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 また僧とはなしをした。


「小乗の人に聞きたいのですが、般若心教って仏陀がこういったとかありますが、あれ違いますよね?」


「ええ違います。あれは私もおかしいなと思っています」


「読んでるんですね…」


「昔は小乗側も反論とかしてましたからね。すっかり規模が小さくなってしまってそういうのは減りましたけどね。その関係で一応すべての小乗の僧ではないですが私は読みました」


 大乗側が、


「あれは良いんですよ。初期仏教への否定的な姿勢が根底にあります。仏陀もこう言いたいだろうなと言う代弁です」


「そりゃ捏造じゃないんですか?」


「いえいえ、話者が仏陀ならこういうだろうと考えた仏教への理解ですよ。それを捻じ曲げてるのは初期仏教の流れをくむ小乗の人たちです」


「なんか両者ともごめんなさい。僕の疑問が解けたってだけでやめておきましょう。もう何十年もこんな事やってるんですよね…」


「「ええ…」」


 仏教頑張ろうと思ってたが嫌になってきた。大乗が新しい解釈をしたのは確かだが、残ってる古い話集も仏陀のいう事を一字一句伝えてるか?と言うと、単語の選び方など仏教組織の解釈が多分に入ってる。だって口伝によるものだから仕方ない。密教化を何かこれ違うのじゃない?これは確実に言えるだろう。


 だが、竜樹と仏陀の違いは無理だ。違いが分かるのは竜樹と過去の仏教組織の解釈となる。それなら後者も疑わしい連中だから。分かりやすい物もあるが、難解極まりないものも初期仏教から溢れてる。竜樹の失敗だけは分かるが、だからと言って仏陀も面倒な事してないか?というと結構やってる。


 竜樹の失敗は、全く別の思想集団の実在論に仏教の見地から答えてしまったらそりゃ駄目だ。インドは根本的にギリシャと思想が似てる部分がある。そのため欧州的がちがちの実在論みたいのと向き合ったわけだ。こんなのに反論したら不味いよ。竜樹は空説を理論家して空論にしたと見られてるが、やっぱ反論のために理論化したってのが不味い。


 だが、そもそもそれが可能なの?が疑わしい。それを検証するには組織の見解も混じった過去の仏陀の説話集からでは苦しすぎる。


 信仰はローカライズされるべきだと思ってる。だが初期の仏教は明らかに信仰ではない。多分仏陀の言う帰依は神への信仰とは違う。仏教はわけのわからん地元信仰のローカライズは良くない…。おかしいなと思っても1500年近くたつともうどうにもならないんだ。


 ゴムの種がいくつか芽が出た。ただ挿し木でも増えるのが意外だった。念のため、数本だけ嵩張るが、挿し木状態のものを持ってきてもらって船で挿しておいた。この根が生えた。保険ってかけておくべきだよな。発芽したから良いじゃんとならない。何故なら、これその後枯れたって話がちょくちょくあるから。挿し木の方が簡単と知識があって保険かけておいてよかった。


 再び僧たちと語り合う。無駄だと思ってるんだけど両者で共通する部分もあるからな。


「以前は言いすぎた捏造は言いすぎだね。古い文献も仏教組織の人たちの解釈が混じって当然だと思う。その点では同列の部分もある」


「おお分かってもらいましたか」


「でもね、古い文献の伝えた人は明確に解釈を加えたとは言ってないんだよ。それに対して君たちはそれを組織の軸にしてるからね。これは大きな違いだよ。君たちはこれを否定は絶対できない。何故なら過去の言葉足らずを強化したと自負してるからだ」


「そうですね、違いがあるのは確かです。そしてその違いこそがおっしゃられる通り自負するものなので否定するものではありません」


「仏陀がアートマン説の否定したのは大乗小乗も多分一致してると思う」


「「そうです」」


「問題は2つある。アートマン自体の否定と、これに絡む我を超えた実在する物への否定。ただね、竜樹は中観を軸にしてる。有と無って見方は龍樹らしくない。そのため有の否定である無ではなく空になったと見てる。だから実在するという理屈への否定こそが空なのじゃないか?と見てるんだ」


「そうそう」


 大乗の人が答えた。


「でもね、縁起からそれが導かれるってのは、万物の実体そのものも空と言ってしまってる。論の否定だけじゃない。それに対して仏陀はこれ言葉を意図的に足らずにしてると見てる」


「え?」


「そうなるよね、だってきちんと精緻化した龍樹の論の方がすっきりしてるもんね。仏陀の真意は分からんよ。ただ事実として言葉足らずで残ってしまった。弟子が意図的に排除したのか?いや弟子なら君たちが龍樹に感じてるように精緻なものがあれば残したくなるだろう。最初に僕が指摘した通り、経験に即した論を語る仏陀に対して、竜樹は思弁が過ぎる。考えに考えを重ねすぎ」

「中観を重視する龍樹らしくない。そこで前言った異教の論者にまともに返すからこうなるんだという話になる。それは仏陀もバラモンにやっただろう?ここだ、僕は仏陀はアートマン説の否定はしたが、実体自体に対しては自説を垂れ流しただけで反論はおそらくしてない」

「じゃ龍樹は間違えたのか?と言うとそうじゃない。時代が違うんだ。僕は君たちが驕ってるとは見てない。ただ、精緻な議論を突き重ねてきた歴史からくる自信はあると思う。そして実体論者も当然そうやってつみ重なっていく。この先に彼らを言いまかすには、仏陀の言葉足らずじゃ無理なんだ」


「そうです」


「経験を土台にした論の構築からこれは離れてる危険があると見てる。そして仏陀はそれを危惧して言葉足らずにしたと見てる。君たちはそれを足りなかった部分を強化したと見てるが僕はやりすぎたと見てる。ただし僕は否定しないよ。何故ならそのために互いに異なる宗派を呼んだんだよ。それを決めるのは後世の人たちだ」

「片方だけを読んでさらに言いすぎてしまって、取り返しがつかないねじ曲がったものにならないようにしたかったんだ」


「なるほど」


「さて本当の問題は小乗にはそれほど問題にならないが、大乗には大きな問題になる。帰依とは異教の神の信仰とどう違うの?僕は帰依はそれらのものにすり替えられる危険があると見てる」


「これは難しいですね。分けるのは簡単です。仏陀の言ったことをまず信用しないと始まりません。その後で理を理解するのです。その後信用できないとするのは問題ないです。最初から疑われると難しいでしょうね。ですが、それが行き過ぎて盲信になる事を否定するのは難しいです」


「方便かい?」


「まあそんなところです。異教の神への信仰は否定的ですが、仏への信仰は否定すべきか?ならなんとも…」


「でもね、異教の神と仏の区別を排除して、同一視すると土台に空論がある大乗は別の信者をそのまま取り込めるんだよ。無限の仏の広がりがそれを阻止できない。問題は土台の空論は広まらずに、神仏同一視だけ広まって、仏が排除されて異教の神への信仰だけ残る可能性が有る」


「それはさすがに問題ですね」


「僧の間でそれは無いと思うよ。数が多い在家信者はどうだろうね。通訳の立場で敢えて個人で言うけどナヴァヤあなた達は何故小乗の僧を呼んでいる理由が分からないといったけど、それは君たちが内部で議論してるからなんだ。僕はもっと大きく神への信仰を交えた世界中の信仰と議論になったら小乗の存在は君たちを助けてくれるだろう。僕が帰依の言葉に拘るのはその時になって分かると思う」

「倭国にも神への信仰があるけど。僕はそれを死生観とは切り離したいんだ。聖地や神聖な場所で感じる神への体感的な感情を消したいと思ってない。だがこれが死生観に及ぶものは否定したい。そこは仏教に任せたい。ただ僕自身は帰依しない。理由はいろいろある。ただ僕の死生観に仏教が一番近いのは確かだ」

「その理由は、仏教を理解できてるとかじゃない。この先個人ではない、歴史としての人間の経験による知識が重なっていくと神は世に居場所を失うだろう。それでも仏教は残る」


「まるで未来を見てるかのような物言いになるけど、そこはどうとらえてもらっても構わない。知ってるかもしれないし、驚異的な知恵で因果の先を語ってるだけかもしれない。その上で仏教は神への信仰よりはマシと言いつつ、仏教に帰依しない理由は、2つほど仏教は龍樹がとかじゃない仏陀が問題を抱えてると見てる」

「僕は仏陀が経験を基にした論を重視してるように見えるがその後の人はそれをあまり重視してるように見えない。そこが龍樹の誕生にもつながってる。思弁が過ぎる。後の時代でこここそが仏教の強みになると確信してるからだ。いずれ君たちにも話すが、僕は経験を重視した世界理解の知恵を模索してるんだ」

「君たちが僕より重視してないから扱いに難しいが、経験を土台にするには我がとても扱いやすいんだ…、この手の自己言及は扱いが難しい」


「それは仏陀も語ってますよ?」


「知ってる難解すぎる。正直仏陀らしくない思弁が過ぎる。経験による知識がもっと深まれば仏陀よりましな話が多分展開できる。君たちが経験を土台にする知恵を僕より重視してないから簡単に我を排除できるんだよ。尤も仏陀はそういった理論化はあまりしてない。悟りの助言としてはやりすぎになるからね」


「もう1つは僕が進める知恵の結果多くの人が救われる可能性が有る。ただ確かに死生観は相変わらず苦しみを抱える。でも、4苦のうち3つは苦しみが軽減される。ただ死だけはどうしても無理だ。だから仏陀の方が優れてると思う面がある。ただ問題は仏陀のいう事は経験から理解するのも難しいんだ。何もかもが難解。僕はもっと簡単だ。だからこそ問題があるのかもしれないが」

「それだけじゃない、分かりやすいのはこの2つで、他にもどうにもならないもやもやしたものがある」

「僕が神への信仰を軽視してるのはあまり広めないでほしい。僕はこれでも祖先神の加護を受けてると言われてるんだ…」


 中々進まない大王家からに対する中央との関りについて、大きく進展させるために手を打った。卑弥呼の真似だ。大王の近くにいる人を誘って漢から認めてもらうための手を打った。朝貢をこっちが持って大王を中国で倭国の王は無理でも畿内の王として認めてもらうって形にしようかと。臣下に相談したら2つ返事でOKもらった。


 ただし、その代わり何かしらの形だけで良いので官職をくれと。実際仕事したくないしね。ただするなら近畿の一族のものをやらせるから問題ないけど。国造となり、胸形君とされた。臣連ってもらえないんだな…。うーんこれ史実でももらってる…。まあいいや以前よりこれで近畿を通して直属の部下として関われる。


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