14.軸はぶれない
元々、私は槍を使っていた。
双剣使いのレオンハルトと相性が悪かったので弓に変えたのだ。
柄が長く、振り回している時にリーチが短い双剣使いのレオンハルトが飛び込んできたら危ないから。
女にしては長身だが、痩せ型でもある私にハンマーや斧は厳しかった。大剣も然り。
槍は遠心力や重力で扱えるので私でも扱えた。
それに、急所がわかってしまえば、柔いところに突き立てればいけるのだ。これを応用したのが弓なので、軌道さえ読めれば弓を扱うのはそんなに難しくはなかった。
空気を踏み固めながら宙を舞い、湧いて出てくる魔獣を屠っていく。
ミレンナが補助で魔獣を足止めする為に電撃を打ち込んでくれるのでその間にどんどん倒していく。冒険者歴もそこそこあるのである程度魔獣の弱点は頭に入っている。
肩で息をする頃、危険な魔獣にはあらかた倒し、そこまで強くない魔獣だけが残った。
わざわざ倒さなくても殺気を放つだけで逃げていく小物ばかり。振り返って、ミレンナに声をかけようとすると、ミレンナの周りに何人かの女生徒が立っていた。
「ミレンナ、ありがとう。貴方達も補助してくださったのね、ありがとうございます。少し離れてもらえる? 刺激が強いかも知れないから」
「なにをするの?」
「威嚇。殺気に当て慣れてないならちょっと大変な事になるわ」
「わかった」
ミレンナが周りの女生徒に声をかけ、後退したのを確認し、私は息を吸い込んだ。
轟、と喉から咆哮を放つと、残っていた魔獣達はそそくさと逃げ出した。
「戻りましょう。レオンの方も気になるし」
「えぇ、本当に、サラは凄いのね」
「兄妹達いっぱいいるからね。自分の食い扶持くらいは稼ぎたくて頑張っただけよ」
ミレンナ筆頭に、そこにいた女子からの視線がくすぐったい。
別に大したことなんてない。
愛の国と言われるくらいなので自然と大家族になりやすいだけだ。そして私は長女なのでさっさと働きに出ていただけで。
愛する家族の為ならどれだけでも頑張れた、それだけ。
「私も、今からじゃ遅いかしら」
「大丈夫でしょ。立とうとしてる者を笑う愚か者なんて私が斬り伏せてあげる」
「サラったら。ふふ、ありがとう」
ミレンナはクスクスと笑い声をあげた。
汗で化粧が崩れていたが、気にならないくらいに彼女の背筋は真っ直ぐで凛としている。
ミレンナと共に私の補助をしてくれた人たちも同じ。
化粧なんてなくても凛としていて綺麗だ。
「あー、やっぱり化粧崩れるわね」
マジックバッグから適当なタオルを取り出して、魔法で湿らせて大雑把に顔を拭う。
綺麗に化粧は落ちてはいないだろうが、まぁいい。
「本当に、格好いいわ。サラ」
「そう? 皆はゆっくり戻ってもいいわ。私はレオンのところに行くわね」
「いってらっしゃい」
レオンハルトは腕の立つ男だ。
心配はしていない。しかし、私はミレンナや他数人の助けがあった。
向こうにもまともな人間は何人かいて欲しいが、なんとも言えないのが現状だ。
舗装されていない地面は走りやすいとは言えない。
もどかしい思いを抱えながらレオンハルトの元へ急ぐ。