7.特色ある俗称
放課後は大体レオンハルトと連れ立ってギルドに向かい任務を受けていたが、しばらくお休みしていた。
その間にレオンハルトの両親と私の両親に婚約したい旨を伝え、お互いにすんなりと認められ、両家の顔合わせもとんとん拍子で決まり、相棒から婚約者へと格上げされた。
教会への届けを済ませ、落ち着いた頃、放課後にやっとギルドへと向かうと、ヴォルドに出会う。
「よぉ、二人とも。なんだか久しぶりだな」
「お久しぶりです、ヴォルドさん。良い報告があるんです」
「なんだ、レオンハルト。ついに男を見せたか?」
「そうですね。肝心な言葉はさらに横取りされましたけど」
「サラは男前だからなぁ」
豪快に笑い飛ばすヴォルドと、肩を落とすレオンハルト。
やれやれと私は肩をすくめた。
「学園を卒業したら、この国出ようかなって思ってたんですけど、一人はなんか違うなって。隣にレオンがいないと」
「熱烈だな、本当。そういうのは淡々と言うもんじゃないだろ」
流石愛の国出身だな、とヴォルドは腕を組んで私に目を向けた。
そう、愛の国と俗称される国が私の母国である。ちなみにこの国の俗称は化粧の国。
あとは、料理の国、酒の国、化学の国、魔法の国、武闘の国なんてのもある。
母国は愛の国と呼ばれるけれど、別にそんな大したものじゃなかった、と思う。
あぁ、でも仲良くなりたてで、挨拶に頬へキスをした時、レオンハルトは顔を真っ赤にして怒ってたっけ。誰にでもそんなことするな、とか、勘違いする奴が出てくるから俺以外にはするな、とか。
今は、恥ずかしいから禁止、と言われているが、婚約者になったので再開してもいいかも知れない。
ちなみに、レオンハルトの母親は料理の国出身である。
稀に任務が長引いて野営をする時はレオンが料理を担当してくれる。めちゃくちゃ美味しい。私はレオンに胃袋を掴まれている。
レオンの料理の味を思い出して、お腹が空いたなどと呑気に考えていると、ヴォルドの声で現実に引き戻される。
「ところで、レオン、サラ。時間はあるか?」
「まだ任務受けてませんし、ありますよ。なぁ、サラ?」
「あぁ、うん。別に急いで稼ぐ必要もないし。なんでしょう、ヴォルドさん」
ちょっとこっちに来てくれ、と手招きされてギルド内にある会議室の一つに誘導される。
周りに聞かれたくない極秘任務を受ける時などに使われる部屋で私もレオンも会議室を利用したことは数えるほどしかない。
「とりあえずかけてくれ。おぉい、お茶の準備をお願いしたい」
近くのベルを手に取り、鳴らしてギルド職員を呼んで手際よく頼むヴォルドは手慣れている。
冒険者歴も長く、腕も立つ彼だから何度も会議室を使ったことがあるに違いない。
程なくして、お茶の準備がされ、お茶請けにと用意された焼き菓子をつまんでいると、ヴォルドが口を開く。
「スレアチト学園ももうすぐ卒業だな。で、卒業前にレクリエーションがあるのを知っているか?」
「はい。この前兎鳥の緊急任務を受けた際に少し聴きました。何か起きるみたいな……」
「あぁ、そうだレオン。化粧の国の化けの皮が剥がれる時だな。俺も卒業生だからよぉく知っている」
「ふぅん、なんとも言えないですね」
化粧の国化けの皮が剥がれる、なんてまるで化粧が落ちるみたいな言い方だ。
ヴォルドは苦虫を噛み潰した様な顔をしている。
「俺もしたくもない化粧をしていたんだよ。俺の母国は武闘の国でな、道化師みたいだっていつも陰口を言われてたな。お前らも似たようなものだろ?」
レオンハルトと私は思わず顔を見合わせる。
それは、もう。
「そうですね。薄化粧なんてはしたないって」
「サラは今の化粧の方が似合ってる。それでいいさ」
ヴォルドはガハハ、と笑い飛ばし、お茶を一口啜る。
「レクリエーションでは魔獣の森に行くことになる。この国子供は魔法なんて着飾るものってまともに使えもしないだろ?」
「そうですね。私もレオンも実践に重きを置いてるのでみっともないってよく言われます。先生からの評価は高いですけど」
「教師も諦めてるんだよな。で、レクリエーションだが、間違いなくお前らはフォローせざるを得ない。そろそろギルドからも任務として話が来る」
俗称で物語は続きます。
正式な国名は考えてないです。