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精霊島の花嫁  作者: 茶野
十二の星が消える夜
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第三章 運命の日 Ⅵ

 庭の雪かきを終え、カリンは一息ついた。ディーレン支部の庭は無駄に広い。子どもたちに手伝ってもらって、やっとのことで終えたころには身体の節々が痛みはじめていた。魔法を使えば一瞬ですむことだが、たまには雪かきの苦労を味わうのもよいだろうシセルが提案したのだ。そのシセルはといえば、子どもたちと一緒に雪だるまを作って遊んでいるではないか。

「シセルさま、少しも手伝ってくれませんでしたね……」

 カリンがぼやくと、シセルは顔をしかめた。もともとが悪人顔の彼が笑おうとすると、恐ろしい表情になってしまうのだ。

「運動不足で太るとか言っていたのはお前じゃないか」

「ですけど、少しくらいは手伝ってくれたって」

「甘いなカリン」

 やけくそになって、カリンは雪玉を作りシセルに投げつけた。的が大きいだけあって、見事彼の背中に命中する。

「カリンお姉ちゃん、すごーい」

 子どもたちが歓声をあげる。

「やるか? 俺を敵に回したことを後悔するんだな」

 シセルはにやりと笑う。よける暇もなく、雪玉がカリンの顔面に直撃する。

「ひどい。あたしは女の子ですよ!」

「戦いに男も女も関係あるか」

 子どもたちを交えて、盛大な雪合戦に発展してしまう。

「シセルさま、あのですね。あたしからひとつ言わせてもらいたいことがあるんですけど!」

 雪玉を投げつけながら、カリンは言った。

「なんだ、言ってみろ!」

 よけながら、シセルが答える。

「雪がとけたら、この庭で何か育ててみませんかー!」

「おう、それはいい考えだな! ちなみにカリンのおすすめはなんだー!」

「薬草とかがいいと思いますよー! この島じゃどこも作ってないです、しっ!」

 雪まみれになっている魔法使いと子どもたちを見て、呆れたため息をつく者がある。

「カリンはともかく、いい年した大人が何やってるんですか」

 間髪入れずに子どものひとりが雪玉をマイに投げた。マイはそれを片手でつかむと、丸め直してシセルにぶつける。シセルの反撃を余裕の表情でよけてみせる。

 マイが意外と、どころかとんでもなく動きがよいので、カリンは驚いた。ためしにカリンもマイに向かって雪玉を投げてみる。

「なんだよ、カリン」

 それをマイがよけた、そのとき。

「ずいぶん楽しそうなことをやってるね。ぼくも入れてよ」

 かろやかな笑い声が降ってきた。空を見上げると、宙に浮かんだ少年がこちらを見下ろしている。

「リーシェン!」

 カリンとマイの声が重なった。彼の姿が見えない子どもたちは、急にふたりが叫んだことに戸惑っている。

「目を覚ましたのね」

 カリンが言うと、リーシェンは舞い降りてきた。

「あれ、よく見たらきみ人間だ。どうしてぼくの姿が見えるの」

 え、とカリンは声を失った。

「なんでぼくの名前を知ってるの?」

 幼い少年の姿をしたリーシェンは首をかしげた。

「おい、リーシェン」

 焦ったように、シセルが間に割って入る。

「きみたち、何者?」

 首をかしげるリーシェンに、シセルもまた言葉をなくした。

「まさか、記憶がないとかいうんじゃないだろうな……」

 マイがつぶやく。

「その、まさかなんだよな」

 渋い表情をしたイーズが姿をあらわす。

「どうやら百年ほど前に戻っちまったみたいなんだ」

 新年を迎えたばかりのディーレン支部に衝撃が走った。


(十二の星が消える夜・了)

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