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何も無い真っ白な空間に揺蕩い、微睡む意識の中で誰かが呼ぶ声が聞こえた気がした。
『───』
──?
『全く、あんたはもう少し考えて行動しな。危なっかしいったらありゃしない』
真っ白な光の中に恐らく人であろう影が立っている。
──誰だ?
『だれ~??───様に対して良くそんな口がきけるね』
恐らく名前の所だけノイズがかかって聞き取れなかった。
『優しい優しい───様がわざわざあんたを起こしに来てあげたってのに』
──起こしに?いや、そもそもオレは…
この空間に来る前の事が脳裏を過る。
牛型の“オニ”。腹部の衝撃。女性の悲鳴。ああ…
──……オレは、死んだのか
オレがそう呟くと、目の前の影がズンズンと近付いてきて手を垂直に上げ、そのままオレの頭に振り下ろした。
『あんた、どんだけバカなわけ?』
──痛てぇ
頭に押さえて蹲るオレに向けて、ビシィと音が鳴りそうな程の勢いで影が指差す。
『いい?あんたはまだ、やらなきゃいけない事があるんでしょう?』
『こんな所でグズグズしてないでさっさと帰んな』
全身真っ黒な影の癖にこれだけは分かる。コイツ今、絶対ニヤニヤ笑ってやがる。
『ほら、早く戻んないとオヒメサマが先に目を覚ましちゃうよ』
影はそう言うとオレの肩を押した。身体が後方へ傾き、さっきまで無かった筈の重力に従って下へ下へと落ちていく。
手を伸ばしても影には届かず、それどころか小さくなる影は暢気にこっちに手を振っているようだった。
(覚えてろよクソ姉貴)
心の中で呟くと同時に意識が闇に呑まれていった。
目が覚めた。
…?目が覚めた?オレは助かった、のか?腕に力を入れて起き上がる。動く。痛みは無い。
腹部を見下ろす。服に穴が開いているが傷は消えていた。
(……何でだ?オレは“オニ”に……“オニ”!?)
慌てて辺りを見渡すが“オニ”どころか思念体すら感じられない。
「ぅにゅ…」
下から声がして視線を落とす。
さっきまで“オニ”に襲われていた女性が寝苦しそうに地面に転がって眠っている。
「……」
跡形もなく消えた“オニ”と力尽きた様に倒れている女性。その事から一つの結論が頭に浮かぶ。
(まさか、そんなわけ…)
確かめるように女性へと手を伸ばす。
「……ぁ」
女性に触れたところから力が流れていく感じがした。
間違いない。気力切れだ。
(……オレが助かったのは、この人のお陰だろうし、こんな固い地面に寝かしとくのも恩人に対して失礼だし、気力を渡すには触れ合った方がやりやすいし…別にやましいことは何も無いし)
ツラツラとそう思いながら女性を自身の膝の上に横向きに抱きかかえる。
(この人が、神様なら…いいなぁ)
人の温もりに、自然と落ちていく瞼に抗うこと無く、穏やかな眠りに身を委ねた。




