16.変わっていくもの
「サラ!」
殆どの生徒はその場で未だ動けずにいた様で。
私の手助けをしてくれたミレンナ達が率先して動いてくれていたが、野営する事自体初めてで崩れかけたテントがいくつかぽつぽつと立っているのが見える。
そもそもテント自体持参していない生徒が多いのは例年のことなので、森の中にあった小屋の中に野営に必要なものは前もって備えられている。
「ミレンナ、ありがとう。疲れたでしょ? あとは任せて」
「何を言ってるの、貴方が一番動き回ってるわよ。でも、ごめんなさい、テントの立て方教えてくれるかしら」
「なら一緒に何回か組み立てましょ」
女生徒を連れ、私はテントを組み立て始める。
コツを教えつつ何度か一緒に組み立て、各自まだ組み立てられていないテントをどんどん立てていく。
途中で何人か手伝ってくれる生徒が増え、作業は終わる。
レオンハルトも同じ様にテントを組み立てに回っていて、さっさとテントの中に引きこもってしまった生徒以外は動き回り、汗をかいていた。
「さて、魔獣避けを焚いて、結界も貼っておきますかね」
マジックバッグから魔獣避けにもなる神木の薪を出して配り、等間隔で焚いてもらうよう指示を出して、レオンハルトを連れ、私は木に印をつけていく。
印をつけ終わり、最後につけた印に指を当て、魔力を高める。
「結界」
キィン、と澄んだ音が響く。
明日の朝までは持つだろう。念の為に魔獣避けも焚いているので、余程のことがない限り安全である。
生徒達から少し離れた場所にいるからなのか、木陰からヴォルドのパーティー含む冒険者達と教師達が姿を現した。
「お前らにサポート頼んで正解だった。二つ名持ちもあっさり退けるなんてな」
「ヴォルドさん達こそ、後処理してくださってありがとうございます」
「いいってことよ。俺達正直やる事無かったしな」
なー、とヴォルドはラヴィーナに首を傾けている。ラヴィーナも同調し、こくりと大きく頷いていた。
「大したものだよ、君達」
手を叩きながら近寄ってきたのは魔法学教師。
白髪混じりの紫の髪を長く伸ばし一つに結んで背中に垂らしている。若い頃は女性が寄ってきただろうと推測できる整った顔は歳を重ねてもなお貫禄を兼ね備えている。
紫の髪を持つのは、魔法の国出身の者の特徴だ。
「二つ名持ちの魔獣は流石に私達も出るべきだと思ったのがね、冒険者さん達が君達なら大丈夫だと言ってね」
「言った通りでしたでしょう! こいつらは強いんですよ」
「えぇ、教え子が優秀でわたしも鼻が高いですね」
魔法学教師はいつも目尻が下がっているが、殊更目尻を下げてにこにこしている。
ヴォルドはレオンハルトの背中をばしんばしんと叩いてこちらも嬉しそうである。