133
超伝導について講義をしていた。これ一応無機の戦後発達したものなんだよな。発見自体はもっと早いが研究が広がったのは戦後だと思う。ただこれさっさとやらなかったのは理由がある。これ実用的な技術があまり広がってないんだよな。探せば多分あると思うがかなり特殊だと思う。
「徳丸様、これ自体は電気の知識から予想がつくと思います。もしかして以前から知っていらしたのではないですか?」
「そういう君らも気が付けよー。まあその通り知ってたよ。ある理由から伝えてなかった。何度も言ってるけど、私の最大の目的は科学技術の発展じゃない。科学者を取り巻く科学界の発展なんだ。言葉を作るなら科学者たちの高いレベルにある共通概念、こういったものを育てていきたいんだ。私はこれをパラダイムと呼んでいる」
「もっと突っ込むとこれ私が注意した科学における禁足事項と言える常識に近いんだよね…」
「え?良いのですか?」
「うん、科学ってその辺りとても難しいんだよ。所詮人間の認識が土台になってるから。人が持つ思考方法と完全に分離したものなんて使えないんだよ。例えそんなものが出来たとしても多分上手く使えない。個人の持つ発想とか着想とかそういうものに科学ってどうしても左右されるからね。宗教とか哲学よりはマシだって程度問題にすぎない」
「でね、そこからは外れるが、超電導って多分発展できない。理由は費用だ。大まかに伝えたけど、簡単に実現はできる。それは超低温にすればいい。それお金かかるでしょ。だから常温超電導ってのが目標になっていって、それが簡単には実現できない。でもね、じゃ何故今になって変更を?となると、最初に戻る」
「科学ってのは、技術の発展が目的じゃない。世界の謎の解明にある。そのためには世界の仕組みについて様々なものを知っておかなくはならない。金属の熱抵抗を温度を下げて極限まで下げるとどうなるか?是非知っておくべき知識だよ。まあ君たちは私がかなり科学技術は役に立つという道を作っておいたので、その点は心配しなくていいよ」
「それが無いと費用を支えてくれてる民からまず不満が出るからね…」
太陽光発電で将来電卓が作れるぐらいのものが出来た。だが実用的とは言えない。電卓の消費電力がまだ高いのだ…。
「皆喜んでるところ悪いと思ってる…。でも、太陽光発電のもっとも肝は費用にある。化石燃料に対してのコストとして製造費がどうしても関わってくる。実は維持費もとんでもない。そのためこれが大きな一歩であるのは間違いないが、そこからどれだけ他の分野のように歩みを早められるか?私はあまり期待してない」
「そりゃないですよ徳丸様」
「ああ逆に折れないように頑張ってくれと思ってるからだよ。多分費用的に満足ができるものができるまでにかなりの長い年月かかるだろうが、折れないで頑張ってくれ。燃料資源の少ない日本には必須のものなんだ。これが無いために侵略戦争を起こしたくなるのを抑えたいんだ。どうだ?私が話す事だろう」
「政治的なものですか…」
「ああこればかりは仕方がない。国の大きな戦略を曲げてこうした。中東に大規模な油田があるのは分かってる。だがあの地域に手を付けるのにどれだけの人命と費用がかかるか?と考えたらやめたんだ。後電子機器の電力消費が抑えられるようになったら、今の水準でも卓上計算機ぐらいは可能だ」
「TVは無理だが携帯型のラジオぐらいなら可能かもしれない。尤も鞄みたいなものを持ち運んでるので、あれじゃ無理だ…」
「電池との戦いですね?」
「うん費用面でそうなるだろうね。卓上計算機以降発展するのか?中々な…。分かると思うが、効率の良いものが出来ればできるほど多分初期は高いので計算機じたいの費用が高くなるんだよな…。家庭用に補助的にってのが当面精一杯いだろうな」
「詳しいところまでは分かってないけど、シリコンによるものなの?」
「はい」
「太陽電池と言っても素材がとても重要になる。その点シリコンによるものの限界ってのがあるんだよね。何らの画期的なものが今後できるかもしれないけど、素材が持つ限界っての大きい。例えばフィラメントなんて良い例だろう。最初は様々な素材が使われたけど、やがてタングステンに集約されてしまったでしょ?」
「そんな感じで素材がもつ限界ってのがあるからね。まあ難しいんだよ。限界がきて古びてしまった素材が後の時代にまた見直されるとか良くあるからね。ただ単純な流れの開発だと将来的に限界が来るのはなんとなく覚えておいてほしい」
「その単純な流れってなんですか?」
「鉄の鋳造と鍛造の違いみたいなものだよ。鉄って鍛造の発展が大きかったでしょ?でも私が広めて鋳造の流れが主になってるでしょ?そこから機械的な鍛造って流れが出来てきた。これ鍛造の流れの歴史のままならあったと思う?」
「ああなるほど」
「まあそういう事だから技術発展の歴史は複雑なのよ」
パンチングテープによる簡易コンピューターがより発展して、初期のコンピューターの卵のようなものになってきた。ただまだノイマン型なんて分かりやすいものじゃない。集積回路の原形はできてるが、おいおい交換していけばいい。
その点半導体って故障や消費電力って問題や小型化などで重要だが、回路自体は別の電気装置で機能する。ただ同時に機械式でも作っている。それと言うのも原爆開発のために半導体計算機をいきなり作ろうとして飛ばしてしまったのをさかのぼってる。何の意味が?となるとローテクの開発にある。
これをやっておかないと技術輸出のグレードダウンがしにくい。グレードダウンは技術漏洩の回避を目的としてるのもあるが、原爆もそうだが工業力などその他の要因で作れないことが多い。そのためあえてローテクを輸出するほうが相手のためにもなる。
じゃなぜ後から?となると、計算機などは真空管で作ったほうが手っ取り早いというのがある。ただ半導体による集積回路はよろしくない。まだ大量に作れないのだ。半導体自体も真空管ほどは進んでないため高価だ。あれは軍事利用を考えて急いで開発させたのが大きい。コスト度外視で今はいい。
今回一番大きいのは今まではコンピューターができた。それだけだった。今回は使用する目的で実用的なものに発展した点だ。この点は私からは指示はない。すでに使い道を考えて必要なものと電気系の科学者技術者を交えて共同で作ったようだ。
EDSACの基本がこれらに生かされている。計算機からプログラムとデータによって結果を出していく装置の違いが重要になる。
「これをトランジスタ化するのは可能?」
「うーんすぐには答えられませんが、要点は、メモリーを読み書きする、それらを真空管からトランジスタに変えるのは簡単です。ただ、主記憶装置が問題です」
「それは磁気記録にしてほしい。アナログの音ならこれ確か実験的には成功してると思う。主記憶の装置なんかとんでもないよな」
史実の水銀遅延管ってのを話して実用化してもらった。これを磁気記憶に変えていくのか…。入力はパンチングテープ。まあこれは当分いいだろう。これかなり後まで使われていたからな。主力は文字出力。テレタイプと言われるもので、別に史実に沿ってるわけじゃない。
単純に電気信号を受けてタイプライターで文字を打ってくかんじだ。主記憶が一番やりにくいな。でも小型化するなら磁気が一番良いんだよな。この間の技術って無かったよな。
EDSACを現代の形に近づけるための計画を立てていた。それこそ皆に任せるべきなのだが、史実ではそれまでも小さな改良型がたくさん発明された。そのためいきなり完成形を作るんじゃなくて、ゴールのようなものを用意しておこうかなと。
まずデータとプログラムが分かれてない構造を変えるべきなのと、遅延管は磁気記憶装置ではない。もろメインメモリーだ。トランジスタ化するものになる。真空管で作るのをトランジスタに置き換える。じゃなぜ?容量の問題だろう。真空管だと大きくなりすぎる。
その証拠にレジスタは真空管で作ってある。これ人間でいうワーキングメモリーになる。そっちはスタックかな?アセンブラをかじったことがあるとCPU命令を実行するためのデータ操作やその結果などが保持されてる場所がある。これもある種のメモリーだ。
だがEDSACはデータと命令がいっしょくたになってるからこうなってるんだろう。この辺りも整理させていかないと。だから磁気記憶は新しい発想になる。このタイプは入力を直接行うため違うが、パンチングテープがそれにあたるだろう。パンチングテープは入力の間のようなものになる。
穴をあける作業が入力に当たるから。なぜ間がいるの?なら、プログラムの再利用だ。じわじわと現代のコンピューターに近づいてく構想が練れる。ただこれ伝えるのむつかしいな。私は答えを知ってるからなんだ。ただ再利用などなんとか今の時代に理解できるように磁気記憶装置の重要性を伝えれば理解できるかな?