5.先輩からの言葉
依頼主はまだ若い私達に少し驚いていたが、兎鳥の魔核を見せ、討伐が完了した事を伝えると何度も頭を下げて感謝してくれた。
「本当に、本当にありがとう。君達は見たところ若いが、学生かい?あの、スレアチト学園の」
「はい、そうです」
チラチラと私とレオンハルトを交互に見てくる依頼主のおじさんは、例に漏れずこの国の特徴である黒髪である。
学生達とは違い、大人になると男性はすっかり化粧をやめてしまうので、顔の印象はかなり薄い。
「君達は、希望だよ。私達は何も知らなかったから。学年は?」
「え?えっと、今年卒業ですね」
レオンハルトが不思議そうに答えると、おじさんは微笑んだようにも見えていた糸目を見開き、とんとん、とレオンハルトの肩を優しく叩く。
「もうすぐ卒業前にレクリエーションがあるはずだよ。大抵の生徒は、無論、私もそうだったが、現実を目の当たりにする。あぁ、今はわからなくてもいいんだ。ただ、悔いているおじさんからの頼み事でね、助けてあげて欲しいんだ」
「助ける?」
「そう、現実を知らない温室育ちのお嬢ちゃん、お坊ちゃん達がそこで終わってしまわないように」
立ち直れない人も多いんだよ、と寂しそうに呟いたおじさんは、胸元のロケットにそっと触れた。
聞くか悩んだけれど、私は視線をそちらに向け、問う事にした。
「それは?」
「妻の写真をいれてあるんだ。学園にいた頃に婚約して、卒業と共に籍を入れてね。彼女は立ち直れなかった方で未だに家から出れない」
子供が同じ思いをするなら、と子供も諦めてね、と肩をすくめたおじさんは寂しそうだが、口元には笑みが浮かんでいた。
自分達の選択に間違いはないと確信している様な、晴れ晴れとした顔だ。
「濃すぎる化粧は、因習だと思うんだ。甘やかし続ける親も。大事なのは自分自身の心構えでね。君達はもう大事なものを持っている。あぁ、ごめんね、話が長くなってしまって。歳をとるとどうもね」
最後にまた討伐の感謝を述べ、おじさんは私達を見送ってくれた。
私は、レオンハルトの手を握り、ギルドへと転移する。
浮遊感があり、すぐに地面に足がつく。
どちらともなく顔を見合わせる。
「……無理して厚化粧やめようかしら」
「俺も明日からそうしようかな」
ちなみに、兎鳥討伐の報酬でドレスは買えたが、何故かドレス選びにレオンハルトは着いてきた。