表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
精霊島の花嫁  作者: 茶野
白き杖を受け継ぐ者
81/82

第一章 リーザインの七不思議 Ⅲ

 予期せぬ答えに、カリンは目をしばたたかせた。

「シセルさまが、十二賢人になる、ってことですか」

「そう。秋にハイネさまが亡くなって、十二賢人に空きが出ただろう。それで先月の十二賢人会議でシセルを推薦することが決まった」

「すごい」

 カリンは感嘆する。

「まだ若いのに、もう十二賢人なんですね……」

「この前に十二賢人になったヴェルデ・アネスタもまだ二十八だし、三十代は俺とカロンだろ。十二賢人はどんどん若くなってきてる。シセルは実力的には俺やカロンよりも先に十二賢人になっていたっておかしくなかったんだ。俺からすれば、ようやくってところだよ。問題はシセルがそれを受けるかどうかだな」

「辞退するなんてこと、普通はありませんよね?」

 リリー・エルが問うとアジェスはうなずく。

「普通は、な」

 たしかにシセルは権力や名誉に興味がなさそうに見える。しかし断る理由も見当たらない。

「十二賢人になれば、たったひとつをのぞいて、すべての魔法が使えるようになるんだから、悪くない話だとは思うんだが」

「たったひとつ使えない魔法っていったいなんなんですか?」

「それは、きみが長老になってからのお楽しみだよ、リリー・エル」

「あ、あなたも知らないんですね、つまり!」

 リーザインの食堂で十二賢人と中級魔法使いと生徒が語らう光景は珍しいに違いない。今日は授業は休みのはずだが、食堂に来ている生徒は少なくない。カリンたちの方をちらちらと気にしてくる。

「この目で見たことはないな、たしかに」

 アジェスは弁当のふたを開けながら言った。

「もしかして、愛妻弁当ですか!」

 リリー・エルは彼の手元を嬉々としてのぞきこんだが、次の瞬間には顔をしかめていた。カリンもおそるおそる見てみる。弁当箱には得体のしれない真っ黒なかたまりがおしこめられていた。

「奥さん、料理がちょっと苦手なんだよ」

「ちょっと……?」

 リリー・エルにカリンも同意したいところだが、自分もあまり料理上手ではないので黙っておく。カリンとリリー・エルは本日のランチメニューを各自皿によそってきた。魔法使いであれば、誰でも無料で食べることができるのだ。

「えーと、わたしのニンジン食べますか?」

 嫌いなニンジンは盛りつける際によけていたはずだが、まだ残っていたらしい。有無を言わさずリリー・エルはアジェスの弁当にニンジンをつっこんだ。

「ありがとう、リリー・エル。奥さん、毎日弁当を作ってくれるのはうれしいんだが、やっぱりカロンの豪華弁当と比べるとね……」

 初耳の情報にカリンは驚いた。

「カロンさまに奥さん、いたんですね」

「そうなんだよ。俺もやつが結婚すると知ったときは驚いた。それで、あいつの娘がすごくかわいいんだ。うちの末っ子と同い年なんだが、非常によくできた子で、うらやましいもんだよ、まったく。うちは男ばっか三人さ。娘がほしかったよ、ほんとに」

「おふたりともパパさんなんですねえー。あ、まだあきらめるのは遅くないですよ! 夫婦生活に問題なければ! ねえ、先輩」

「同意を求められても、ね。赤ちゃんはララーナの使いが運んできてくださるものだから、いくら仲がよくてもこればかりはどうにもならないわ」

「……え、先輩、何言ってるんですか」

 リリー・エルが手にしていたスプーンを取り落とす。アジェスが笑った。

「カリンには恋人はいないのかな」

「いませんよ」

 なぜかカリンでなく、リリー・エルが即答した。

「もしもいたら、このわたしがその男をこてんぱんにやっつけてるところですが、あいにくいまだにそういったことはないですねー。先輩は運命の恩人に会うまで、恋はできないんですって」

「リリー・エルってば……」

「事実じゃないですか、先輩。大丈夫ですよ、わたしも恋人いない歴イコール年齢なので! というかカリン先輩以外の人間に興味ないので!」

 なにも、十二賢人の前で言わなくなっていいではないか。カリンは赤面する。

「うーん、きみはちょっと問題じゃないかな。まあ、そういう人生もありといえばありだが」

 アジェスのように、若くして十二賢人にまでのぼりつめ、妻も子どももいる生活にはあこがれる。カリンもいつか結婚して子どもをさずかるのだろうと信じて疑わなかったが、よく考えてみればその結婚相手はいつ、どこで出会うのだろうか! 将来をうまく思い描くことができないことにカリンは気づく。

「あたし、しあわせな家庭を築けるのかしら……」

 ため息をついたカリンの肩をリリー・エルがぽんと叩いた。

「わたしがついてますから!」

「そうね、あたしにはあなたがいたわね……」

 もはややけくそである。

「きみたちは仲がいいんだなあ」

 アジェスは嬉しそうだ。

「きみたちは元気のいい世代だ。きみたちの世代がこれから組合を引っ張っていくんだろう。この間、誰が最初に上級に昇級するか賭けをしたんだが、もちろん俺はきみに賭けたよカリン」

「えっ……」

 うれしさと驚きが同時に訪れる。

「わたしの名前はありましたかっ?」

「きみはまずリーザインを卒業しないとね、リリー・エル。それに賭けの対象は四大魔法使いの杖の持ち主に限定されていたから」

 四大魔法使い――バルサ、アルフェッカ、リーネ、ゼインと同じかたちの杖を持つ者は珍しい。カリンが“リーネの杖”を持つほかに、“アルフェッカの杖”と“ゼインの杖”の持ち主がいるとは少し前にシセルから聞いたところだ。

「アルフェッカのリーヴァ・サルハ、ゼインのオズワルド・オーディン、それからリーネのカリン・アルバート。年も近いし、きみたちはよく比べられているんだ。彼らの名前を聞いたことはあるか?」

 カリンが首を横に振ると、アジェスは丁寧に教えてくれた。

「彼ら二人はきみのことを知っていて、かなり意識しているはずだ。リーヴァ・サルハは十八歳、所属はアルディス支部。アルフェッカと同じ幻惑魔法を得意にしている。対するオズワルド・オーディンは十九歳、所属はノーランド支部で、根っからの武闘派だな。やっぱりゼインのように攻撃的な変化魔法が得意らしい。ふたりとも数回あったことがあるが、とにかく向上心の強い男たちだ。リーヴァなんかは、上級魔法使いは通り道にすぎない、目指すは長老だ、とかなんとか」

「……あたしは、上級にさえなれればいいと思ってます」

 十二賢人など考えたことがない。ましてや長老など。カリンにとって、魔法使いになるのは命の恩人を探すための手段でしかなかった。

 強くはなりたいけれど、カリンがほしいのはそういう強さではない。魔法の実力ではなく、心の強さがほしいだけなのだ。

「そうか?」

「それに、あたしはリーネみたいに造形魔法は得意じゃないんです。むしろ得意どころか苦手で」

 他のふたりの話を聞いて、自分はかなわないと思ってしまった。

「そんなこと言っても、賭けちゃったからなあ」

 アジェスは歯を見せて笑う。

「今度、きみの造形魔法を見せてくれよ。造形魔法ならカロンが得意だから、あいつにいろいろ聞けばいいだろうし。そう、俺たちはきみに期待しているんだ、カリン・アルバート」

「……いったいなにを賭けたんですかね」

 ぼそっとリリー・エルがささやいた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ