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水の入ったコップと水筒の乗ったお盆を持って襖の前まで来たとき重大なことに気付いた。
(両手が塞がってて開けられない)
三秒程固まった後に仕方ないから足で開けようとしたが、ふと美琴にどう思われるのだろうという思いが浮かんだ。
(…いや、うん。足で襖を開けるのは行儀が悪いもんな。オレはもう立派な大人だから、そんなはしたない真似はする筈無いだろう)
一瞬過った事を無かったことにしてお盆を床に置いて襖を開けてから中に入る。
「すまない。待たせたか?」
「あ、いえ。大丈夫です。」
?さっきまで緊張してなかったはずだが、今はガチガチだな。何故だ?ま、とりあえずお盆を脇に置いてからコップの一つを差し出す。
「ほら、これしか無いが飲んで落ち着け」
「あ、ありがとうございます」
一気に中の水を飲み干して肩の力も抜けたようだ。
「話の続きをしても良いか?」
「つづき?…えっと……」
「まだ守護についてまでいってなかっただろ」
オレが呆れながら言うと美琴は一拍置いた後、あっと思い当たったように声を上げた。
「ご、ごめんなさい。忘れてたわけではなくてその、あの…」
「別に怒ってないから落ち着け」
折角落ち着いてきたのに何やってるんだオレは…
水筒から水を注ぎ美琴に差し出す。
「ごめんなさい…」と小さく謝る彼女の頭をポンポンと撫でて話し始める。
「美琴の話と違うのは、騙された猫は神様と神獣となった十二柱を怨みながら死んでいった」
ここまで言った時、美琴が「え!?」と声をあげたので其方を見遣る。
「あ、ネコちゃん死んじゃうんですか…?」
「そうだな。正確には猫の怨みが肉体に収まりきらなくなり“オニ”と化した、と云われている。人に害為す猫を封じた神様は、嘆き悲しんで弱っていった」
美琴が口元を両手で覆って「もしかして…」と呟くのに首肯で返して続ける。
「神様がお隠れになられる前に神獣達へとお言葉を賜った。その内容は『幾年月を経ようとも私は必ずあなたたちの許へ戻ってきます』と言うものだ」
「神獣達はその言葉を信じて永く永い時間を待ち続けた。しかし、神様は戻ってくる事は無く、それならばと神獣達は地上へ降りて探す事にした」
「各々別の場所に降り立ち、そこを拠点として探し始めた。暫くすると神獣達は自身の身体に違和感を感じ始めた。神域から出たからか定かでは無いが、老いが始まっていたからだ」
はい、と手を上げた美琴に目線で促す。
「その神獣の人たちは神様に会えたんですか?」
彼女の問いに首を横に振り否定してまた口を開く。
「そこで神獣達は人と媾い子をなした。それから代々、拠点としていた場所に住まい神様を探し続けていた」




