10.新しい友人
いつも通り、化粧が薄いと陰口を叩かれつつ、教室へと向かう。
聞こえる陰口って最早影じゃ無いじゃん、としょうもない事を考えながら教室へ足を踏み入れ、真っ先にレオンハルトの元へ向かう。
「おはよう、レオン」
「おはよう、サラ」
挨拶のキスをしようとにじり寄ったらしれっと避けられる。照れ屋さんめ。
「まだ俺達には早い」と顔を赤らめて距離を取るレオンハルトのなんと可愛いことか。
レオンハルトと婚約して家族に惚気ていると、家族からの優しい視線を貰うのが最近の日課である。
兄妹達も私の様子に「早く婚約者が欲しい」と喚き出す有様である。
「本当にはしたない」
「仕方ありませんわ、他国の人間ですもの」
クスクスとまたまた聞こえる陰口。
くるりと振り返り、固まってこちらを見ている厚化粧の集団に近付くと、今までしたことの無い私の行動に怖気付いた様にぴたりと口を噤む。
「こちらの国では愛情表現もしないんですね。寂しくありません? 愛を疑った事は?」
「急になんですの」
「いえ、ふとした疑問で。これでも我慢してるんですよ。まだ口付けさえ許してくれないもので。口説くだけで触れ合う時間なんて……!」
「サラ、俺に流れ弾飛んできてる、やめて」
「全く、レオンにも言ってるのよ? 頬のキスくらい良いじゃない! さよならのハグさえさせてくれないし」
「愛の国と比べるな!」
痴話喧嘩を始めた私達を尻目にそそくさと私達に陰口を叩いていた集団は散っていった。
「わかったから。でも恥ずかしいからまだだめだ」
「いつなら良いのよ」
「卒業してから」
「長い」
「……今日の昼ごはん作ってきたから許せ」
顔を真っ赤に染め上げてそっぽを向いたレオンハルトの様子に溜飲を下げる。
レオンハルトは料理の国の血を引いているのでとてつもなく料理が上手だ。
「愛の国出身、ねぇ」
「料理の国の人って、確か手料理を……」
周りの空気がなんとなく変わった事に、私達は気が付かないまま、始業のベルが鳴った。
教師がやってきて、レクリエーションの説明をする。
三泊四日で行われるレクリエーションでは、卒業後に役立つ様に自分達で野営をし、時には魔物討伐も行うとの事。
私とレオンハルトは事前に聞いているのでなんとも思わなかったが、生徒達からは非難轟々だ。
何の役に立つ、野営なんて無理だ、化粧を落とす環境でもないし、できる環境でもないから嫌だ、など。
今まで行ってきた事であり、拒否権などは勿論無く、早速明日からだと、教師は全ての意見を跳ね除けた。
反対は承知の上で、迅速に決行するあたり、逃亡者を許さないのだろう。
参加しなければ卒業資格は与えないとまで言い切られ、ざわめきが溢れるばかりだ。
学園を卒業出来ないと未来はかなり狭まる。
不服そうなのは変わりないが、諦めの空気に変わっていく。
「いいですわよね、貴方は。化粧を落としてもどうせ変わらないのでしょう?」
「えぇ、まぁ。えっと?」
隣の席の女生徒に話しかけられるものの、今までレオンハルト以外の生徒とろくに話した事がないので名前がわからない。
つけまつ毛をこれでもかと重ねている彼女は目を伏せた。
「ごめんなさいね。羨ましくてつい。私はミレンナです」
「サラです。羨ましいってどうして?」
「堅苦しいのは無しにしましょう。この国の化粧の意味を知ってるかしら」
「身嗜み、伝統、そんなところじゃないの?」
「隠すためよ」
つい私はミレンナを見つめてしまう。
確かに化粧は濃い。しかし瞳の奥にチラつく意志の強さは確かだ。
「ミレンナは綺麗だわ」
「化粧を落としても同じことを言ってくれると嬉しいわ」
頬に手を当て、眉尻を下げて寂しそうに微笑むミレンナ。
濃い化粧だと、素顔になった時のギャップは確かにあるだろうが、元々の造形をまるっきり変えてしまう化粧は無い。
そもそも、ラヴィーナというこの国出身の知人もいるので、なんとなく想像もつく。
その後、授業を受け、待ちに待った昼休み。
仲良くなったミレンナも昼食に誘ってみたが、「あら、料理の国の手料理を振る舞う意味を知らないのね」と微笑ましそうに笑われ、見送られた。
後でレオンハルトに聞こう。
両思い状態の愛の国の人は息する様に惚気るのがデフォ