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クロノメーターの精度がイマイチ上がらない。原因は分かってる。時計を使う人が少なすぎて職人の数が増えないからだ。まあ逆を言えば、かなり良くなったので良くならないって事なんだけど。なんていうかなクオーツ振動の時計なら話にならないレベルなのだが、機械時計の限界って感じじゃないと、経度のずれがやばいんだよな。だって4万KMの円周で、5度とかすごい距離だもんな。
まあまだ焦ってないけどさ。外洋を使うのは多分海外拠点と速度を重視した交易をするときなんだよな。ただ寒冷化がやばくなる時には間に合わせたい。食料運びたい。以前は史実の卑弥呼政権までと思ってたけど、あれって一時的に温暖化するだけで、その後の寒冷化の方がやばい時期があるんだよな。
まあそれは火山の噴火のせいなので、そこだけどかんと落ち込むだけで、温暖化が終わると100年以上イマイチって温度のまま過ごすんだよな。南方との速度の速い交易が不可欠だと思う。
「今回はなんというか新しい元素を発見します」
水銀を熱して酸化水銀を作り出して、それにルーペを使って光を当てた。酸化水銀の光分解である。この気体を容器に集めて蝋燭を中でもやすと激しく燃えた。
「はい、これが酸素です。ちなみに厳密にいうとこれ酸の素じゃないです」
「じゃ何故酸素と?」
「まあ酸塩基反応って何?って根幹かなり難しいから後にならないと酸の素良く分からないです。関わっていそうな候補のこいつを酸素にします。犯人はもう1人いるのですが、そういうの名前見たら多分納得できるはずです。そいつが酸素よりこっちが酸素の方がましかと。敢えてつけるなら呼素なんてのでも良いですけどね。それでも酸素としておいてください」
「分解できるか?の追試実験は各自やってください」
「気体の場合目に見えないので難しいですよね?」
「だよねー、僕も気体は良く分からないんだよね。例えばね、息を吐いたときに出る気体って分解できるんだよ。これね石灰で確か反応したはず。んでね、これって燃焼が不完全だった場合に出る気体に分解できるんだよ。じゃそれをさらに分解するのは?これは分からない。逆に前者の気体を燃やすんだけどね。そうすると呼吸の気体と同じものができる。これは石灰の反応で同じものなので分かる」
「酸素分解できたぞーという事もありなので、とりあえず暫定的にね」
そういって僕は周期表の酸素を書き込んだ。
インドからお坊さんがやってきた、行動力ありすぎだろ…。当然言葉は通じない。通訳になってくれたものが言うには、教えを広めたいって欲求は大きい様だ。後この人たち基本結婚しないからな。親兄弟はいるだろうが、家族が居ないよな。
「ねえ大乗小乗って訳せる?ええーとね、仏教は宗派があるはずなんだよ。別の言い方すると自力救済か?それとも他力救済か?となる」
「他力救済だそうです」
「自力の人ってまだインドにいるの?」
「いるそうです。ただ今は数が減ってるそうです」
これはチャンスだ。保護目的に呼べばいい。坊さんの名はナヴァヤと言うそうだ。
「ナヴァヤ氏に問いたいが、僕は小乗にも教えを請いたい。両方を日本に根付かせたい。やるつもりだが一応心情を聞いておきたい」
「決意は固そうなので反対はしませんが、心情としては否定的です」
「僕は大乗には大きな欠陥があると思っています。だったら小乗で良いじゃないか?となりますが、小乗は仏教そのものが抱える問題を抱えていて、そのため大乗が必要だったのも分かるからです。だったらどうするか?教えをこう側が選べばいいのです。僕は論争を好んで両者を招きたいわけじゃないです。そういった教義への問答はたまにあっても良いと思いますが、頻繁には勘弁してほしいです」
「むしろインドの争いをこっちに持ち込むなって思いがあります」
「徳丸様がどちらかを正しいか?見極めたいわけじゃないんですね?」
「今言ったように両者には両者の良い点欠点があって、正直どっちがいいか?なんて決められません」
「ですが、それは両者の言い分を聞いてみないと分からないのでは?」
やっぱり、そこに来たか。
「大乗の教えは、私は飛躍しすぎだと思っています。答えは正しいが、やり方が間違ってると思っています。言ってみればあてずっぽ言ってみたらたまたま当たっていただけだと思っています。正しいなら良いじゃないか?ですが、方法がおかしいので、開祖は間違ってなくても、その後の継承者が多分間違えます」
思った通り驚きの顔をしてる。そりゃそうだろう当たり前だと思っていたものを真っ向から否定したのだから。
「万物が空であるか?はまだ分からないで良いのではないか?と思います。万物の有無ではなく、問い自体を否定するのです。私の知る仏陀はこういう考えの人だと思います。ただ万物が関係性であらわされる縁から空は確かに魅力あるとは思います。ですが縁は経験則で理解できますが、空は無理です。空は頭でっかちすぎる」
「ただし私は正しいと思っています。まだ早いと思ってるんですよ。万物とはなんぞや?を知らずにその問いの答えを出すのは危険ではないか?ここに仏陀の知恵があると思っています。そして僕たちはその知恵を特に重視しています」
「あなたはそれをどこで?」
「大半は僕自身の考えですが、根幹はこれはあまり真面目に捉えないでくださいね?これ我が家の門外不出の伝承で、あなただけでそれを教えます。他言無用でお願いします。確かなことは何もわかりませんが、僕の先祖はどこか別の国から来たという伝承が伝っています。それがひょっとしたらインドだったり、はたまた全く別の国だったり?であったかもしれません。様々な国の教えが僕たち一族には教えられているのです」
良い顔になってきたな。無知ゆえの好き勝手な言動と最初は見ていただろう。もしかしたらそうじゃないかもしれないと思い始めてるな。
「私どもの教えが徳丸様には必要なのでしょうか?」
「僕には厳密に言えばあまり重要だと思わない部分もあります。先ほど申したように万物の事を知らずして万物を論ずるなって強い批判があります。だからこそ万物を知ることに僕は重点を置いています。それは仏教ではないです。万物の学問科学です。ですが、民や配下の者はどうでしょうか?先ほども申しましたが、小乗も含めて選択肢を用意したいのです」
「おそらく何百年後に密教化した大乗仏教が中華を伝ってこの地に入ってくると思います。僕はそれと比較して別の考えもあると民に知ってほしいからです。その問題の芽生えはインドでも出てるのではありませんか?」
静かにナヴァヤ氏はうなづいた。
何か月か後にナヴァヤ氏の伝手で大乗仏教の僧が数名と、やはり肩身の狭いことになってきてる小乗の僧を数名受け入れた。ただし絶対に一緒には扱わない。数か月に一度は対話しても良いと思うが、僕は対話があまり益があると思ってない。客観的に見れる現代人の僕でさえこれ難しいんだ。当事者じゃまず無理だ。
量子力学の登場まではそっとしておこう。やっとそこで空論について検討できるはずだ。そしてちょっとずつだが坊さんの影響でサンスクリット語が使えるようになってきた。いずれは中国語も習得しよう。うちの外交官みたいのが話せるはずだ。
ライデン瓶を作ってみた。あまり電気をためないように静電気を発生させる。
「ちょっと痛いけど触ってみて」
「痛い…」
「これ何かわかる?」
「とがってるように見えないし何故ですか?」
「全く新しいものだね。これが雷の元電気だ。着物じゃちょっと発生しないかな。羊毛で編んだ服とか着脱すると発生するんだよ」
続いてボルタ電池を見せた。これ結構簡単に作れる。何せ薬品と金属はたっぷりそろってるから。
「これはそれほど強くないから痛くはないと思う。でも長く電気を発生させる。でもこれ痛いほどじゃないから電気の存在が分からないよね?そこで水に少量の水酸化カルシウムを加えて、電池からの線を突っ込みます。発生する気体を分離して捕集します。しばらくしてたまってらこの2つを混ぜ合わせて、火をつけます。あんまりタメちゃだめですよ」
ポンと何かが破裂したような音がした。
「うわ」
「驚いた?これ水が発生してるはずなんだけど少量で分からない。知りたいなら大量でやればいいけど、とても危険だから。かなり注意してやらないとガラス割れると思う。この2つの気体が水素と酸素なんだよね。これ原理は滅茶苦茶面倒だからまた今度ね。電気って何?と元素を発見するのに電気分解ってとても便利だから。毒性の強い気体とかもあるから、とにかく新しい気体らしきものを生み出したら気を付けてね」
勢いで作っておいたグラムの発電機を見せる。交流から直流が難しいけど、そこさえクリアすれば永久磁石を使わないで良いのが大きな利点。磁鉄鉱以外鉱物の磁石って見つけるの大変だからな。多くの永久磁石って電磁石による磁力線を浴びることで作られるから。永久磁石だが、天然磁石ではない。この点何故グラムの発電機なのか?でこっちの方が便利なんだ。
まあ手動なのでそこまで電力生まれないだろ。ぐるぐる回して電池と同じ効果になるのを見せる。うーん、やりすぎた?本来自分で発展させてほしいんだけど。電気分解に電池を使うのがちょっと微妙でね…。電気分解こそが気体の元素発見に多大な影響があった発明だからな…。
「電気についてはまたいずれ話すよ。まずは電気分解の重要性を理解してもらいたいから無理やりやってしまった…。もうあんたが一人でやればいいじゃんーなんていじめないでね…」
「ちょっと思いました…」
「やっぱり。まあ元素の発見で本当に重要なので、ついついね」




