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戦略戦術研究の部署から車掛かりについての報告が来ていた。以前対抗策を考える必要がないと話しておいたらいろいろ研究していたようだ。大陸で主に使われていたので実践の資料が豊富にある。それによるとどうもこれ火縄銃が決め手のものじゃないようだ。
ええっーってなった。私が教えたのに私の勘違いを正してきただと?もちろん馬鹿なことをと思った。だって有効だからだ。だがその中の何例かで、火縄銃がイマイチ機能しきれなかったが使えた報告があり、それによって判明したらしい。
火縄銃からの突破から始まる連鎖攻撃。これが車掛かりだと思っていたが、実際あの連鎖は計算されたものでなくてもいいらしい。一見乱戦のように見えて強引に決戦に持ち込む力業こそが車掛かりの本質らしい。将がやたらと優秀だとそれが連鎖になるようだ。
ようするにでたらめに攻めるように陣形がない。それこそが車掛かりの肝らしい。そして巧者はこれを連鎖的波状攻撃にしてしまうようだ。ただ狙い自体は同じらしい。本陣に張り付く周りを引っぺがして大将首を取る目的自体は似たようなものになるらしい。
たまたま固い防衛線を破壊するって目的のため火縄銃が有効であるにすぎないって話だ。車掛かりのプロトタイプを洗練されたのが火縄銃による突破力を使ったものらしい。根本的に火器が中心となる戦い以前の集団戦の戦術であるためやはりカウンターは必要ないって結論になったようだ。
無駄じゃないのでは?だが、カウンター戦術を実践で使う時に訓練がいるからだ。それが無駄なんだ…。方法自体は考えてみるのはまあ時間があるなら良いと思う。ただしそのカウンター戦術の運用は認めない、だが…。
効果的な運用方法としては、ある戦略面を分けた部隊を連続的に攻撃させて意識させ別方面からすっと敵中央に入り込み対象首を狙う。こんな形になるらしい。なるほどこれを火縄銃を使えば確かにさらに崩しやすくなる。
穴をあけるのじゃなくて、攻撃を集中させることによって防御を偏らせて隙間を作るこれがキーだと思う。ようするに隙間じゃなくて穴をあけてしまってもいいんだろ?って乱暴な車掛かりが火縄銃によるものになる。本質はあくまで部隊を次々ぶつけて周りの部隊を乱して中央の対象首にたどり着く戦術だ。
複数の部隊の波状逐次投入などによって、中心を覆う周りの部隊を乱す、これこそが車掛かりのキーになる。穴をこじ開けるじゃない。これ初撃の火縄銃が有効打にならなかった攻撃を独自に対処したんだな。すげーなその隊長。ただ同時にまとまって固くなった防御陣形を崩すことになるので、これ確かに初撃の火縄銃が有効だわ。
「細かい点が気になったので来てもらったのだが、なんで少数の例があったと思う?」
「ああその点詳細が分からないので私たちもたまたまこの戦いに関わった日本人がいたため聞いてみたんですよ。そうすると火縄銃が大量がないための戦術ですよね?」
「そうだ、全体の軍に対して火縄銃の割合が付く無い場合効果的に使うためだ。でなきゃ弾幕大量に張ったほうが良いからな」
「そこなんですよ。じゃちょうどいい数ってどれぐらいですか?」
「敵の数次第だな」
「ええだから火力が足りなかった、単純に言ってしまえばそういう事なんです」
「えじゃやばかった?」
「そうですね、失敗例はありますよ?当然戦争なので負けることもあります。ですが、この火力が足りないから負けたって致命傷は起きてないです。その少数の例でうまくやったのが数例の報告です」
「そうかもっと失敗例があってもこれおかしくないな。全体としては少ない火縄銃を効果的に使うって点でうまくいったと言っていいのかな?」
「ええそういえると思います。後から振り返ると個々の戦いにおいてはこれ危険なやり方ですね。結果だけ見ると明らかに効果的な火縄銃の運用方法なのですけどね」
戦略部に助けられたな。元々車掛かりってあまり良い資料が残ってない。それと言うのも、これ後世に伝わるときにぐちゃぐちゃになって伝わったもので虚偽が多い。これ上杉家が伝えたわけじゃない、敵である武田の伝聞を江戸時代にまとめたものなんだ。
それでいくつかまともだと思ってピックアップしたものを私が伝えたことになる。だから皆は知らないが、これ軍神様が運用したから必殺のものであって、無茶苦茶リスクがある背水の陣みたいなものだと分かってきた。
軍神様は戦略家としてはしょぼい事ばかりしてるし、政治って点では大きなビジョンも全くない天下人には到底なれない人だった。その点では圧倒的に信長に及ぶものは当時いなかった。秀吉も家康も信長に学んだところがある。家康の弱体化戦略も信長が晩年考えていた構想によく似てるんだ。
信長と家康が違ったのは明確な敵の大名を取り込んだものを外様として、信長は後から出世した光秀みたいなのが譜代に対して外様っぽくなっていた。光秀の謀反の理由の1つに挙げられる部分。ただ信長は譜代を全く重要視してない。子供親族が多かった信長は一門衆をそれに見立てていた。
ただ信長の欠点だらけの点は、後の織田家崩壊を見れば信忠以外の一門衆が無能ぞろいだったのがまずかった。信長の有能な一門衆は一向一揆との戦いで大半死んでしまったのがまずかった。その点何倍も家康のほうが優れていたのだが、原形自体は信長の構想になる。
ただし家康がその全容を知っていたか?は分からない。偶然の一致は十分考えられる。ただ信長の統率は当時としては特徴的だったので中央集権化を真似したのはあると思う。秀吉が全く違ったのは、家康を秀吉はかなり信じていた可能性がある。これについては家康の擬態が見事すぎた。
で軍神様の根拠だが、越後の国人以外の兵として1万位内ぐらいの軍団を操る点にずば抜けていた点。この点で、車掛かりのキーある隙間を見抜く力と、もう1つ効果的にでたらめに近い波状突撃を制御して相手の陣形を偏らせる事が出来た可能性がある。
本来矢継ぎ早にランダムに隊をぶつけて陣形を乱すが背一杯。それを狙いとして分けた部隊を陽動のように扱って相手の陣形を偏らせる事が出来たんじゃないか?とみている。ようするにこれ軍神様が使えば必殺の戦術だったが、並みの将が扱えばリスキーな乱戦にして本陣までの道をこじ開ける強引な方法だったと思われる。
どっちにしてもこれ互いの被害が大きくなるハイリスクハイリターンの方法だったと思われる。ただ軍神様が扱えば戦術的目的が達成された可能性は高い。厚く守られた敵の大将首を取る目的。
ただ結果的には良かったと思う。これあいまいな資料しか残ってないのは分かっていた。だが実行したのは、火縄銃の使い方がうまいと思ったからだ。この点は火力が足りなくていくつかうまくいかなかった例もあったが、全体としてはうまくいったのは、やはり私のその見方が間違っていなかったという点だろう。
重要な点は、火縄銃は車掛かりにおいて応用でしかないって点。基礎は土台じゃない。もっと言えば火縄銃に特化した新戦法ではない。そもそも波状攻撃も応用でしかない。基本はただのランダムな中単位の隊の突撃になる。確かにこれを連動をうまくやれば波状攻撃になる。
ただこれをもって陣形に穴をあける見方は短絡的だ。キーはその後の隙間を見出す騎馬突撃にある。ここが軍神様じゃないと難しいんじゃないかな。騎馬の連動にはあまり意味がない。騎馬はむしろ偏ったり、乱れた陣形に対して予想外にのど元にくらいつくような意外性にある。
じゃ何故おおむねうまくいってるの?で通常火縄銃って弓の代わりだけど、これ運用理念が違うよな。初撃の突破力に使ってる。言ってみれば中隊突撃の代用に過ぎない。ただその後火縄銃の欠点である近接を避けるためにすぐに引いて歩兵突撃が行う点で弓的性質もある。
銃の遠距離有利より、銃のもつ殺傷力を使った戦術だと思う。そこが運用理念が違う点。その点で効果あったんだろうな。よく似た考えで遠距離に特化したのがライフルだとすると、拳銃タイプで口径をあげていくマグナム弾のようなのは殺傷力を高めるのを意図している。これと似たものかと思う。
免疫の論文を読んでいた。病原菌に対して1種類の対応する抗体が作られる。これを細かく調べていくと無限とは言わないが莫大な数の抗体が作られるだろうと結論付けている。これは皆を集めるかついに利根川博士の研究を言及する。
「今回集まってもらったのは免疫の抗体と関わる細胞で働く遺伝子についてになる。DNAは膨大な量があるが、それらは抗体についてだけ書き込まれているわけじゃない。ありとあらゆる情報はすべて個々の細胞で重複してる。そうなると抗体に使用される遺伝子はDNAのごく一部だ」
「ええそこは疑問になってる部分です」
「まだ解読技術が発展してないからって思ってるでしょ?」
「ええそうです全容は解明されてないので」
「実はそうじゃないんだ」
おーっとざわざわしてきた。
「ごめんね本来なら皆の研究をまつつもりだったけど、これだけは話しておこうかなと」
「医学に関わるからですか?」
「うん、重要だし金になる。後ね今DNAの様々な分析手法が進んでいる。それもかなり大きい。だから示唆だけはするけど、細かいのはすべてDNAの分析技術を使って、君らにやってもらう。結論をいきなりいうけどDNAがね、抗体に関わる細胞では組み替えられてるんだよ」
おお、ざわざわが大きいな。
「ですがDNAの塩基配列の情報は不変なのでは?」
「ちなみに不変ではないぞ、これは以前話した後天的に例えば指先で肝臓の働きとかいらないからその機能を働かないようにつぶしてしまう。その時塩基配列が癒着によって情報が消えてしまう。まあこれは例えだ。実際指先で肝臓が機能停止してるか?知らない」
「えそれ聞いてないですよ?」
「ああクローンの研究してる班にそれとなく話しただけだ。あれね細胞を飢餓状態にして初期化ってするよね?」
「ああなるほど、確かに後天的に変化してるからそれを解除するって意味ですよね」
「うん、なるほどこれ皆の常識ってわけじゃないんだな。これ研究しておいて。どちらにしろ塩基配列をつぶしてしまうだけで、元は配列は土台になってるから根本的な変化ではないね」
「初期化できるってのは情報自体はあると思います」
「そうだね、だがそうじゃない本当に塩基配列が組み変わっている。調べてほしいが、具体的な研究方法知りたい?」
「いえまずは頑張ってみます。それぐらいやらないと科学者の矜持が…」
自分で何がしたいんだろう?ってなる時がある。一応考えはある。ただ今回じっくり待つつもりもあった。だが同時に示唆を与えなくてはいけない可能性も考えていた。時間になる。焦ってないか?ならない。これでも十分に時間を空けてある。免疫はその中であまり時間を与えられないのがある。
分野によって時間の与え方が全く違う。焦ってるがものすごくのんびりやってるのが原爆関係になる。理由は、経済力だ。あれは科学の発展じゃない科学技術を土台にした工業力や経済力の発展にこそ土台がある。ゆえに私が焦ってもあまり意味がない。
それに時間との勝負だが、実際無理に時を進めようとしてるだけで、実際ローマの波乱はもっと後に起こる。これを早めたいので原爆を急いでるだけだ。ちょうどいい時期に仕掛ければそれまで待てる。中途半端な混乱でしかけても覆せるだけの決戦兵器だからってのがある。
本気でローマに落としてやれば簡単に片が付くがやらない。原爆を打つのに躊躇はない。だがわざわざ大量に殺したいわけじゃない。相手が恐怖してくれればそれで良いんだ。もしこれが第2次世界大戦時なら脅しだけでいい。原爆実験だけでいい。
何故なら、その脅威を理解できる科学者がトップつながってるからだ。当時複数の国で開発されていたので、それは同時に恐怖を実際に落とさなくても理解できる。この時代それが分からないんだ。抑止と規制に目的があるから打つんだ。後最低限一般市民の犠牲は減らしたい。
原爆をやたらと恐怖する現代人の考えがあるが、それは数で見てるからだ。私は自衛で大量の人を殺してる。そのため何で死ぬか?であって一人ひとりの相手にとっては火器による死亡もこの時代には恐怖なんだ。現代の感覚で考えすぎだ。
ただこの時代でも科学者は現代人に近い。自分たちで殺してないから数で見てしまうからだ。逆に残酷だと思う面がある。
後、待てなかった面にある程度待ったら示唆しようと最初から考えていた。それはこの発見なかなかすごいからだ。遺伝子が生涯変化がないってのはかなり大事なことなんだ。これによって進化についての土台になってる。獲得形質の遺伝があくまで例外的なものでしかない。
もちろん今はそれらもパラダイムシフトの面があるが、次世代のパラダイムではないどっちかと言うと例外的なんだ。ヒストン修飾や塩基配列以外部分の遺伝が分かってきただけで、塩基配列自体はエピジェネティックな変化はあるが遺伝に関しては後天的変化がない。
やっとそういった見方が確立してきたのにぐわんと揺さぶる面がある。もちろんヒストン修飾を先に教えてるので柔軟性はある。それでもこの発見は中々すごい。利根川博士は偉大なんだろうなと思う。
パラダイムを重視してるのにパラダイムシフトが偉大だというのは変か?と言うとそうでもない。常識外れの発見発明は例外的でいいんだ。科学の土台はどっちかと言えば順調な積み重ねにあり、その本質は人海戦術だ。普通にそこそこ賢い人が大量に科学的知識を科学界に蓄えてくれればいいんだ。
私がパラダイムシフトよりむしろパラダイムを重視するのはここがある。