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「熊子様徳丸様からです」
徳丸様からの便りを読んだ。これは確かに良い作戦だが、肝心の清流派に兵がいない点だな。両者をぶつけて漁夫の利をいただく。これ自体は読み通りになるだろう。敢えて言うなら危機感を募らせるため流言を流せばいい。例えば、董卓の帰還は偽装で宦官と繋がって清流派をだまし討ちにするために戻ってくると。
これで安心していた連中も動くようになる。元々胡散臭い連中だからな。疑えばいくらでも疑える。最大の問題はだからどうした?だ。いくら漢軍を叩きのめしたとはいえ黄巾党と真正面から戦うわけじゃないその程度ならまた集めればいいのだ。そのための命令権が清流派にはない。その程度奥深くに行かなくても集められる情報だ。
「李北どう思う?」
「良い手がある。董卓に反感を持っていた漢の将軍たちを結び付ければ良い」
そんな上手く行くかと推移を見ていたがこれが驚くことに上手く行った。
「何をやったんだ?」
「元々反感を持っていた連中だから。情報が広い商人が董卓の帰還が偽装であって軍備をさらに補強して皇室を乗っ取るつもりだとささやいただけさ。後は清流派の連中とつながりを作った。しかもだ商人は黄巾党じゃない。ただいろいろと黄巾党と規模の大きな商売をしてるからいろいろ聞いてくれるだけだ。黄巾党員じゃないから黄巾党は疑われもしない」
「見どころがあるから幹部に押したけど、お前本当に元農民か…」
「はは慣れだよ慣れ。この手の情報操作はお前さん仕込みさ」
清流派とのつながりってのが大事だ。元々宦官による専横政治を良く思ってない連中は中心じゃなくても清流派のような考えを持ってる。そのためまとまりやすい。ただ誰でもわかるが、外敵=黄巾党がいる状態で内部抗争などもってのほかだ。だから単純には動かない。重要なのは政府内だけにいて戦争に行かずに中央にいる連中はこれが分かってない。
目先の内部抗争を重視するんだ。こいつらと繋げてさえしまえば後は勝手に動く。ただ無理には動かないつもりだ。両者がぶつかって両者が弱体化してくれればそれでいい。まとまってしまうのでは?元々黄巾党にはまとまっていた連中なんだ。その辺りは馬鹿じゃない。漢の皇室の奪還。これこそが最も重要なものだと思う。
彼らが納得してくれるなら劉備も多分ついてくる。頭が固いとは思うが、逆に言えば違和感があっても皇室が向く方向には多分従ってくれる。問題は董卓の傀儡は国家のために利用してるわけじゃないからだ。董卓個人の権力欲のためだ。そこを皇族が理解してくれれば多分上手く行く。利用しようというのはどっちも同じだ。
「熊子華北にいるという要注意人物達を追い払うというのはどうだ?」
「それは賛成できないな。別に清流派に頑張ってほしいわけじゃないんだ。狙いは洛陽が混乱してる事だから。完ぺきな状態で漁夫の利なんて考えてると逆に問題が起きるわ。その連中な要注意だけあって兵を集められそうなやつらなんだわ。だから少ないうちに殺すべしで要注意なんだよ」
「最要注意が能力高くて兵が集まりそうな人物、次が無能だが兵だけは集まりそうな人物」
「後者はどういうのだ?」
「袁紹なんて典型的だが名門ってだけで部下も集まるし、兵も集まるさ。後名家は金持ってるのも多いよな、ゆえに兵を集められる。有能なやつは、兵が集められなくても、生き残ってるうちに大集団の頭になる事が多い。だからそうなる前に殺しておくんだ」
「おいおいじゃ劉備は良いのか?」
「まあ仲間になるなら有能さは逆に大事じゃないか?まさにそこだ無能なやつは仲間になる可能性があっても仲間になっても逆に邪魔なので、殺しておいて損はないからな。特に名門だけしか取り柄が無いような無能は本当に邪魔だぞ。それなりの地位につけないと多分仲間割れする…」
「ただな袁紹は名門なだけじゃない人柄は良いんだ。それは伝わってくるだろ?」
「ああそうだな」
「ただな名門にしてはってだけだ…。別に人徳の人ではない。人柄の重要性は董卓よりはマシってだけでいいよ」
「ああそういう意味の人柄ね」
「ああ悪質なのは、能力があっても仲間に出来ん」
「だがなそれなら無能なものばかりじゃないか?」
「そうでもない頭になりたがるような奴だけだ。権力が欲しい野心が高い奴がそういうやつだ。そうじゃないなら有能な人間はいくらでもいる。頭になりたがるやつが仲間になるか?」
「確かにならないな」
「劉備ってのは例外中の例外だ。あんな人物はおらんし、彼も権力への野心を隠してる。ただある程度制御できるだけだ。もしもっと黄巾党がギリギリでやってたら放逐なんてせんよ。殺した方が良い。ある種の余裕だな」