8.鏡に映る姿
お菓子を手に取り、口に放り込む。
甘くて美味しい。
「ギルドから?」
「あぁ、流石に死人を出すわけにもいかんからな」
ヴォルドとレオンハルトが会話を続ける。
私はもりもりお菓子を食べる。レオンハルトが作ったお菓子も食べてみたいなぁ。
「毎度冒険者を駆り出すのにレクリエーションをやる意味あるんですか」
「乗り越えないと現実が見えないからさ。まぁ、大体は引きこもりコースだな。残ったまともな人間だけが出世できる。篩い分けってこった」
そう、この国に来てから不思議だと思っていたことがある。
働いている人間が他国出身の者が多い事に。
この化粧の国の人間の特徴は、黒か茶の髪と瞳を持ち、細身であることが多い。
ただ、学園の裏方には化粧の国出身であろう人が見受けられるので、表に立つ仕事に携わることが少ない様に感じるのだ。
ヴォルドは筋骨隆々で深緑の髪と赤い瞳を持っているし、レオンも赤毛で目は青いし、私も銀に近い金髪で目が薄緑。
ヴォルドの妻、ラヴィーナは、化粧の国の人で艶やかな黒髪と漆黒の瞳をしている。
「良く分かりませんけど、何をしたらいいんですか?」
「難しいことは無い。他の生徒のフォローを頼むだけだな」
それだけ?と思わず疑問が顔に出てしまっていたのか、ヴォルドは苦笑いしている。
「サラ、思っている以上にこの国の子供は何も出来ないからな」
「マジですか、ヴォルドさん。卒業した後どうやって生きていくんですか」
「現実を見せるためのレクリエーションだ」
面倒臭そう。そう思った心情はがっつり顔に出てたみたいで、向かい合ったヴォルドが呆れたように口を引き結んだ。
レオンハルトに目を向けると苦笑している。
そんな時、ノックが響く。
「私だ。ラヴィーナだ。入れてくれ」
「ラヴィーナ!待っていたぞ」
そそくさと席を立ち、扉を開いて嬉しそうに強面を緩ませ、流れるように腰に手を回し、抱き寄せ、空いていた自分の隣の席にエスコートするヴォルド。
めちゃくちゃに愛妻家なのだ。
「愛の国出身名乗っていいですよ」
「茶化すな、サラ。全く、そちらの国には敵わん」
「あらまぁ、私でもまだしてないと言うのに」
「するの? サラが? 俺に?」
隣でレオンハルトがなぜか赤面している。
照れる要素はないだろう。全く、あれくらい朝飯前である。
頬のキスも再開してないし、頬だけじゃ物足りないと思っていると言うのにこの男は。
「仲が良いな、二人とも。あぁ、婚約した? おめでとう」
「ありがとうございます。ラヴィーナさん。これからレオンは甘やかします」
「程々にしてくれ。心臓がもたない」
横でごにょごにょ言ってるレオンハルトは一旦無視しておく。
相手が無自覚なうちは押せ押せだったのにいざ相手が振り向くと押せなくなるの可愛いですよね。趣味です。