12.鏡を拭く頃
そして、翌日。
大多数の生徒の心とは裏腹に雲一つない快晴だった。
私とレオンハルトはいつも任務に向かう時の服装だ。動き易く、戦い易く、魔獣からの攻撃を受けても大丈夫な様に籠手や胸当てを着けて集合場所へと向かった。
集合場所は学園の校庭だ。
集まっている生徒達は動きにくそうな格好にそれなりの大荷物で、本当に先が思いやられる。
教師達は軽装で、人によっては私達みたいに防具を身に付けている。
そして、教師達の後ろにヴォルドやラヴィーナ、そのパーティーメンバーを見つけ、思わず手を振る。
「野蛮ね」
誰かが呟いた言葉はいつもの様な棘はなく、しれっと見渡すと、誰もが暗い顔をしている。
「おはよう、ミレンナ」
「おはよう、サラ。あぁ、貴方達は本当に、未来を見据えてきたのね」
「顔色が悪いわ」
「大丈夫よ。今更自分の未熟さに気が付いたのよ」
ミレンナは昨日に比べると化粧が薄く感じる。
隣にいる男は、ミレンナの婚約者だろうか。例に漏れず暑化粧で、ミレンナの顔をチラチラ見ては、顔を顰めている。
「ミレンナ、どうしたんだ。なんだその化粧は。だらしがない」
「誰? って言うか、何? 化粧してるだけ偉いじゃないの。これから泊まり込みのレクリエーションよ。魔獣も出るって聞いてなかったわけ?」
「こっちの事情に口出しするな。卒業したら俺とミレンナは結婚するんだ。こんな恥ずかしい奴と結婚なんて先が思いやられる」
ミレンナは俯いて、黙り込んでしまった。
レオンハルトが私の肩に手を置いて引き止めようとしているが、知った事じゃない。
「は? 自分たちの意思で決めた婚約でしょ。筋を通しなさいよ。愛したなら最期まで。駄目なところも愛おしいと思いなさいよ。愛してる女でしょ。愛した女に、過去形にするんじゃないわよ」
「うるさいな。ろくに化粧も出来ない癖に」
「化粧がなに。既にレオンには素顔見られてるし、レオンの素顔も見てるわよ。何も変わらないわ。ギャップもひっくるめて愛おしいでしょうよ。愛する人の素顔なんて誰にでも見せない、自分だけに許された特権なんだから慈しみなさいよ」
ヴォルドたちパーティーが口笛を吹いているのが聞こえた。絶対楽しんでる。
レオンハルトは私の肩に顔を埋めて恥ずかしがっている。めちゃくちゃ可愛い。
「はい、レクリエーション始める前から喧嘩しない。でもサラさん、貴方の言う事は正しいね」
パン、と手を叩いて注目を集めたのは魔法を教えている教師だ。
白髪混じりでいつも目尻が下がっている様子はどことなく胡散臭さを感じさせる。
「このレクリエーションでは、誰もが、いや、例外はいるが」
魔法学教師の視線が私とレオンハルトに向いた。
「素顔を晒してしまう状況下にあると怯えている事だろうね。まぁ、言われてしまったが、化粧で塗り固めた姿だけを愛する姿勢を打破するためのレクリエーションだ。思う存分、怯え、悩み、そして、這い上がっておいで。今年は運が良い。他国出身の親を持つ生徒が居るからね」
生徒達を見渡し、言い切った魔法学教師は、背丈ほどもある杖で地面を叩いた。
彼中心に広がった魔法陣は光り輝き、転移する時の浮遊感をもたらした。
友人の設定は後から生えるものと言う言葉を胸に執筆してました。
途中でキャラの性格がじわっと変わるのはそう言うことです。