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「……ぇ?」
美琴が理解が追いつかないと言うように呆然と此方を見る。
「オレは亥の神獣の血を引く者。だから蓄亥の守護者、と言う訳だ。理解できたか?」
「ぇ、あの…最後の方がちょっと理解できないです。動物と人間って子供出来るんですか?それに関係ない子供を巻き込むのはどうかと思うんですけど」
「…言われてみれば不思議だが“神獣だから”じゃ納得できないか?」
オレが首を傾げながら言うと、美琴は「いや、そんな魔法の言葉じゃないんだから…」と困惑しながら返してきた。そのまま三秒ほど固まって後に大きく溜息を吐かれた。失礼な奴だな。
「まあ、巫山戯るのは此処までにして。実際は神域を出る時に人に擬態してたんじゃないかと思っている。じゃないと戦闘では不利になりかねない神獣も居るからな」
「銭湯?」
「それは多分意味が違うな。戦闘、闘いのことだ」
美琴の故意であろう言い間違いを訂正すると、オレの言葉をなぞるように「たたかい…」と呟く。
「…何で戦う必要があるんですか?人捜しなんですよね?」
美琴は胸元で両手を握り締めて何かを堪えるように問いかけてきた。その表情が余りに悲痛で、話を聞いていたのか?と言う問いが喉の奥へと引っ込んでいった。
「……争いは嫌いか?」
返事ですら無いオレの問いに、彼女は首肯だけで声を発しない。
「しかし、総てを話し合いだけで解決できないのも分かってるよな?」
一瞬戸惑うが小さく頷くのを見て話を続ける。
「何度も言ってるようにオレ達は“守護者”だ。この地を守る為に相手を傷付けることもある」
そこまで言うと美琴が小さく、でも…と何かを言いかけたが遮るように言葉を紡ぐ。
「極端な例だが相手が武力を持ってきた時に何もしなければ、ただ毟り取られるばかりだ。被害が拡大するのを防ぐには相手を押さえ込むか追い返すしかない」
美琴は握り締めた手の力を強めて俯いている。言ってることは理解できるが納得できないといった所か。
「オレだって“人”を傷付けるのは戸惑う。けれど誰かがやらないといけないならオレで良かったとも思うんだ」
美琴が少し顔を上げて此方を見る目が合った。
「なんで…」
「大事なものを護れるから」
オレの間髪入れない返事に彼女の眼が見開く。
そんな美琴を安心させるように、出来るだけ優しい笑みを意識して頭を撫ぜながら続きを口にする。
「それにオレ達が相手するのは基本話の通じない“オニ”だ。命のない、人を襲う只の現象…違うな。害悪だ」




