第一章 さまよえる魔法使い Ⅶ
「そんなことより先に、杖を出せ」
シセルに言われるがままにカリンとマイは自分の杖を召喚した。それを一瞥して、「もういいぞ」とシセルはいう。
「カリン・アルバートとマイ・オリオンだな。わかった。転属ごくろう」
「あの」カリンは肩にかけていた鞄の中から封筒を取り出した。「あたしたちの証明書、見なくてもいいんですか」
配属変えにはいろいろ面倒な手続きが必要だと聞いていたのにもかかわらず、あまりにもあっさりと転属が完了してしまった。それでいいのか、とカリンは不安になる。ただでさえ若い支部長なのだ。ほんとうに本部との連携がとれているのだろうか。
「大丈夫さ、シセルは杖鑑定に関してはだれにも負けないぜ?」
イーズに肩をたたかれる。
「カリンの杖はまちがえようがない」
シセルがつづけた。
「“リーネの杖”を持ってるやつは今のところお前以外にいねえからな」
その言葉にカリンははっとした。にぎったままの杖の環に視線をおとす。
「やっぱりめずらしいんだ」マイがつぶやいた。
「まあな」シセルがうなずく。「だが世界には“アルフェッカの杖”や“ゼインの杖”を持ってるやつもいる。ただ、カリンの場合、悪目立ちしすぎたってところだな。出る杭はうたれる。それが本部だ」
履歴書に書いてあること以上に、このひとはあたしのことを知っている。カリンはさとった。
「じゃあ“バルサの杖”持ってるひとっているんですかー」
「いない」
マイの問いにシセルは首をふった。「今のところ発見例はねえな」
「それは残念です。で、カリンはともかく、なんでおれまでわかるんですか。おれのなんかかなりありふれたやつですけど」
「わかる。マイの杖はお前の師匠とよく似たものを持っているからな」
「へえ。師匠と一緒にされちゃたまらないですけどね」
魔法使いをこころざす者はたいてい、上級以上の魔法使いに師事する。しかしながらマイの経歴をいっさい知らないカリンは、彼に師がいたことに驚かされた。
「いずれにせよ、お前たちはリディル王女の件で名前が知れわたっている。もちろん悪い意味で、だ。それはどうしようもない」
おもむろにシセルがひとさし指をたてる。
「今、ここで俺が言いたいのは」彼はそれをカリンにつきつけた。
「汚名返上して、実力をみとめさせろ、ということだ」
*
――実力をみとめさせる。
それこそが自分の求めていたことだ。
与えられた部屋の寝台の上に横たわり、カリンはシセルの言ったことを思いおこした。
できるだけ早く。カリンは心に誓う。
さきほどの料理の苦さがいまだ口にのこっている。これからのことを考えると、その苦みがさらに増していくような気がした。唇をかみしめる。苦みと痛みがまじりあい、頭をもたげていた不安をおしこめてくれる。
強くならなきゃ。自分に言い聞かせる。
早く上級魔法使いになるために。
あのひととふたたび出会うために。