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精霊島の花嫁  作者: 茶野
白き杖を受け継ぐ者
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第一章 リーザインの七不思議 Ⅱ

「カリン。なんだこれは……」

 リリー・エルの暴挙をあっさりとかわしたシセルが、戸惑ったように言う。

「すみません、シセルさま! かんちがいしちゃったみたいなんです。本当にすみません! ほら、リリー・エルもとりあえず謝りなさい!」

 シセルに魔法をはねかえされ、巨大蜘蛛まみれになったリリー・エルは涙目である。蜘蛛が苦手なら召喚しなければいいのに、と思わないこともなかったが、かわいそうになってカリンは彼女の身体から蜘蛛をとってやった。カリンは別段、苦手な生き物があるわけではない。「決闘」のときの動物はカエルだったなあ、としみじみ思う。

「だって……悪そうな顔してるんですもん……」

「リリー・エル、このひとはあたしの上司よ。シセルファ・カデットさま。ほら、前手紙に書いたじゃない。十五歳にして上級試験に合格した超天才魔法使いって。顔と勤務態度はともかく、悪いひとじゃないわ」

「ええーこのひとが、ですかあ……?」

 けげんな目でリリー・エルはシセルを見る。それも無理はない。

「シセルさまもシセルさまです。なんでそんなおかしな恰好をしてるんですか」

 普段は着用してすらいない指定ローブを身につけているのはいいのだが、問題はそのローブの短さだ。小さいサイズのローブを無理して着ている姿は非常に滑稽である。灰色のローブの袖が腕に食い込んで、見るも無残だ。

「ローブの着用は絶対と言われたからにはしかたないだろう」

「どうして、そんな小さいローブを着ているのかってことですよ」

「だから、これしかないんだからしかたないだろう。十年前に支給されたものだぞ? 背も伸びてローブが小さくもなる」

 なるほど、と一瞬納得したが、よく考えてみると驚きである。

「伸びた、っていってもシセルさま、十年前はそんなに小さかったんですか! そのローブじゃあたしにぴったりくらいですよ?」

 小柄なカリンと背の高いシセルとでは頭二つ分以上は差がつく。

「昔は小さかったんだよ、シセルは」

 ひょいとシセルの陰から顔を出したのは、白いローブの魔法使いである。

「アジェスさま」

「十八歳をすぎたころから伸びて伸びて、これだよ。人間の成長のしくみってのは奥が深いね」

 白いローブが十二賢人をあらわすことは、もちろんリリー・エルも知っている。アジェス・リドルの登場に彼女は戸惑いを隠せないようだ。

「カリン先輩っていろんなひとと知り合いなんですねえ……」

「そういうきみはリーザインのリリーエル・アスティだな。噂は聞いているよ、リリー」

 リリー・エルにほほ笑みかけたアジェスはさっそく地雷を踏んでしまった。

「リリーじゃなくて、リリー・エルです。リリーエルじゃなくて、リリー、エル」

「ああ、すまないね。リリー・エル。なにしろ名前は名簿で見たものだから」

 しばらくむっとしていたリリー・エルだが、ちゃんとした発音で呼ばれて満足げにうなずいた。

「わかればいいんですよ、わかれば」

 十二賢人にも物怖じしない彼女に、カリンは心の中で嘆息する。

「で、シセル。いつまでこんなところで油を売っているつもりだ」

「ああ、今行こうと思ってたんだよ」

 アジェスのほうが階級も年齢も上だが、シセルは彼に対してくだけたものの言い方をするようだ。

「どちらに行かれるんですか」

 カリンが問うと、シセルのかわりにアジェスが答える。

「こいつ、長老に呼び出しくらっててな。これから説教を食らうかもしれないんだよ」

 だからローブ着用を命じられたのか。

「やっぱり、勤務態度に問題が……?」

「そうそう。目つきは悪いわ、ローブを着ないわ、支部長会議にはちゃんと来るわ、魔法大会では個人部門十年連続優勝だわ、ほんとうに困るんだよ」

「……はあ」

 顔とローブはともかく、残りはむしろいいことのような気がするのだが。

 アジェスに追いやられるようなかたちでシセルは去っていく。

「アジェスさまは行かなくていいんですか。長老さまひとりが説教するわけでもなさそうですし。普通十二賢人も一緒にいるものじゃないですか?」

「今回は、十二賢人の出席は任意なんだ。正式な授与式でもないからな」

「……授与式?」

「あー、シセルには説教ってことにしてあるんだ。ちょっとした嫌がらせでな」

「十二賢人なのに性格ひんまがってるんですねえ」

 ぼそっとリリー・エルがつぶやく。

「ってことは、いったい……」

「もちろん十二賢人の資格さ」

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