【3】 婚約破棄されたので、初めて我儘をいうことにした。(主人公ロゼッタ視点)
『親愛なるジェシカへ。
実は私、王立学園を辞めることになりました。
理由は、オーウェン・クルス辺境伯令息との婚姻が決まり、彼の元へ住まいを移すことになったからです。辺境伯家から通える学校へ編入して、卒業したら籍を入れます。
ジェシカがこの手紙を読む頃には、もう私はクルス辺境伯家へと向かっているので侯爵家にはいません。あちらの学校へ編入できる時期がぎりぎりで、ジェシカに直接挨拶できず出発することになってしまい、ごめんなさい。
シルヴェスター様に婚約破棄された日の夜、私、お父様に初めて我儘を言ったの。
厳格なお父様のことだから怒られると思ったけど、なんだか真剣に私の話を聞いてくれて、オーウェン様との結婚や、学校の編入の手配、あちこち掛け合ってくれて数日で話をまとめてくれたわ。
ああ、確かジェシカはオーウェン様のことが怖くて苦手だって言っていたわよね。
今頃、私が無理やり恐ろしい辺境伯令息に嫁ぐことになって泣いているんじゃないか、とかそんな想像していたりして。
言っておくけど、別にお父様が勝手に決めたとかそういうわけではないわ。
私の意志でオーウェン様の元に嫁ぐの。だから心配しないでね。
私、あの家に生まれて、ずっと貴族の娘としての責務を全うするために生きてきたわ。辛いこともあったけど、ジェシカ、貴女が親友でいてくれて本当に良かった。
じゃあ、落ち着いたらまた連絡するわ。
ロゼッタより』
ジェシカへの手紙をしたため、侯爵家のメイドに投函するよう告げると、ロゼッタは使用人数人を連れて馬車でクルス辺境伯領へと出発した。
数日かけて、広大な丘の上に聳え立つクルス辺境伯の屋敷に着いた。
屋敷の前で馬車から降り、大きい門をくぐると、ロゼッタ達を出迎える一人の人影があった。
「ロゼッタ様!」
それは、オーウェンの従者であり、王立学園にもオーウェンと共に通っていたエラであった。
ロゼッタと同じ年齢である筈だが、身長は十代前半から伸びていないのか子供のように低く、くるくるの赤毛とそばかす顔が可愛らしい少女である。
「よく来てくださいました! オーウェン様もお待ちですよ、さあさあ!」
ロゼッタはエラに手を引かれ、屋敷の中に入る。
広いロビーに、オーウェンが立っていて、ロゼッタの心臓が静かに跳ねた。
オーウェンは、つかつかと歩み寄るとロゼッタの前に立った。長身なので、ロゼッタを見下ろす形になる。
その綺麗に整った顔を見上げながら、相変わらず仏頂面だ、とロゼッタは思った。
「お、オーウェン様……お久しぶりです」
「……長旅ご苦労様です。部屋に案内します」
ニコリともせず言って、オーウェンは背を向けた。
「……あの、オーウェン様……!」
その後ろ姿に向かって、ロゼッタは声をかけた。
「すみませんでした……私のせいで……」
「……いえ、結婚のことでしたら、マリアーノ侯爵家と縁を結ぶことができるのは我がクルス家にとっても喜ばしいことです」
オーウェンが背を向けたまま、そう言った。
「ちょっとオーウェン様、もっと他に言うことないんですか? ロゼッタ様がせっかくお嫁にきてくださるのに! 昨日あんなにテンション上げてどんちゃん騒ぎしてたじゃないですか~!?」
近くにいたエラがきゃんきゃんと騒ぐ。
「馬鹿! 余計なこと言うなエラ!」
「むぐっ!」
オーウェンがエラの首根っこを掴み上げ、その口を片手で塞いだ。
ロゼッタの角度からはオーウェンの顔はよく見えなかったが、わずかに、耳が赤くなっていた。
「こいつの言うことは気にしないでください……」
オーウェンは大人しくなったエラをポイと投げると、再び中央の大階段へと足を進める。
「……いきなりの結婚話でご迷惑をおかけしたことも勿論そうですが、……私が謝りたかったのは、王立学園での、あの事件のことです」
「……」
ロゼッタはオーウェンの背中に向かって静かにそう言った。
♢♢♢♢
あの日の放課後。
ジェシカが生徒会活動で不在のため、ロゼッタは一人で自習室に残りひとしきり勉強をした後、ちょうど帰るところであった。
すると、廊下で顔だけは知っているあまり接点のない男子生徒に呼び止められた。
「手伝ってほしいことがあるからちょっときてほしい」
そう言われるままにロゼッタは資料準備室に入った。中には既に男子生徒が四人いて、にやにやとロゼッタを見ていた。ただならぬ雰囲気を感じ、ロゼッタが部屋を出ようとすると、自分をこの部屋に連れてきた男子生徒が出口を塞いだ。そのまま、その生徒は扉を閉めると、外から鍵をかけてしまった。
「きゃあ……!」
男子生徒達は四人がかりで、ロゼッタの体を押さえ付けた。ロゼッタの口に何やらテープのようなものを貼り、声を出せないようにする。
――学園内でこんなことをするなんて、正気なの?
ロゼッタは体から血の気が引くのを感じた。渾身の力で抵抗するが、男四人相手に敵う筈もなく。ガタガタと室内の棚に体が当たり派手な物音がする。
制服のリボンを強引に外され、襟が乱れる。
ロゼッタは絶望し、目を瞑った。
「な、なんだよ!」
その時。
部屋の外で見張りをしていた男子生徒の声が聞こえた。
そのまま、ガチャガチャと鍵を回し、扉を開けた人物は。
「げえっ……オーウェン!!」
男子生徒達がその姿を見て、青ざめた。
見張りをしていた男子生徒の胸倉を掴み上げながら、オーウェンは状況を確認するかのように、室内を見渡した。オーウェンとロゼッタの視線がかち合う。
「……エラ!」
「は、はい!」
オーウェンの後ろに隠れていたエラが飛び出してきて、自分が制服の上から羽織っていたパーカーを脱ぎ、ロゼッタの、下着が見えてしまうほど乱れている制服の上に着せた。
「大丈夫ですか……! ロゼッタ様」
エラは心配そうにロゼッタの顔を覗き込み、口に貼り付けられたテープをはがす。
助かった、と理解したと同時に、ロゼッタの目から涙がぼたぼたと落ちてきた。
「ッ……、ありがとうございます……。オーウェン様、エラ様」
涙を流しながら感謝の言葉を口にするロゼッタに、オーウェンとエラは神妙な表情を浮かべた。
この状況は誰が見ても、不埒な男子生徒五人が、女子生徒一人に対し無体を図ろうとしていた現場だろう。
「……。お前達、これは大問題だ。教師に報告する。大人しく俺についてこい」
オーウェンは男子生徒達を睨みつけた。その鋭い視線に、男子生徒達はおびえる。
「ロゼッタ様も一緒に行きましょう」
エラがロゼッタを支えるように立ち上がらせる。
しかし、ロゼッタは。
「……お待ちください。報告は不要です。もう、こんなことをしないとお約束してくだされば、大事にはいたしません」
「!? 何を……?」
ロゼッタの発言にオーウェンは目を見開いた。
ロゼッタは、何も男子生徒達に慈悲の心を持ち、そんな発言をしたわけではない。マリアーノ侯爵家の人間である自分が学園内で襲われそうになったなど、そんなセンセーショナルな話題を提供すればどんな噂話が広まるか分かったものじゃない。果ては、父や婚約者のシルヴェスターにも迷惑がかかるかもしれない、そのリスクを恐れたためだ。
男子生徒達は口々に「もうしません」「申し訳ありません」と反省の弁を述べた。
オーウェンは納得いかなそうにしばらくロゼッタを見つめていたが、「分かりました」と溜め息を吐いた。
「エラ、ロゼッタ嬢をご自宅までお送りしろ」
「はい!」
一人になるのは心細かったので、エラが付き添ってくれてロゼッタは安心した。
そのまま、侯爵家に帰り、自分の部屋に一人になると、今日のことがフラッシュバックした。ベッドに潜り込み、がたがたと震える体を必死に押さえつけた。
(オーウェン様……)
目を瞑りながら、ロゼッタは自分を助けてくれたオーウェンの姿を思い出した。
(明日、改めてお礼言わなくちゃ……)
そう思っていたのだが、予想以上に精神にきたらしく、体調を崩しロゼッタは寝込んでしまった。
それから体調が回復したのは、七日ほど経ってからだった。
次に学園に登校したとき、オーウェンもエラももう学園に在籍していなかった。
オーウェンが暴力事件を起こし、男子生徒五人を半殺しにした、とジェシカから聞いた。そして、男子生徒達は全員自主退学し、オーウェンは学園を追放された、とも。
「私、直接喧嘩の場面は見てないんだけど、返り血を浴びて先生達に連れられていくオーウェン様の姿を見ちゃったのよ。もうとんでもなく怖くてトラウマよトラウマ。鬼みたいだったわ」
ジェシカは心底怖かったのか、身振り手振りを付けてロゼッタにその恐ろしさを伝えた。
「……喧嘩の理由は? 何と言っていたの?」
「それが、オーウェン様もボコボコにされた五人も理由については何も言わなかったそうよ。不思議よね」
「……」
ロゼッタは、目の前が暗くなった。
一人でぼーっと歩いていると、またシルヴェスターとナンシーが二人一緒に親密そうにいるところを見た。普段なら、小言の一つや二つは言っている。
しかし、今のロゼッタにはとてもそんな気は起きず、黙って踵を返した。
♢♢♢♢♢
「お姉さまって運がいいのね」
マリアーノ侯爵家の屋敷でナンシーに呼び止められた。
「何が……?」
「だって、ピンチのときにちょうどかっこよくオーウェン様が助けてくれるなんて。まるで恋愛小説みたい。うらやましいわ」
「は……?」
ロゼッタは、一瞬何を言われたのか分からなかった。
しかし、瞬時におぞましい可能性が頭をよぎる。
「待って。もしかして、あれは……貴女の差し金だったの……?」
襲われそうになったことはオーウェンとエラ、男子生徒本人たちしか知らない。
「……ん~?」
「ナンシー、答えなさい!」
ナンシーがどっちつかずな返事をするので、ロゼッタは苛ついた。
「だって~。お姉さまは暴漢に襲われたらどうするのかなって知りたかったの。何もなかったような顔をしてシルヴェスター様の元に嫁ごうとするのか、それとも身を引くのか……世間体を気にするお姉さまはどうするのかなって」
クスクスとナンシーは笑う。ロゼッタは目の前の人物が悪魔のように見えた。
「これは、病院送りにされた男子達のお見舞いに行ったとき聞いたんだけど。……お姉さまたちが帰ったあとね。男子の一人が、言ったんだって。『こんな目にあって、問題にしないなんてよっぽど世間体が大事なんだな』って。『だったら、また何度でもやってやる』って。それが、その場を立ち去ろうとしていたオーウェン様に聞こえちゃってたみたい。オーウェン様ブチ切れちゃって、あのザマよ。馬鹿よね~」
その後、オーウェン様が五人の病室に訪ねてきて、一切今回の喧嘩の理由については言わないと脅して約束させたんだって、と。ナンシーはそう続けた。
「……」
私のせいだ、とロゼッタは思った。オーウェンは男子生徒五人に口止めし、学園内では暴力事件の当事者として非難されながらも、一切理由を言うことなく追放された。ロゼッタの大事にしたくない、という思いをオーウェンは汲んでくれたのだ。
「ナンシー、貴女最低よ……」
「ウフフ、じゃあどうする? お父様に告げ口でもする? お姉さまが学園内で暴漢に襲われたっていうことを話すの? でも間一髪助けてもらったから貞操は無事でしたって? お父様はどんな反応を示すかしら」
「……」
それは、ロゼッタも恐ろしかった。父のマリアーノ侯爵はいつもロゼッタに厳しい。
今回の件は、父にはとても言いづらい話題ではあるし、最悪自分の隙を責められる可能性も捨てきれない。
結局、ロゼッタはこのことを誰にも相談できず、胸にしまうしかなかった。
しかし、いつナンシーがまた同様の事件を計画するかもしれないという不安があり、前以上になるべくジェシカと共に過ごすようにし、一人の時は人一倍気を張って生活した。
――ロゼッタは、オーウェンに謝りたかった。謝罪の手紙を出そうかと思ったが、勇気が出なかった。きっとオーウェンは自分に対し怒っているだろう、と思っていた。
そして、先日のパーティーでロゼッタはシルヴェスターに婚約破棄を宣言された。ロゼッタはナンシーに嵌められ、いじめの冤罪をかけられてしまった。また、ナンシーを暴漢に襲わせた、とも。
(もう、良いわ……)
パーティーから帰ると、半ば自暴自棄になったロゼッタはマリアーノ侯爵に、婚約破棄のことや、いじめ疑惑をかけられたこと、ナンシーから受けた被害の全てを告白した。
そして、今まで侯爵令嬢として規律を守り粛々と生きてきたロゼッタは生まれて初めて父に我儘を言った。
「オーウェン・クルス辺境伯令息の元に嫁ぎたいです」と。
♢♢♢♢
「……あのことでしたら、ロゼッタ嬢が謝ることではありません。俺が奴らを許せず、勝手にボコボコにしただけですから」
「でもオーウェン様は、私が世間体なんてくだらないものに拘っていたのを汲んでくださり、誰にも理由を言われませんでしたわ。そのせいで貴方は学園を追放され、少なくない悪評が付いてしまった。謝っても謝り切れません」
「未婚の女性が世間体を気にするのは当然でしょう……くだらなくはないです」
オーウェンはロゼッタに向き直り、変わらず仏頂面でそう言ったが、どことなく困っているような心配しているような複雑な表情を浮かべているのを、ロゼッタは読み取った。
「シルヴェスター殿との婚約破棄の件は……残念でしたね。妹であられるナンシー嬢が裏で動いていた、とマリアーノ侯爵から聞いています。そのせいで、もう学園に戻れなくなり、こんな辺境の地に嫁ぎにくるしかなくなった」
「いえ、そんなことは……」
嫁ぎにくるしかなくなった、というオーウェンの発言に、ロゼッタは訂正しようとした。しかし、それより早くオーウェンが続ける。
「ロゼッタ嬢は不本意でしょうが、俺は嬉しいです。……貴女は俺の初恋の人ですから」
「……え」
随分あっさりと、オーウェンは言った。
「は、初恋……? わ、私がですか?」
動揺して、ロゼッタは舌を噛みそうになる。
「はい。覚えていますか? まだ十歳やそこらのとき、一度マリアーノ侯爵家へ訪れたことがあります」
ロゼッタは、覚えていた。その頃、シルヴェスターをはじめ、婚約者候補の貴族令息達がマリアーノ侯爵家を訪れ、見合いのようなことをしていた。
幼い頃より侯爵家の令嬢として厳しく躾けられていたロゼッタであるが、その過酷な教育にキャパシティオーバーを起こし、大分精神的に参っていた時期があった。油断すれば涙が勝手にこぼれてしまう。
それほど追い詰められていたとき、クルス辺境伯と共にオーウェンが侯爵家に訪れた。
マリアーノ侯爵とクルス辺境伯は、ロゼッタとオーウェンの親睦を深めさせるため、二人きりにした。
ロゼッタは、オーウェンに対し綺麗だが愛想のない少年、という印象を持った。
しかし、オーウェンは意外にも調子の悪そうなロゼッタに気付き、「大丈夫ですか」と、その体調を気遣った。
「大丈夫です。……オーウェン様、せっかく来てくださっているのに申し訳ありません。少しこの教科書を進めても問題ありませんか? このままだと今日の夕方からの家庭教師の授業の予習に間に合わないのです……」
「構わないですが……。隈がひどいです。あまり寝られていないのでは?」
「ええ、寝る間も惜しんでやらないと、私は要領が悪いのでとても追い付かないのです……」
「え? もうこんなところまでやっているのですか? これは、学園でも最高学年の範囲では……」
オーウェンは、ロゼッタが読んでいる教科書を覗き見ると驚く。
「俺は勉強はからきしで。剣をふることしか能がありません。……ロゼッタ嬢はすごいですね」
無表情ではあるが、そう、感心するように言った。
途端に、ロゼッタの大きな瞳からぼたぼたと涙が落ちて、ノートにしみをつくる。
「えっ、す、すみません、俺、何か失礼を……」
突然泣き出したロゼッタに、オーウェンはどうしたらいいのか分からず、その仏頂面を崩し、慌てた。
ロゼッタは悲しくて泣いたのでない。今まで勉学もマナーも、できて当然と父にも家庭教師にも、誰にも褒められたことなどなかった。
オーウェンの何気なく、でも心の底から出た一言に、涙がとめどなく溢れてしまった。
焦るオーウェンに対し、ロゼッタは涙を拭いながら笑みを浮かべた。
「なんでもありません……オーウェン様はお優しい方ですね」
そう笑いかけると、オーウェンの頬が少し赤くなった気がした。
数々の婚約者候補たちに一通り会った後、マリアーノ侯爵がロゼッタを呼び出し「お前の希望の相手はいるか」と聞いた。
ロゼッタは、オーウェンのことを言えなかった。
何回も侯爵家を訪れているシルヴェスターとの婚約を進めたいのだな、と父の思惑を薄々感じ取っていたからだ。
そして、結局シルヴェスターとの婚約が結ばれた。
「ええ、覚えております。……私の初恋もオーウェン様ですから」
「えっ?」
ロゼッタがそう返すと、動揺するのはオーウェンの番であった。
「お、俺が、は、初恋ですか……?」
今度はオーウェンが舌を噛みそうになっている。
「はい。でも、シルヴェスター様と婚約が決まり、その思いは心の奥底にしまいこみ蓋をしました。……しかし婚約破棄になり、ここぞとばかりに私は自分の初恋を叶えるべく、父に我儘を言いました。オーウェン様の元に嫁がせてほしい、と」
「…………なるほど」
オーウェンが奇妙な返事をした。
顔を見ると、耳まで赤くなって、視線は明後日の方向を向いている。
「……私の我儘で、オーウェン様には無理やり婚姻を結ばせてしまったと申し訳なく思っていました。しかし私の一方通行の想いではないと知り、安心しました」
「お、俺こそ……妹に嵌められシルヴェスター殿と婚約破棄になり、失意のどん底にいる貴女を娶るのは、付け込むようで申し訳なく、時間がかかっても俺と一緒にいて安らぎを与えられたら、とそう思っていました。しかし、どうやら……」
り、両想いのようですね……。
オーウェンが消え入りそうな声で言った。
「なんですか、そのまとめ」
二人を見守っていたエラがツッコミを入れると、オーウェンはロゼッタの前に跪いた。
「ロゼッタ嬢、貴女は俺が幸せにします。……結婚してください」
「……はい!」
そうして、ロゼッタの初恋は叶ったのである。
『親愛なるジェシカへ。
久しぶり。こっちに来てから早いものでもう一か月経つわね。
生徒会長の就任おめでとう! 前会長が退学になって、しばらくは業務も大変だと思うけど、貴女なら学園を引っ張っていけるわ。ずっと、応援してるからね。
私は今、編入先の学校にオーウェン様とともに通ってるわ。
オーウェン様ってね、とっても強くて優しい方よ。ちょっと表情が乏しい方だけど、照れると真っ赤になってそこが可愛らしいの。
早く卒業して、正式に夫婦になりたいわ。
ああ、そういえばシルヴェスター様って王立学園を辞めたのかしら?
この前私が不在のときにクルス家の屋敷にシルヴェスター様が訪ねてきたって、オーウェン様が言ってたわ。なんでも、私を引き取りにきた、とか。怖いわよね。
でもオーウェン様が追い払ってくれたから大丈夫よ。
私、あの日勇気を出してお父様に我儘を言って本当に良かった!
ジェシカ、良かったら今度こっちに遊びにきてね。
景色のいいところ、案内するわ。
ロゼッタより』
【完】
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