15.脅威との邂逅
レオンハルトとはパーティーを組んでいる事もあり、魔力でおおよその位置は把握できる。そこまで距離は離れていない。
転移するには情報が曖昧なので、堪えて先を急ぐ。
途中、スレアチト学園の生徒たちの集まりに出くわすが、相手にしている暇はない。
座り込んでいたり、うろうろしていたり、怒っていたり、泣いていたり、呆然としていたりと多種多様の有様。
温室育ちのお坊ちゃん、お嬢ちゃんには現実はまだ見たくないものらしい。
そして、少しするとやっとレオンハルトを見つけた。
こちらにもレオンハルトの手助けをしている生徒が数人いた。
「レオン!」
「サラ! 流石だな、もう終わったのか」
「ミレンナや他の人が手助けしてたのよ。そんなに強い魔獣もいなかったし」
魔核を取り忘れた事に今気がついたが、まぁ、ヴォルド達が回収してくれているだろう。そう思いたい。
「強そうなのがいるわね」
「二つ名持ちだろうな」
レオンハルト達が対峙していたのは大きな猪に似た魔獣。
口から二本、天に向かって伸びているはずの牙が片方折れている。
「折れ牙巨大猪ってところかしら」
「うわ、強そう」
巨大猪はこちらの様子を伺って、距離をとっているが、背を向けたら突進してくるのは明白。
小さな山かと見間違えそうな巨体で突進されたらひとたまりもない。
「あんなデカイと槍のほうがまだマシかしら」
「久々だな、サラの近接」
「準備運動済みよ、任せておいて」
軽口を叩き合ってはいるものの、状況は芳しくはない。
巨大猪の弱点は鼻だが、正面から馬鹿正直突っ込むのは命知らずがやる事だ。
逃げる事ができれば一番いいが、標的として見られている以上出来ない相談である事は私達も理解している。
「囮になるのと、猪に臭い香水ぶちまけるの、どっちがいい?」
「機動力はサラがあるし、俺は囮をする。信頼してるからな」
「貴方に傷ひとつ付けさせない。行くわ」
レオンハルトが巨大猪の元に迂回しながら走っていく。
巨大猪は向かってくる獲物に雄叫びをあげなら迫る。
「何処かへ行ってちょうだい」
巨大猪の頭上に転移し、マジックバッグから瓶詰めの魔獣が嫌う木の樹液を取り出し、鼻先にぶち撒ける。
聞くに堪えない雄叫びをあげ、巨大猪は鼻先を地面に擦り付け、木にぶつかり、薙ぎ倒しながら森の奥に逃げていった。
巨大猪の姿が見えなくなったのを確認し、レオンハルトの元に戻る。
流石にレオンハルトも疲れた様で、マジックバックから水筒を取り出してごくごくと水を飲んでいる。
「お疲れ様」
「サラもな」
「貴方達も、ありがとうございます。あの魔獣は特に危険なものでしたから、レオンハルト一人では無事では済まなかったでしょうから」
レオンハルトの手助けをしてくれていた生徒達に振り返り、礼を述べる。
慣れない魔獣相手に対峙するには勇気が必要だっただろう。汗でドロドロの生徒達は、にこやかに笑みを返してくれた。
「こちらこそ、二人が飛び出してくれなければ危険さえ気が付かずそのままだったと思います」
「今まで馬鹿にしてすみません」
数にして四人の生徒がやんややんやと話しかけてくる。
私の方は六人の女生徒、レオンハルトの方は四人の男子生徒が手助けをしてくれた。
ふと隣を見るとレオンハルトは袖で顔を拭っていた。
マジックバッグからタオルを取り出して、魔法で湿らせてから放り投げる。
「服汚れるわよ」
「ありがとな。化粧一応してたけどやっぱ邪魔だな」
「あ、化粧道具忘れたわ。明日からしなくてもいいかしら」
「俺も忘れた。二人で後ろ指刺されとこうぜ」
脅威は去ったので、皆を引き連れて、未だ現状を飲み込めていないであろう生徒達の元へ戻る。