記憶に残る婚約破棄でした
辺りを取りまく笑顔の民衆の歓声。華々しく飾られた街角。そして、馬車の上で手を振る仲睦まじい番の美男美女。
その日、ここファーリスデル王国の王都では、王太子と聖女の婚約パレードが開催されていた。
大勢の国民の祝福の言葉が飛びかい熱気渦巻くそんな中、ある女性がパレードの主役をどぶのように濁った瞳で見上げ、ひとりとぼとぼ歩いてゆく。その名は――。
(セシリー・クライスベル……って、それ私じゃない。いけないいけない、これじゃただの現実逃避だわ)
それは他ならぬ彼女自身の話なのだが、今セシリーは厳しい現実から目を背けなければここから一歩も踏み出せなくなる自信が有った。なぜならば……。
――婚約破棄。
まさに先ほど、乗り換え相手同席の元叩きつけられた関係解消のお知らせが、セシリーの記憶に最も忌まわしい出来事として刻みつけられたところだった。
その直後に目の前でこんな輝かしい光景を突き付けられた今の気持ちを言えと言われたら、彼女は迷わずこう答えるだろう。
(……よりによって、こんなめでたい日に伝えなくてもよかったんじゃないの?)
事は十数分前。王都の一角にある瀟洒なカフェで、その話はつまびらかにされた。
「――婚約を破棄するって、急にどうしてなの?」
「ああ。今時親同士の決めた相手と結婚するなんてつまらないだろ? だから、自由にしてあげるよ」
そんなことを、さもセシリーが望んでいるかのように言いだしたのは、パレードを彼女と一緒に回る約束をしていた婚約相手、マイルズ・イーデル。公爵家の令息で、悔しいことに容姿は金髪金目、中々の美男子である。
だが彼が、ひどく自分本位な人間であることは疑いようがない。なぜなら今、彼の肩にはすでに新しい女がしなだれかかっている。これさえなければまだ、この恩着せがましい言葉も言い訳くらいにはなり得ただろうに。
「ねーえ、こんな女ほっといて、町に遊びに行きましょうよ、マイルズぅ」
「もう少しだからね、イルマ。でも、そんな我儘なところも好きさ……可愛いよ」
甘ったるい声で彼におねだりする少女の存在をセシリーは全く知らない。
まさか、自分と付き合っているその裏で、婚約者が年下女と愛を深めているだなんて、誰が予想するだろう。あぜんとしたセシリーの前で少女と胸焼けのする甘いやりとりを繰り広げると、マイルズはおざなりに一枚の書類を突きつけてきた。
「と、いうわけだ。わかったらこの書類にサインしてもらえるかな? セシリー?」
「なによこれ……」
セシリーはそれを震える手で受けとりながら、自分と目の前のイルマとか言う少女を比較する。
かろうじて伯爵家の令嬢であるというだけの冴えない自分。茶色の長髪にグレーの瞳。絵に描いたような平凡な容姿で、おしゃれといえば幼いころ父に貰った、横髪をまとめた月長石の髪留めくらい。ましになるよう努力はしてみたものの、世の中どうにもならぬこともあると最近知ったばかりの十七歳。
一方向こうは真っ赤で艶めく美しい巻き髪に、白い肌、ぷくぷくのほっぺや唇。男のツボを心得たような妖艶な仕草。どちらの容姿が勝っているかは一目瞭然。
書類に目を通しながら後の祭りだと感じたが、せめてセシリーは反論すべく口を開いた。
「これは私たち当人同士だけの問題ではないでしょ?」
「悪いが、君の父上にももう了解は取ってあるんだ。慰謝料も追って支払う。知らぬのは君だけというわけさ」
「はあ?」
呆れつつ彼女は書類下段の父直筆の署名を睨む。まったく知らない話に間抜け顔をさらすセシリーを指さし、イルマとかいう女はケラケラと笑う。
「ぷぷっ。『はあ?』だって~! この人変な顔~、面白ーい! きっと役者さんの才能あるわよ、目指してみたらぁ? 応援しちゃう、きゃはははは!」
それがまた癇にさわるったらなく……心の中で「苺ジャムみたいな真っ赤な髪しやがって。このベタベタジャム女が」と愚痴っていなければ、セシリーは今ごろそのもちもちほっぺに真っ赤な手形をプレゼントしていただろう。
加えて許しがたいのは、話を認めた父もだ。
もともと実家の事業を助けるためにと婚約を押しつけたのは彼だったのに。もしかすると事情が変わったというのも有り得たけれど、それにしたって、せめて当事者の自分くらいには一報くらいよこすべきだろう。こめかみが怒りでズキズキ痛んできた。
「わかったろ? これはもう決まってしまったことなんだ。さあ、一筆ささっと書いて清算しようよ、僕と君との関係をさ」
そしてこのいっそ清々しいほど悪気の無い、マイルズの言葉……。
セシリーの胸が「こいつ、背中をナイフでサクッといってもって許されるよね……」という軽い殺意で燃えあがるが、しかし仮にも彼は公爵令息。やってしまえば果ては処刑か没落か。馬鹿男への嫉妬で人生をふいにするのは、さすがに御免被りたい。
「……わかったわよ! はい、これでいいんでしょ!」
ペンを折りたい衝動に耐え、震える手でいびつなサインをしたため書類を突っ返すと、セシリーはふたりをきつく睨みつける。
だが彼らに浮かぶのは余裕の笑みで、敗者の気持ちを考える素振りなど微塵もない。
「わ、なぁに? このおばさん怖~い。イルマなぁんにも悪いことしてないのに~」
「そうだぞ、これは僕と君との問題だろう。イルマに悪意を向けるのはやめてくれないか」
「さっすがマイルズ、格好いい~! だぁい好き!」
奴らの顔面に向かって熱々の紅茶をぶちまけなかった私を誰か褒めてください……そんな切ない気持ちを押し隠し、セシリーは言い放つ。
「え~え~もう何も言わないし、あなたたちとはなんの関係もないわっ! ふたりで勝手に楽しくやれば? どーぞお幸せにっ! さよならっ!」
悔し涙がこぼれる寸前、せめてもの意地で彼女はテーブルを両手で叩き、わめくようにしてその場から飛びだした。たいした嫌味のひとつも言ってやれない自分の弱さが、本当に情けないったらなかった。
――そうして現在に至る。
喫茶店を出て意気消沈したセシリーは、目をドレスの袖でこすり、誰にも顔を見られないよう道端をひっそり歩く。
あんなパレード、今の彼女の目には劇薬で……極力目を背け早くその場を去るべしと両足をせかせか動かし始めたが、本日はとことん運が悪い。足元で鳴ったのは、ボキッという破滅の音。
「うわぁっ! ……いったぁ」
石だたみに引っかかったヒールが完全に折れ、盛大に地面に倒れ込んだセシリーを人混みの誰かがあざ笑い、そして。
――ゴーン、ゴーン、ゴーン……と同時にこの王都一高くそびえる時計塔が午後三時の知らせを発した。見慣れたそれも今はこちらを見下しているように思えて、なんと憎たらしいことか。
(なんなのよ。こんなんばっか……あぁ、もう)
「お嬢さん、どうかしたかな? 手を貸そうか?」
あまりの痛みと恥ずかしさに、えぐえぐ嗚咽を噛み殺すセシリー。そこで頭上から降ってきたのは、思ってもみない優しい声だった。
見上げると小綺麗な姿の男と目が合う。彼は笑顔で手を差しのべ、彼女を引っ張りあげてくれた。
「す、すみません。ありがとうございます……」
「礼には及ばないよ。おや、そんな靴じゃ歩けないね。失礼――」
涙まみれの顔をハンカチで必死に抑えていたセシリーの身体はいきなり持ちあげられ、男の腕の中にふわっと納まる。
「きゃあ! ちょ、ちょっと!」
「どこかで靴を買ってあげるからさ。しばらく大人しくしておいで」
男はセシリーを腕に抱え、悠々と通りを横切ってゆく。生まれて初めての経験に、セシリーは思わず赤面した顔を覆う。マイルズだって彼女をこんな風に女性らしく扱ってくれたことは無い。
(困ったな、会ったばかりの人に……。でも、もういい。婚約者も奪られちゃって、誰も私のことなんか気にしてくれてないんだから)
その事実を頭に浮かべただけで、セシリーの喉から辛い感情が呻きとなって溢れた。嫌なところは見ないふりしてまで好きになろうと努力したのに無駄だった。簡単に捨てられてしまった。
涙が止まらず彼女はこの時やっと自分の心が思ったより弱いものだと知る。だが……不幸というのは重なるもの、この先に待ち受けていたのはなんと、さらなる悲劇だったのだ。
しばらくしてようやく顔を上げたセシリーは、町の雰囲気が変わりつつあるのに身を固くした。靴を買ってくれると言ったのに、商店の並ぶ通りからは外れ、明らかに人気のない場所へと連れていかれようとしている。急に笑みを絶やさない男の顔が不気味に思え、一気に青ざめた。
「あ、あのっ! やっぱり私、ひとりで帰ります!」
「駄目だよ、大人しくして」
男の肩を軽く叩くが、話を聞かず進もうとしたため、セシリーもう一度強く拒絶する。
「もういいです! 降ろして下さいっ!」
「チッ、勘づいたか」
すると男の態度は豹変し、暴れた彼女を地面へと叩きつけた。
「っ……!? げほっ、な、なにを……」
背中を強く打ち息が詰まる。頭がくらくらして起きあがれないセシリーを見下ろし、男は頬を強くはたく。
「あうっ!」
「やかましい女め、黙ってればまだ可愛げがあったのにな。静かにしてろ」
「うぅ……やめてよ」
たちまちセシリーの手足は縄でしっかりと縛りあげられてしまった。先程の笑顔の面影はどこにもなく、男の表情には今やどす黒い欲望が湛えられ、まるで別人だ。
「着てる服からすりゃ結構いい家の御令嬢なんだろ? あんたみたいのを買いたいって奴は結構いるんだぜ?」
「買うって、なに。私を、どうするつもりなのよ……」
「まだわからないのか。あんた、これから人買いに売られるんだよ! まったく、いいとこのお嬢さんが一人で出歩いてるのが悪いんだぜ」
「――――っ! むぐっ、むーっ!!」
体中を悪寒が走るが、逃げだすには遅すぎた。
布で口も塞がれ、セシリーは麦袋のように肩へ担がれる。
抵抗するにも体をそらすのが精一杯で何もできない。
「このまま今日は倉庫に詰め込んで、明日の朝にゃ船の中だ。家族には二度と会えねえだろうし別れの言葉でも呟いてるといい……ハハハ!」
(こんなの聞いてない! ひどすぎるよ!)
必死にもがき……セシリーは不運と、そして自分を呪う。
(何でこんな目に遭わないといけないの……?)
誰かに聞くまでもないことだった。きっと不運のせいだけではなく、悪いのは何も持たない自分。苺ジャム女みたいに綺麗なわけでもないし、腕っぷしも強くない。頭だってよくない。特別な物はなんにも作れない。そんな自分が他人の餌にされるだけの、無能で無価値でひ弱な存在なんだって思い知らされ、悲しさばかりが募ってくる。
(悔しい……! どうして今まで、もっと自分でどうにかしなきゃって思わなかったの? 何も持たないまま、どうして幸せに生きていけると勘違いしてたんだろう!)
なんでもやって、可能性を探して、一度でいいから自分で選んだことをやりとげてみたかった。こんな終わり方が訪れる覚悟なんて、まるでしていない。
(嫌だよ、こんなの)
セシリーの頬を伝う悔し涙が、ぽたぽた地面を濡らす。それを男が嗤い、足を踏みだした時……声は響いた。
「あんた、何してる」
「――――ッ!」
男が鋭く息を呑む。
ひとりの人影が後ろからセシリーたちを飛びこえ、道を塞ぐように目の前に立ちはだかる。明らかに普通の跳躍ではなく、人影の周りに揺らぐ薄明りを見て、魔法使い――そんな言葉が頭に浮かぶ。
「人さらいは重罪だぞ。大人しく縄についてもらおうか」
「ちぃっ!」
男が腰から抜いたナイフを、その人に向かって投げ放つ。きらめく刃は見事に頭部に命中する軌跡を描いた。だがそれは、途中で鞘に入った剣で弾かれ、甲高い音を立てると路地へと消えていく。
「くそっ……」
不利と見たか、すぐさま男はセシリーを投げおろし逃走に移る。しかしそれも予想の範疇だったらしい。
「遅い」
「ぐぁっ!」
目の前を横切る黒い影はそれを許さず、俊敏に駆けて追いつくと、剣を振りあげ男の背中を一撃する。骨でも折れていそうな酷い音がした。
「ぐえっ!」
「……心配するな、これぐらいじゃ死なん……さて」
どっと鈍い音を立て男が崩れ落ち、セシリーが瞑っていた目をおそるおそる開くと、その人物はこちらを振り返る。
(わ……!)
その目鼻立ちに、地面に転がされていた彼女の目は即座に釘づけになった。
(なんて……綺麗な瞳。こんな色見たこと無い)
筆舌に尽くしがたい美しさの、毅然とした紫紺の瞳がまず目を引く。他にも少し長めの濡れたように艶めく黒髪や、すらりとした体躯、端正な相貌など……水際で一輪孤独に咲く桔梗のような、婚約者だったマイルズなどとは格の違う美青年。黒い鎧を身に纏う彼は、縛られて体を起こせないセシリーのもとに歩み寄り、その剣を抜いた。
(――――!!)
恐怖に身をすくめたセシリーの耳にぶつぶつという音が届くと、縛られていた四肢が解放される。ついで口元のさるぐつわも外され、彼女は大きく息を吸いこんだ。
「……大丈夫か?」
(はーっ、はーっ……。助かった? 助かったんだ)
しばらくの間、声も出せないでいた。助かった安堵で体が弛緩し、冷や汗が止まない。両肩を抱くように抑えていると、複数人の足音が耳に届いて黒髪の青年が顔を上げる。
「団長、向こうも確保しました。問題ありません」
「捕まえられていた人たちも救出しましたよ! あれっ、その子は?」
現れたのは二人組の騎士。目の前の彼と同じ甲冑を身に付けている。その胸に装飾されているのはファーリスデル王国――セシリーの住まうこの国のエンブレムだ。
「……こっちももう終わった。お前たちは戻って後処理を頼む」
「おや、つれない。あなただけ美しい女性のお相手ですか? ちょっとずるいんじゃないですかねぇ」
二人組の内、青い長髪の騎士がやや皮肉っぽく口角を上げたが、助けてくれた青年はそれを追い払うように手を振ると、もうひとりの元気そうな赤髪の騎士に指示する。
「ラケル、連れていけ」
「了解! このならず者はこっちで引き渡しときますね。ほら、キース先輩、行きますよ?」
「あのねラケル、もう少し先達には遠慮というものを……」
「団長命令ですから!」
「はいはい、わかりましから、引っ張らないでください」
指示を受け、ふたりは倒れていた男を縛り上げて来た道を戻ってゆく。その間青年は探るような瞳でこちらを見つめていたが、気が済んだのかぼそぼそと名乗りだした。
「あんた、名前は? 俺はファーリスデル魔法騎士団で団長を務めている、リュアン・ヴェルナーという者だ」
「……セシリー。セシリー・クライスベルです」
ようやく少し緊張が和らぎ、感謝を告げようとした彼女の胸に、リュアンと名乗った青年の言葉が痛烈に突き刺さる。
「まったく、若い女がどうしてひとりで街中をうろついていた。パレードで浮かれてたのかもしらんが、知り合いでもない男にほいほい付いていきやがって……」
(……なんでよ。私、好きでこんなことをしたわけじゃないのに)
ヒールが折れた際に痛めた彼女の足を見とがめ、彼は指先で光の模様を描くと、添えた手のひらに淡い光を宿す。やはり、これは魔法……。名前に魔法と付く騎士団なのだから、彼らにとっては当たり前かもしれないが、セシリーにとっては驚くべきことだった。
この魔力に満ちた大地でも、それらを操る才を宿した人間はごく稀にしか生まれない。彼らは魔法使いと呼ばれ、十分な適性を示した者は、多くが幼少期から国に召し抱えられる。市井の中で姿を見ることは少ない。
セシリーはリュアンを見て初めて、魔法は発動する際に魔力を集中する箇所だけでなく、使用者の瞳も光らせるのだと気づいた。目にも鮮やかな紫紺の瞳がふたつ、黒い前髪の隙間に輝いている。
そのあまりにも美しい光景は彼女に、持つ者と持たざる者の隔たりを大いに知らしめた。足首の痛みは治っても、心の痛みはひどくなるばかりだ。
「ほら、治療は終わった。立てるだろ」
素っ気なく冷たい声を出したリュアンは、セシリーの手をつかんで強引に立たせる。でも彼女はつまらない自分が本当に恥ずかしく辛くて、駄々っ子みたいにその場にしゃがみ込む。
「なんだ、動けないのか」
そんな様子に勘違いしたのか、彼は面倒くさそうにセシリーを足元から掬い上げ、横抱きにしてしまう。
「放っておいて下さい!」
「このまま放置していくわけにもいかないんだよ。またなんかあれば、うちの責任にされるんでな。家まで送る。ったく、正騎士団の応援に回らされたと思ったら、とんだ外れくじを引かされた」
『外れくじ』――その言葉の威力は、今のセシリーの頭を瞬時に沸騰させるのに十分で……。
「ふざけないで!」
溜まっていた感情が一気に暴発し、彼女は次の瞬間彼の頬に、思いっきり右手を叩きつけていた。
「……ぶはっ!?」
パァン、と威勢のいい音がして、体をぐらつかせた青年から離れると、セシリーは強く目を見開いて絶叫する。
「あなたみたいな人、大っ嫌い! どうせ私なんか、お美しくて何でも持ってる魔法騎士様とは違って、紙きれほどの価値もないゴミみたいな女ですよ! でもね、それでも……私だって嫌なことだって、許せないことだって、あるんだからッ! そんな扱いされるくらいなら、助けてくれなくてよかったわよ!」
「なんだとッ!?」
騎士は怒りをあらわにしたが、次いでこちらを見る目はなぜか驚きを帯びており、一瞬の隙が生まれた。そこに彼女はヒールの欠けた靴を投げつけ、裸足で身を翻す。
「くそっ、お前待て! 聞きたいことが……おい――!」
青年の声が後ろに遠ざかってゆくが、聞こえないよう耳を塞ぎ、振り向かず走る。
頭の中はもうぐちゃぐちゃ。
身勝手な男たちへの怒りや非力な自分への憤り、救われた礼もせず逃げる申し訳なさや今後の不安。制御しようのない混沌とした感情が全部涙と声に変わり、セシリーは上を向いて馬鹿みたいに泣き叫ぶ。
「うぁぁぁぁぁぁん! これから、どうしたらいいんだよぉ、私ぃ~!」
眩しく青い空が今はただただ目に痛い。
こんなにも最低な印象の出会いが、自分の運命に組み込まれた重要な歯車のひとつだったとセシリーは後々深く実感するところとなるのだけれど……この時まだ彼女は、自分にどんな未来が待ち受けているかなんて、欠片も想像することができなかった――。