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精霊島の花嫁  作者: 茶野
十二の星が消える夜
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第三章 運命の日 Ⅱ

 ダグラスに怯えて《魔星石》を渡してしまったルルディは、そっぽを向いたままリーシェンの顔を見ようともしない。

「シドーの差し金か?」

 ダグラスが問う。

「……なんで答えなきゃいけないの」

 威嚇するようにダグラスは杖を地に打ちつけた。ルルディはびくりと肩を震わせる。

「いいよ、ダグ。たぶんシドー・グレイは関与していないはずだから」

「しかし、リーシェン」

「今回はルゥが単独でやったことだと思うよ。シドーなら、まずルゥを利用するなんて浅はかな真似をしない」

 作戦も計画もあったものではない。ルルディひとりでは、いやがらせ程度のことしかできないのだ。

「ねえ、キィはどうしたの」

 リーシェンが尋ねても、ルルディは口を閉ざしたままだ。

 キィの力を借りれば、ぼくを困らせることなんて簡単なのに。キィこそがぼくを恨んでいるのに。ねえ、彼女はいったいどこにいるの。

 リーシェンの思考がルルディに伝わるように、彼女が考えていることもまたリーシェンには感じ取れた。

 ――キィ、どこに行っちゃったんだろう……。

 リーシェンの兄たち、双子のきょうだいの片割れ――ラーシェイのそばにいつもいた精霊。ラーシェイの消滅とともに、彼女もまた姿を消してしまったのか。

「きみたちが、ラーシェイを王にだなんて推したからいけないんだ」

 そうすれば、神の地位を争ったふたりの兄たちは消えることがなかった。リーシェンが王になる必要もなかった。

「でも、そんなことを言っていても、もうしかたがないでしょう。どうしたら、ぼくを王として認めてくれる」

「決まってるでしょ」

 ルルディは言った。

「次の選定者があらわれて、リーシェンを王にすると言ったら。でも、そんなことはありえないもの。黄金の卵がなければ選定者も生まれない。そうよ、ラーシェイさまが復活するまで、黄金の卵は生まれないわ」

「ちがうよ。リリエラがいないからだ」

 妃である女神リリエラとともに祝福されてはじめて、精霊王はディーレンスの力を手にすることができる。

「じゃあ、どうやってそのリリエラを見つけるつもり?」

 勝ち誇ったようにルルディは笑う。

「カリンは絶対にリリエラになんてならない。カリンのほかにリーシェンの言葉を聞ける乙女がいる? いないでしょ」

「ラーシェイは復活しない。リーシェンを拒むというなら、それはこの世界を終焉に向かわせるのと同じ」

 ダグラスが口を挟んだ。

「神の息吹を受け継ぐのは、もうリーシェンだけだ。われわれはリーシェンにすがるほかない」

 ふん、とルルディが鼻を鳴らす。

「好きにすれば。ルゥはリーシェンなんか認めないけど。《海の民》はルゥと同じで、それに《森の守護者》もラーフェン以外を認めないでしょ。《翼の眷属》は様子見ってかんじだし。《大地の血族》がついたところで、どうにかなるとは思えないもんね」

 もし《大地の血族》の長――イーズが昔からの友でなかったら、リーシェンの味方は無に等しかっただろう。残り三つの種族をこの先どうやって従わせるのか、考えれば考えるほど途方に暮れてしまう。

 どうしたら、カリンはぼくのものになってくれるのだろう。きみさえいれば、黄金の卵は生まれ、選定者が現れるのに。

 ルルディとのやり取りを思い出しながら、リーシェンはカリンの横顔をじっと見つめる。空を飛ぶ魔物を相手に、カリンは必死に魔法を放つ。リーシェンが戦えと促したから、恐怖に押しつぶされそうになるのを耐えている。カリンの恐れが伝わってきて、リーシェンも身がすくんでしまう。かける言葉を間違えた。戦えなどと言ってはならなかったのだ。もっと優しい選択肢を与えればよかった。本心とは裏腹に平然とした表情をつくっているカリンが見るに忍びない。だめだ、このままでは、カリンが壊れてしまう――。この状況をなんとかしなければ、とリーシェンが思ったときだった。

 思いが通じたかのように、一筋の光がさした。

 ああ、ぼくはいつも助けられてばかりだ――。

「……シセル」

 命尽きようとしていた彼を救ったのはリーシェンだったはずなのに、今ではシセルがリーシェンの一歩前を行く。

 人間の成長はあっという間だ。

「カリン、もういい」

 リーシェンはカリンの腕をつかむ。

「きみが、強くなってしまうのが怖いんだ……」

 ――シセルさまに教えたみたいに、あたしに魔法を教えて。

 それが取引だった。リーシェンも深く考えずに了承したはずだった。けれども、たった今、おそろしくなってしまったのだ。

「リーシェン」

 リーシェンの言葉にカリンは戸惑っている。

「きみが変わってしまうのがいやなんだ。ぼくの手から離れていかないで。せっかくまたつかまえたのに。いやなんだ、シセルはフィオナに連れて行かれた。きみもぼくを置いていくの? そんなのいやだよ。どこかに行かないで。お願い、カリン……」

「リーシェン、どうしたの、なんだかおかしいわ」

 いやだ。いやだ。いやだいやだ……。

「リーシェンってば!」

 カリンに肩をゆさぶられる。意識がおぼろげになっていく。

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