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「よしっ着いた」
多少遠回りする羽目にはなったが無事に家に着いた。いや、何かあっても困るけど。
「…あ、悪い。両手塞がってるから玄関開けて貰っても良いか?」
「あ、はい…って私もう歩けますけど」
また暴れ出しそうな美琴を殊更しっかりと抱え直して、だって、と言いながら顔を向ける。
「だって、降ろしたらまた逃げるだろう」
「うぐぅ」
実際、家に着くまでに何回かあった。その度に捕まえて抱え上げてを繰り返し、最後の方は逃げようとするのが分かってるから、歩ける、降ろして等の要求は無視していた。
ただ手当てするだけなのに、何故逃げようとするのか理解できない。
悔しそうな美琴に引き戸の扉を開いて貰い、靴を脱いで中へと歩いて行く。
正面の襖も開けて貰って、置いてある座布団の一つに降ろす。
「救急箱取ってくるから待っててくれ」
それだけ言い置くと、急いで部屋を出て行った。
普段救急箱なんて物々しい物は使わないせいか見つけるのに一寸…うん、ほんのちょっとだけ時間をくってしまった。
「まさか、この部屋にあるのに出て行っちゃうとは思いませんでした」
「やめろ、恥ずかしい」
家の中を一周して見つからなくて落ち込みながら戻ってきたオレに、美琴が後ろにある戸棚の中を指差して「あれは違うんですか?」と訊いてきた。指された先を見ると、中に救急箱があった。それからずっと美琴はくすくすと笑いながら揶揄ってくる。
手当てが終わって一段落すると、笑いの波も落ち着いたのか言い難そうにオレをチラチラと見てくる。が、意を決した様に、あの!と言葉を発した。その声が思いの外大きくて驚いたとかそんな事は無いから。絶対。
美琴の方も自分の声に驚いたのか一瞬固まり、直後に羞恥で赤面しながら声を落として再び声をかけてきた。
「あ、あの…さっきのバケモノは」
「ああ、“オニ”の事?」
オレの返事の意味が分からないのか、美琴は首を傾げながら「鬼?昔話とかの??」と呟いている。
「“オニ”を知らねぇの?アンタ、何処から来たのさ」
「え、日本…ですけど」
さも当然のように返された地名に聞き覚えはない。
「にほん?何処だそこ」
オレの言葉に美琴は慌て始める。
「え!?日本だっですよ?肥後、熊本は!?」
それに首を横に振り、此処の事を口に出す。
「悪いが聞いたこと無いな。それに此処は地支の蓄亥だ。オレが守護する地だな」
愕然とオレを見詰める美琴の目は、信じられないモノを見るように見開かれていた。




