防御のためで今回は戦場の把握のために動いてもらってる。いずれは馬は敵勢力にも広がっていくだろうからその時は相手の馬を攻撃するために役に立つはずである。うろちょろ都合の良い位置に動かれては困る。残りの騎馬はすべて弓部隊にする。弓部隊は2タイプに分ける。止まって打つ鎌倉武士のようなロングボウ部隊と、ある程度近づいて走り抜けるモンゴル軍のような短弓部隊になる。
短弓部隊は相手の前線の歩兵への側面攻撃になる。長弓部隊は相手の弓兵を都合の良い位置とアウトレンジからの一方的な攻撃により減らすことと、弓部隊を都合の良い位置につかせない。これらを事を父上と爺様が良く呑み込んでくれたと思う。僕が直接指揮できればいいいが、7歳に無理させんなとも言いたい。
戦闘はびっくりするほど何事もなく終わったそうだ。その理由もある。まず戦う前から勝敗が決まっていたから。最初からずっと戦力差があり、一部の部隊は専門兵士であるため2年間ずっと戦っていた。境界こぜりあいでの嫌がらせをずっと続けてきた。そして大部隊での性急な攻撃はしないでひたすらちまちま相手の数をけずり支配地域を減らしていった。
桶狭間での今川軍最大の失敗はこれだと思う。何故今川義元ほどの巧者があんな失敗をしたのか?でおそらく信長のほぼ尾張統一を危険視したんだと思う。じわじわ行く形では力をつけてしまうのではないか?その危惧があったためだと見える。それなら義元は決して油断してではない。難しい局面だったんだと思う。
それでもじわじわ行くべきだったと思う。てんびんのはかり間違いは優秀な指揮官でもいくらでも間違いを起こす。相手が尾張の信長じゃないし、最初から長期計画だと考えてるので焦る理由が全くない。
近畿の情勢が分かってきた。爺様たちと会議だ。
「父上大王に近づくことはできそうです」
「どうするんだ」
「これは爺様がやってほしいのですが、父上は統括として全体を見るようなことで良いかと。爺様に専門に大王への対応をお願いしたいのです。ただ爺様にあちらにいけとはさすがに言えません。誰か父上の弟たちを向かわせてもらえないかと、僕が生きていれば適任だったと自分でも思うのですけどね…。爺様が連中に取り込まれないように監視してほしいんです」
「じゃいちいちこっちとやり取りするのか?」
「あんまり細かくはしなくていいです。近づく方法から言うとまず独立してあちら側につくのは不可能だと思います。様々な交易品や半島の先端技術の提供って形にすれば多分重視されるが、完全には取り込めないとなります。それに完全に囲ってしまったら意味が無いんですよ」
「われらが半島に近い位置にいるのが根本だからだな?」
「そういう事です。こっちにいろいろ残しておかないといろいろと大王側に渡せなくなるからです。おそらくあちらもそれについてすぐに気が付くでしょう。ただ将来的にはこれではだめです。大王が直轄でこの地域を支配しようとするはずです。それゆえ相手に突きつけるような武力があっちにも必要になります。これがかなり難しいです。どう考えても分家裏切りますよね」
「現地で食い物だけ作らせて、後はこっちで握るようにすればなんとかならないか?」
「それは良いですね。ではこれ進めてしまいましょう。後ですね、今後3女神のうんたらは秘密にしていきたいと思います」
「何故だ?」
「安っぽいからですよ。あれもこれも恵みではありがたみが無い。それでね、これらの知恵は3女神の恵みを受けたわれら一族の秘伝の書の蓄積だとするんですよ。以前から僕が考えている。力富知、これを明確に我が家の家訓にしてほしいと思っています。知にいよいよ手を付ける段階に来たと思っています。その大きな柱が恵みの書というものにしていこうかと思います」
「膨大な知を蓄積していく専門の部署が欲しいなと思ってて、作ってもらえないでしょうか?」
「徳丸を通した恵みじゃなくていいと言うのか?」
「はい、逆にその書とそれらをさらに磨いていく専門の知的集団にその名誉を全部与えたいです。どのみち僕が生きてる間はこの部署は僕が育てるので彼らの敬意があればそれでいいです。皆にはその部署こそがあがめられるようになってほしいです」
大筋を付けたため、やっと知について取り掛かる事ができた。そういえば重要なことで、おそらく今弥生時代から古墳時代へ移るあたりか?と考えられる。大王家が近畿にいるらしいのは分かってる。
知は単なる僕の恵みを伝える事や、情報の羅列ではない。僕はこの部署を科学者集団にするつもりだ。古墳時代に科学者?無理だろ?ププってものだろう。でも科学ってそう難しいものじゃない。ポイントを押さえてじわりじわりと洗練させていけばいい。そもそも科学自体もじわじわと洗練されていったもので、いきなり現代科学万歳にしたいわけじゃない。
じゃ何故今まで発展しなかったか?で決して歴史の積み重ねが必要だったと思わない。根本の発想が中々生まれなかったのが原因で、ここさえ教えればただのどの時代でもある教育と変わらない。これまでの戦争で兵士が死んだ家の母親がいるなら一緒に子供を引き取って、両親ともにいない孤児を集めた。
家で余計な事言われるのが面倒なんだ。配下のモノでそれなりの数僕を崇拝してるものがいる。爺様と父がそう仕向けたからで、かつ僕は徳丸なんだ。神童と言われて皆の注目を集めた徳丸に匹敵するって父や爺が皆に触れ回ってる。そういったものの中の次男3男を預かって教育する。
とりあえずは10人ほどからスタートしようかと、毎年増やしていけばかなりの知的集団が出来上がるはずだ。これ以上は僕が疲れる…。
「これから教えることは多分古今東西どこにもない話だと思う。だからって難解だというわけじゃない。できる限り今まで知ってることを忘れて覚えてほしい。例えば、ある草が毒だと教えられる。これをうのみにするんじゃなくて、確かめてほしい」
「それ毒を飲むという事ですか?」
「うーん、方法は他にもあるとは思う。手っ取り早いのはそれになる。世の中のこの手の知恵でその通りだという事もあるが、かなりのものが間違いってのが多い。じゃ何故正されないのか?一番簡単な飲んで確かめるってやらないから。僕もそれはお勧めしない。例えば犬などにも同様に聞くなら犬のえさに混ぜて試してもいいかもしれない」
「酷いじゃないですか?」
「じゃネズミならどうだろうか?そうやって酷くないのも探してみるのもいいし。犬ぐらいならってのもありじゃないか?と僕は思う。人に試すのだって死罪の罪人とかなら問題ないのじゃないの?」
「なるほど」
「大事なことはそこじゃない、世の中のこういった昔ながらの知恵と言うのが嘘が本当に多い。だが嘘ばかりなら誰も信じない。ちょこちょこ混ざってるがそれを確認する人が居ないんだ。この確認作業を積み重ねていくと、今までにない考え方の始まりとなる。僕が何故こういう事を知ってるか?と言うとそれがこれだ」
僕は恵みの書を見せた。
「我が家は様々な発展をしてるがそれは我が家が代々知恵を書き溜めてきたからだ。その知恵からすると世の中にはおかしな話に溢れてる。当然に疑問になるのは、その書は間違ってないのか?になる。だから君たちはこの書も確認するような姿勢が必要になるんだ。当然この書だけを調べるわけじゃない。大陸には様々な知恵が大量にある。それらも間違った情報が大量にある」
「だけど多くの人は大陸の正しい知恵に惑わされて間違った知恵を確認せずに、大陸で生み出されたものだからとして確認をしない。それがいずれ大きな問題になってくる。そして確認された知恵は新たなに恵みの書に追加していくとここで述べておく。君たちにやってほしいことは大体これで分かったと思う」
「あれれ僕たちは何か教えてもらうわけじゃないのですか?」
「ああ教えるよ。ただ将来的にはこの初期のものたちが次の者たちに教えていくことになるので、この根幹の考えはやりながら覚えていくんだ。本当は頭ごなしに教えることもできる。だがそうすると多分理解できない。この時代のもっともすぐれた知性の持ち主より僕はありがたい教えを伝えることができる自信がある」
「だが君たちは僕とそう変わらない年齢だ。立派な顔つきをした大人に言われたらそっちを多分信じてしまうだろう。だから僕が多くの書を読んで騙されたという気持ちを共有出来たら、立派な顔つきの大人たちに騙されることはなくなると思ってる」
「一つ重要な話をするけど、なんでも疑えじゃない。そもそも僕のような発想が何故今まで出てこなかったか?で、大半のこういう疑い深い人間はアホが多い。僕は一言も、偉い人達はすべて嘘を言ってるとは言ってない。正しい役に立つことも大量に伝えている。ただその中に嘘っぱちのでたらめが混じってるが、それを確認する人が現れなかっただけなんだ」
「じゃそろそろ教えの方に入るよ。イドラについて話そうと思う。これから慣れてほしいけど、新しい考えには新しい言葉があった方が良い。僕はそこであたらしい秘密の言語を君たちに伝える」
僕は50音プラス当時ちょっと数が多かった音に対応したひらがなとカタカナを教えた。
「あいうえお」
「こうやって言うんだよ。文字を知らない子もいると思うけど、中華の言葉は漢字と言うんだけど、いちいち意味を当てはめないといけない。これはかなり面倒。だから日本は日本で独自の音だけ表す言葉を作ってしまえばいいのじゃないの?と考えたわけだよ。それにここで教えることは多分この先とんでもないことを巻き起こす」
「僕がその一端を皆に見せてきたと思う。だから他勢力に盗まれないように独自の言語にするってのは理にかなってて、かつ倭国と漢字の相性の悪い部分も補える。漢字も覚えていくけど、それはおいおい覚えていけばいいよ。これらの文字は漢字を基に作ってるので、漢字を排除するわけじゃない。音を漢字に当てはめるのも倭国の人間が中華に行ったときに記されるもので名前にはある。ただそれは書くのが面倒なので簡便なものにしたと思えばいいよ」
「じゃ僕らは読み書きを外では使えないのですか?」
「漢字も教えるのでそれで覚えていけばいいよ。そもそもあれ人によっては倭国訛りになってるから読み書きしかできないから会話できない。まあうちにも交易で使うので、あっちの発音のまま言える人もいるようだけどね。僕も覚えるから皆もおいおい覚えていこう」
ついでに同じようにアラビア数字も教えた。そして対応する漢字も教えておいた。
「ええーとさ、外で使えないって気にしてるけど、これ僕秘術を押してるんだからね?君たちその辺り勘違いしてるよ。君たちを教えるのに我が家が生活のもろもろを助けるんだけど、それは善意じゃないんだよ。我が家に役に立ってもらいたいんだ。外のための言語としては使えない。だから何?秘術を漏らしたいの?そりゃ恩知らずだね…」
「すみませんでした」
「僕もあまりに他で教えるのと違いすぎて困るとは思ってるから。孤児の子たちが多いのは他の人間の教えてってほとんど頼りにしてないからね。だから真っ白な頭の方が良いんだよ。それにね僕は世の中変えるぐらいのとんでもないことになると思ってる。僕はいずれこの秘術の言語が倭国の共通の言葉になると思ってる。法螺話だと思うでしょ?それは君たちにかかってるし、僕は仲の良い勢力などに小出しにして外に出していこうとはいずれ思ってる」
「んじゃ行ってみようか、イドラは4つある。1つは人が抱えるイドラ。人なら誰しも似たような見方をしてしまう。これによって生じる誤謬だね。具体的には」
絵を見せ錯覚の話をした。
「間違いを最初から知っていれば、絶対に人である限り間違えることも対処できる。次に洞窟のイドラ。これは個人の無知がもたらすもので、まるで洞窟の中に閉じこもって育ってしまったという意味なんだ。これは具体的に説明しにくいね。意味自体は分かると思うから、そういった愚か者に出会ったら思い出すと良いよ」
「3つ目は、噂によるイドラ。これは多くの人が広めた話が実際てんでまがい物だって話。でも人はそれに右往左往する。まこれは別に複数の人じゃなくてもいい、たった一人でも伝え聞いた言葉で嘘八百のいい加減なことをまき散らすものはいるからね。最後に偉い人達がもたらすイドラね。これは先ほど話したと思う」
「とにかくまず疑ってみるですか?」
「そうだね。緊急性を要するときにいちいち疑っていたら決断が遅れる。だから十分な時間のある時、世の中の言及はいろいろ嘘が多いから確認しましょうとなるんだよ。余裕のある時にやっておかないと、緊急時嘘八百な話を基に判断しなくちゃいけない事態に陥る。後何度も言ってるが、これらが誰しも重視する姿勢にならなかったのは、偉い人立派な人は、正しいことも同時にきちんと伝えてるんだよ。んで頭の悪いやつほどなんでもけちつけて偉い人を見下すんだ」
「さて君たちにとても重要な事を教える。確認できないことはどうするの?まずは工夫する。でもねこれは確かめる方法を考える前にまずいんじゃない?ってのがあるんだよ。人が死んだらどうなるのか?これは確認できない問題だと思った方が良いよ。後神様はいるのか?とかね。予言しておくよ1000年たってもこれを確認する良い方法見つからないから」
「今日最後に重要な事を話すけど、今後のためにこの部署が役に立つのを示さないといけない。僕は我が家の財力でなんとかなると思ってる。かなり先に役に立つのは分かってる。でもね、それ以外の人はおそらくケチをつけるんだよね。だから船や航海、農作物に直結するとか、武器に直結するものが良いよ」
「例えばね、将来あまりに長い航海の中で特殊な栄養不足に陥って病気になる。これをね船乗りが、嘘八百でこうすれば問題ないとか言ってくると思う。これ確認するの役に立つと思わない?僕は恵みの書から解決方法知ってるけどね。探せばいくらでもあるから。ただ気を付けないとかなり怒らせることになるので、本当に重要だと思ったら、僕には話して、父や爺様に頼んでみるから」
「ハイ分かりました」