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精霊島の花嫁  作者: 茶野
十二の星が消える夜
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第三章 運命の日 Ⅲ

 まるで、幼い子どものようだった。いや、実際リーシェンの姿は変化していた。どんどん背が小さくなり、カリンの腰ほどにまで縮んでしまった。ふっと、リーシェンが意識を失う。慌ててカリンは彼を抱きかかえた。

 人々が歓声をあげる。シセルの魔法を出し物だと思っているのだろう。シセルはあっという間に魔物たちを殲滅していく。

「リーシェン」

 何度もカリンは呼びかけるが、反応はない。腕の中のリーシェンは死んだように眠っている。

「そのうち目をさますさ。消えはしないから安心していいぜ、カリンちゃん」

 主の変化を察したのか、イーズが姿をあらわした。

「退行するなんてめったにないことなんだが、なったものはしかたない。リーシェンの精神の半分は人間だから、ちょっと難しいのさ」

 精神の成長具合によって容姿が変わるのだから、退行してもおかしくはないのだろう。

「人間って」

「リリエラは元は人間だろ? リーシェンは先代ディーレンスとリリエラの子なんだから。といっても、精霊ではあるんだが。リーシェンといい、ラーフェンといい、ラーシェイといい、どうも複雑なんだよな」

 何度か耳にした名前だ。

「ラーフェンとラーシェイはリーシェンの兄貴なんだ。ディーレンスとリリエラの子はひとりってのが普通で、必然的に次代のディーレンスは決まってたんだが、先代は違った。ラーフェンとラーフェンは双子だったからいっそうたちが悪い。生まれたときから、どちらが王を継ぐかで揉めに揉め、ラーフェン派とラーシェイ派で精霊は分裂し、争いの結果ふたりとも消滅して今に至るってわけだ。リーシェイはその争いのさなかに生まれたんだが、まあ人間もそうだけど、王ってのは長子が継ぐのが普通だろ。しばらく放っておかれて、兄ふたりがいなくなったから、残るはリーシェンひとりだ、リーシェンは嫌がったんだが、オレの一族がリーシェンに王を名乗らせた。いまだに反対派が多いのも、リーシェンが力を持たないのも精霊王を自称しているにすぎないからだ」


 ――ぼくはどうしたらいいんだろう……。

 ――あなたはどうしたいの? したいようにすればいいんだよ?


 九年前のあの日、カリンが出会ったのはリーシェンだったのだ。あのときは、命を助けてくれた恩人が再びたずねてきたのかと思っていたけれど、それはカリンが都合よく記憶をつなぎ合わせたからにすぎない。

 カリンの家の前で泣いていた彼。知らない人なら声をかけなかったが、そのひとはカリンの記憶のなかの恩人によく似ているような気がした。

 泣かないで、といつも兄たちが自分にするようにカリンは彼の頭をなでた。

「あたしが、ここにいてあげるから。だいじょうぶよ」

 必死だった。不安になって、カリンは一緒に泣き出した。

「カリン、ぼくはきみと一緒にいたいよ」

 思い出した。そのとき、たしかに彼はカリンの名を呼んだのだ。名乗らなくてもわかったのは、彼がリーシェンだったから、精霊だったから。

「魔法使いになればいい。そうしたら、怖いものも怖くなくなるよ。魔法は万能じゃないんだよ、でも、オルフェリアがきみたちに与えた力だ。きっときみの役に立つ。それに」

 ――魔法使いになりたい、っていうのなら覚えておいてほしいんだ。魔法は万能じゃないんだよ。

 魔法に頼りすぎてはいけない。そう、ずっと意味を間違えていた。本当は違う言葉だったのだ。

「きみを魔法を頼りに、ぼくはきみに会いに行ける。覚えておいてほしいんだ。きみが立派な魔法使いになったら、ぼくはきみを迎えにいくよ。それまで、ぼくは、ぼくのやるべきことをがんばってみるから。そうしたら、ぼくと一緒に行こう。ずっと一緒に」

 ああ、そうだ、あたしは。

 ――さあ、行こうか。

 あの運命の日と重ね合わせた。カリンはそのとき、差し出された手を、たしかにとったのだ。


「リーシェン、思い出したわ、あの日のこと」

 カリンの声は眠っているリーシェンには届かない。

「あたしが探していたのは、あなただったのね……」

 リーシェンが目を覚ましたら尋ねてみよう。カリンは思った。

 昔、命を助けてくれたのもあなただったのか、と。

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