23.負ったもの
ラヴィーナに連れられ、魔法学教師の元に戻り、転移で学園に帰ると、早々に私は病院に送られた。
怒りで動けていただけで満身創痍だった。
回復魔法をかけられ、数ヶ月は安静に、と言われたが無視して次の日には退院をし、登校すると、魔法学教師に捕まって説教を受ける。
「サラさん。貴方はまだ安静にしないといけないと聞いたのですがね」
「大丈夫です。あの男を引き摺り回さないと気が済みません」
「もう無理ですよ、昨日のうちに牢に入れられましたからね」
そんな事だろうと思いましたよ、と呆れた様にため息を吐かれる。
未遂で済んで良かったものの、魔獣に向けて人を突き飛ばしたのは事実であり、労働刑に処されるのは間違いないだろう、と魔法学教師は教えてくれた。
「彼はもう陽の光を浴びれないかも知れません。貴方が手を下すまでもなく、地獄を見る羽目になりますから」
「その前に一回地獄を見せてあげても良いと思いませんか?」
「駄目ですよ。過剰防衛でも何でもなく、ただの暴力になりますよ」
このまま言い争うだけ時間の無駄だろう。
この魔法学教師に敵うとも思えないので、不服だが、折れることにする。
「……ミレンナはどうなりますか」
「まぁ、婚約は白紙ですね」
婚約者の不祥事だからと連帯責任を負わされない様で良かった。
「とりあえず、サラさん、貴方は安静にしてくださいね。別に今から病院に転移させても良いんですからね」
「愛しい婚約者の側にいれば怪我なんてすぐ治りますよ」
暫くは大人しくすると約束をさせられ、やっと解放される。案外面倒見がいい。
様子を見ていたらしいレオンハルトがやってきて、私の荷物を奪い取っていく。
「怪我人、荷物は俺が持つから」
「やだこれ以上惚れさせるつもりなの」
肩を負傷しているので、地味にありがたい。
卒業まであと数日。
回復魔法で完治させるには傷が深過ぎたので、少しの間は冒険家業はお休みするしかない。
冒険以外にもやる事は色々あるのだ。
「早く卒業したいわね」
「あと数日だろ?」
だらだら話しながらレオンハルトと肩を並べて校内を歩く。
教室に着くと、ミレンナと目が合う。ミレンナは目を見開いて駆け寄って来た。
「サラ! 暫くは安静にしていないとって聞いたわ!」
「病室に篭りきりなんて退屈だもの」
「でも」
視線が彷徨う。ミレンナは落ち着かなさそうに手を握り締め、息を吸った。
「……ごめんなさい、アルが」
「どうして? ミレンナは悪くないわよ」
「それでも、婚約者だった、もの」
手を握っては開く。
付けまつげはもうしていないが、睫毛は長く、瞬きするたび、揺れていた。
「レオンハルトさんに危害を加えようとしたのも、元はと言えば私のせい。化粧を辞めても変わらないままで居てくれると思ったんだけど」
しっかり化粧してる時と違って顔薄いし、とミレンナはあえて明るい顔で笑っているが、何処か自嘲気味に聞こえる。
「ミレンナは綺麗よ?」
「お世辞はいいわよ。サラは素顔でも、綺麗で羨ましい」
目を逸らし、思わず手で顔を隠す素振りを見せるミレンナに、苛立ちを感じた。
コンプレックスって根強いと思うんです。