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【1】 親友が、パーティーで婚約破棄された。(友人ジェシカ視点)

パーティーで婚約破棄される令嬢ものに挑戦してみたく、書いてみました。

ハッピーエンドです。お読みいただけると嬉しいです!


「ロゼッタ! 君との婚約を破棄する!」


 今日は、ジェシカが副会長を務める生徒会が主催する、王立学園の生徒同士の親睦を図るためのパーティーが行われていた。


 ジェシカ達の入念な準備の甲斐あり、滞りなく和やかな雰囲気で進んでいたパーティーで、突如シルヴェスター・サンティアゴ公爵令息の声が響き渡った。

 

「君は、妹であるナンシーを冷遇し、家でも学園でも嫌がらせを繰り返していた。僕は君が許せない。君との婚約を破棄し、ナンシーと婚約を結ぶことにした!」


 シルヴェスターに非難され、周りの生徒達の注目を一身に受けるのは、ロゼッタ・マリアーノ侯爵令嬢。……ジェシカの親友である。


 シルヴェスターの隣には、ロゼッタの妹であるナンシーが寄り添うように立っていた。


(え、な、何……?)


 何が起こっているのか、頭が追い付かなくてジェシカは呆然としてしまう。それは、ジェシカの近くにいる他の生徒会メンバーも同様であり、皆どうするべきか迷い、顔を見合わせていた。



「……シルヴェスター様、私におっしゃいたいことがあるのは分かりました。また明日にでも、公爵家を訪ねますので、その時お話ししましょう。……ああ、皆さまお騒がせいたしました。何でもありませんので、ご歓談をお楽しみくださいませ」


 ロゼッタは、いきなりのことにも動揺するそぶりを見せず、シルヴェスターをいなし、冷静に周りの生徒達に呼びかける。


 そして、少し遠くに立っていたジェシカに、「ごめん」と目配せして伝えてきた。


 ジェシカや他の生徒会メンバーがこのパーティーの準備で忙しく走り回っていたことを知っていたロゼッタは、自分達が変に注目を浴びてパーティーを台無しにしないように言ってくれたのだろう。


 しかし、ロゼッタのそんな配慮も虚しく。


「――いや、この場で言うことに意味があるのだ。君がどのようにナンシーをいじめてきたか。貞淑な令嬢の仮面の裏に極悪非道の真の顔を隠し持っていることを、皆に知ってもらわねば!」


 そう言うと、シルヴェスターは生徒会長のブルーノを呼びつけた。


(……え、ブルーノ会長……!? 何して……)

 

 ブルーノは、何やら資料のような物を持って、シルヴェスターの隣に立った。


 そして、その資料を読み上げる。


「『――〇月〇日14時頃、ロゼッタ嬢は妹であるナンシー嬢のノートを破り、窓から噴水に投げ落とす。証人は目撃者の〇〇・〇〇令息。――×月×日10時頃、ナンシー嬢を階段から突き落とし、全治三日の怪我を負わせる。証人は〇〇・〇〇令息。――△月△日15時頃……」


 証人として名前を呼ばれた者達がぞろぞろと出てきて、ブルーノの元に並び立った。

 生徒達は、この成り行きをひそひそと囁きあいながら見守っている。


(……なに言っているの? ロゼッタがいじめなんてそんなことをするわけないじゃない!)


 マリアーノ侯爵家は王家からの信頼も厚い由緒正しき名家である。

 ロゼッタは侯爵家の令嬢として厳しい教育を受け努力を重ねてきた。美しく、成績も特別優秀で学園の生徒達の憧れの的であった。かといって決してお高くとまっていることもなく、ジェシカのような伯爵家の娘相手にも親友として対等に接してくれている。

 そんなロゼッタの人間性を幼い頃から知っているジェシカは、シルヴェスターやブルーノの言っていることは荒唐無稽(こうとうむけい)なことにしか思えなかった。


(ブルーノ会長、貴方……ろくにこのパーティーの準備もしないで私や他の生徒会のメンバーが忙しくしているときに、自分はシルヴェスター様とこんな馬鹿らしいことを計画していたというわけ?)


 ジェシカは怒りで震え、ブルーノを睨みつけた。


「――このように、ロゼッタ、君の数々の悪行を目撃した者達が、君の家格を恐れずに勇気を出して名乗り出てくれた。……その者達のためにも、ナンシーのためにも、このまま君を僕の婚約者のままでいさせるわけにはいかない」


「……シルヴェスター様、私は誓ってそのようなことはしておりません。何かの間違いです」


 黙って証言を聞いていたロゼッタが、静かにそう言った。

 ジェシカも急いでロゼッタの隣まで行く。そして、ロゼッタの援護射撃をするべく、口を開いた。


「恐れながらシルヴェスター様。私、ロゼッタ様の友人として、学園では共に行動していることが多いですが、ロゼッタ様がナンシー様に嫌がらせを行うなど、見たこともありませんし、そんなお人ではございません。……そのことは幼い頃からのロゼッタ様の婚約者であるシルヴェスター様が誰よりご存じなのではありませんか?」


「ジェシカ・ウェバー伯爵令嬢か……。確かに、僕もロゼッタはいじめ等をするような人間ではないと思っていたよ。侯爵令嬢として厳しい教育を受け、誰より正しくあろうとする清廉潔白な女性だと……。しかし、それは間違いだった。ロゼッタ、君は僕と友人として親しくしているナンシーに嫉妬し、あろうことかそれを誤った方法で行動に移したのだ」


 シルヴェスターは心底がっかりした、というような表情を浮かべた。


 ロゼッタの妹であるナンシーがシルヴェスターと最近親しくしていたのは知っていた。

 ジェシカは度々彼らが二人きりでいるところを目撃していたし、心配になりロゼッタに二人の仲は健全なものなのかそれとなく聞いたこともあった。

 ロゼッタは「誤解を与える行動は慎むよう、両方に注意はしているんだけどね……」と少し困ったような顔で笑っていた。



「ジェシカ嬢。君はロゼッタ嬢と学園で一緒に過ごしていることが多いと言ったが……。よく見たまえ。いじめが行われていた時刻は、君が生徒会のミーティングや呼び出しを受けているときだよ」


「え……?」


 ブルーノに言われて渡された資料を読むと、先ほどの読み上げのときには気付かなかったが、どの日時も確かにジェシカが生徒会の仕事をしているときで、ロゼッタとは一緒にいなかった。


「君の目を()(くぐ)り、そこの悪女は、ナンシー嬢をいじめたんだ」


 びしっとブルーノがロゼッタを指差し、きっぱりと言った。

 ざわざわと周りの生徒達が騒ぎ出す。


「……ブルーノ会長、マリアーノ家のご令嬢相手に悪女などと……少し口が過ぎるのでは? 正直、私はロゼッタ様がいじめをするなど、とても信じられませんわ」


「なんだと? この数々の証拠が捏造だとでも言いたいのか? ナンシー嬢や証人たちが嘘をついているとでも?」


 ジェシカが苦言を呈すると、ブルーノは厳しい口調でそんなことを言ってくる。


 すると、今まで黙ってシルヴェスターに寄り添っていたナンシーが耐えられない、というように口を開いた。


「本当のことです!! 私、お姉さまにいじめられておりますわ! ……見てください。この怪我」


 ナンシーは自分のドレスの袖を捲ってみせた。その細い腕には包帯が巻かれている。


「お姉さまがすぐに皆の前で罪を自白してくれたら、言わずに済みましたのに……。……恥を忍んで告白します。先日、私学園の一室で見知らぬ男達に襲われました。間一髪、通りかかったシルヴェスター様が助けてくださったので、事なきをえましたが……。これはその時にできた傷です」


 会場のざわめきが一層大きくなる。


「襲った男達をシルヴェスター様が問い詰めたところ、お姉さまの指図でやったと、そう白状しました」


(え……!!)


 ナンシーの発言に、ジェシカは驚愕で目を見開く。

 そしてそれは隣のロゼッタも同様で、呆然としていた。


「ッ……。本当になんて低俗な真似をしたのだ君は。妹を暴漢に襲わせようとするなんて、それが貴族のすることか」


 シルヴェスター様がナンシーの腰に手を回し、ロゼッタを睨みつけた。


「……その暴漢達は今どちらに……?」


 ロゼッタが僅かに震えながら、問いかける。


「残念ながら、男達にはその場で逃げられてしまった。……しかし、君からの依頼を受けて行ったと、確かにその者共らは言っていた」


 そうシルヴェスターは答えた。


(何それ……犯人を捕まえていないんじゃ、何の証拠もないじゃない。ただの二人の狂言なんじゃないの……?)


 ジェシカが思ったことを口にしようとすると、それをロゼッタが制した。


「シルヴェスター様、分かりました。……婚約破棄、お受けいたしますわ」


 ロゼッタがそう言った。


「ロゼッタ、なんで……!」


「いいのよ、ジェシカ」


 庇ってくれてありがとう、とロゼッタは小さい声で言った。


「では、罪を認めているというのだな、ロゼッタ……!」


「……このままここで押し問答をしていても他の皆さまのご迷惑になりますわ。シルヴェスター様、お手数ですが公爵様から私の父宛に婚約破棄される旨の手紙を頂戴できたらと思います。私からも父に説明しておきますわ。……では私は失礼します」


 ロゼッタは毅然とした態度でそう言い放つと、踵を返し、会場の外へと向かった。


「……ロゼッタ嬢、この件は教師陣にも伝えてあります! 正式に通達はいくと思いますが、とりあえず一週間の自宅謹慎。その後の処分は決まり次第追って連絡がいくそうなので、ご覚悟を!」


 ブルーノが、ロゼッタの後ろ姿に向かってそう叫んだ。



 生徒達が、こそこそと囁きあう。


「……これって本当のことなのかしら?」


「私、ロゼッタ様に憧れておりましたのに。とてもそんな方には見えませんでしたけど……」


「でも、もし本当なら謹慎程度じゃすまないぞ。追放ものじゃないか?」


「まあ……この前もいましたわよね。暴力事件を起こして学園を追放された方」


「ああ、辺境伯の……」


 そう会話する生徒達の間を通って、ジェシカはロゼッタの後を追った。




「ロゼッタ!」


 侯爵家の馬車に乗り込むところのロゼッタを、ジェシカは呼び止めた。


「ジェシカ」


「なんでもっと否定しないの?! あれじゃ本当にロゼッタがいじめを行ったと思う者も出てくるわ。……ナンシーを暴漢に襲わせたなんて、ひどいことも……」


「あら、ジェシカは私を信じてくれるのね」


「はあ? 当たり前でしょ! 何年友達やっていると思ってるの」


「ふふ……」


 ロゼッタは少しだけ笑った。


「しょうがないわ。ナンシーは前からそうなのよ。何かと張り合ってくるし、私が気に食わないみたい。……シルヴェスター様は眉目秀麗な方だから、欲しくなっちゃったのね」


「そんな……貴女の妹だから今まで言わなかったけど、あの子評判悪いわよ。シルヴェスター様だけじゃなく、他の令息達にも必要以上にべたべたしたりして、婚約者の子達が怒っていたわ」


「ええ……悪い事したわね」


 ロゼッタは申し訳なさそうに眉を寄せた。妹の悪癖など、ジェシカが言うまでもなくとっくに知っていたのだろう。


「……それにしてもシルヴェスター様ったら。昔からロゼッタというものが隣にいて、慕われているくせになんであんな子にうつつを抜かしちゃうのかしら。優しかった彼はどこに行ったの?」


 ジェシカはため息を吐いた。


 あれはまだ、ロゼッタとシルヴェスターの婚約が結ばれる前のこと。

 元々、マリアーノ侯爵家とウェバー伯爵家は交流があり、それ故幼い頃からロゼッタとジェシカは友達同士だった。


 ある時期、サンティアゴ公爵が息子のシルヴェスターを連れ、度々マリアーノ侯爵家を訪れていた。(その時は分からなかったが、ロゼッタとシルヴェスター、二人の婚約の顔合わせのためである)

 ジェシカはたまたま侯爵家に遊びにきているときに、シルヴェスターのことを遠くから見かけた。王子様のようにかっこよく、優しそうな美少年であった。




 気まぐれで、ジェシカはどんな殿方がタイプか、とロゼッタに聞いたことがある。いわゆる恋バナというやつをしかけたのだ。


「……優しい方」


 と一言、それだけロゼッタは返したが、その顔が少しだけ赤く染まっていることに気付き、ジェシカはあの公爵令息のことだ、とピンときた。


 そんなわけで、ジェシカはシルヴェスターとロゼッタの婚約が結ばれたと聞いたときはまるで自分の初恋が叶ったかのように喜んだのだ。


 なのに。あれから七年近くが経ち。うまくいっているのだ、と思っていた二人も一つ年下のナンシーが学園に入学してきて以来、おかしくなった。

 そして今日、崩壊してしまった。


 悔しそうな顔をしているジェシカに、ロゼッタは笑いかけた。


「そんな顔をしないでジェシカ。私、貴女が庇ってくれてすごく嬉しかった。誰になんて思われようと自分の好きな人に信じてもらえればそれで充分よ」


「ロゼッタ……」


「今日はせっかく準備してくれたパーティーで迷惑かけちゃってごめんなさいね。ああ、早く戻って。主催者でしょう。……会長はあんなだし、副会長の貴女がいなきゃ締まらないわ」


「そんな、迷惑をかけたのはあいつらよ……」


 ジェシカの言い方にロゼッタはさらに少しだけ笑みを深め、馬車に乗り込んだ。


「じゃあね、ジェシカ。とりあえず私は謹慎みたいだから、しばらく会えないけど」


「……ロゼッタがいじめなんてするわけないって私から先生たちに進言するわ。だから処分については安心して」


 学園追放になるのではないか、という生徒の誰かの発言をジェシカは気にしていた。


「……ありがとう」


 そう言うと、ロゼッタを乗せた馬車は走り出す。

 ジェシカはその馬車が見えなくなるまで、見送った。




♢♢♢♢♢



「え……ロゼッタが学園を辞めた……?」


 パーティーから数日が経過したある日。

 教師の発言にジェシカは耳を疑った。


「ああ、マリアーノ侯爵から理事長に連絡があってね」


「そんな、どうして……!」


「どうしても何も、世間体が悪くこの王立学園には通い辛くなったのだろう。ほら、この前ここを退学になったクルス家の嫡男……急遽彼との結婚話をまとめたと言っていたよ。向こうにある学校に編入させて卒業したら籍を入れさせるとか」


「えっ!」


(まさか……オーウェン・クルス辺境伯令息?)


 オーウェンは、ジェシカ達と同じ学年の男子生徒だった。

 噂では婚約者を探しにきたという話だったのに、女子生徒とも男子生徒とも最低限の関わりしか持たず、同じ辺境伯領から連れてきた従者以外と会話しているところを見たことがなかった。

 しかし、黒髪に長身、精悍で整った顔立ちをしており、密かに女子生徒達からは人気があった。

 ジェシカは彼に、かっこいいけど少し強面で怖い、という印象を持っていたが。


 そんなオーウェンが、先月この学園内で発生した暴力事件の当事者になった。

 子爵令息二人と男爵令息三人との間にトラブルを起こし、オーウェン一人で五人全員を病院送りにしてしまった。

 王立学園の敷地内で、こんなことが起こるなんて前代未聞である。

 被害者の五人は、そのまま学園に戻ることはなく自主退学していった。

 学園は、このままオーウェンを置いておくわけにもいかず、追放したのだ。


 実はジェシカはオーウェンが暴力事件を起こしたとき、生徒会の活動中で偶然現場を通りかかっていた。野次馬根性を発揮し何が起きているのか足を止めて他の生徒会メンバー達とともに様子を窺った。

 そして、渦中のオーウェンを目撃して、ジェシカは後悔した。全身に返り血を浴びたその風貌がとんでもなく恐ろしかったからだ。


(あの人……まるで鬼のようだったわ。あんな人の元にロゼッタが嫁ぐの……?)


 想像もできない。

 可憐なロゼッタが、何故あのような野蛮な男に嫁がなくてはいけないのか。


(侯爵様、そんなにロゼッタのことが許せなかったのかしら……?)


 何度か会ったことがあるマリアーノ侯爵のことをジェシカは思い浮かべた。

 ロゼッタの父である侯爵はとても厳格な人だ。厳しく教育した分、いじめ疑惑をかけられ、婚約破棄されたロゼッタを許せなかったのかもしれない。(それより妹をちゃんと教育しろ、とジェシカは思わずにいられないが)

 そして、その当てつけで悪評高いオーウェンの元に嫁がせようとしているのか、とジェシカは嫌な想像をした。


 今日帰ったらロゼッタの家を訪ねよう、そうジェシカは思っていたが。


――その日、ジェシカが帰宅すると、ロゼッタから一通の手紙が届いていた。


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