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精霊島の花嫁  作者: 茶野
十二の星が消える夜
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第二章 死神の世界 Ⅰ

「私は反対です、ダグラスさま」

 黒髪の女魔法使いの一言が場の空気を変えた。

「彼にはこれといった功績がありませんし、それに日頃の態度もあまりよろしくないとのこと。ヴェルデの二の舞になる可能性が高いと思います」

 彼女は空いた席をちらりと見やる。

 リーザス・クラスト魔法組合リディル支部の一室。席についているのはいずれも白いローブを着た魔法使い――十二賢人たちだ。

 本来、この部屋にある十二の椅子はすべて埋まるが、今はそのうちの三つが空席だ。

 一つはシドー・グレイ。彼に関しては誰も追及しない。一つは今問題視されたヴェルデ・アネスタの席。極度の人見知りで、以前の会議でおどおどした態度を指摘されてから顔を出さなくなった。一応、会議へ出席すること以外の十二賢人の責務は果たしており、またいくつもの新しい魔法を発明した功績は無視できないために十二賢人からの降格は免れている。黒髪の女魔法使い――魔法史の権威リオーネ・セラフィードは、自分がヴェルデの会議に出席できなくなった原因を作ったことなどおかまいなしに、彼女の批判をたびたび口にしている。というのもリオーネは、ダグラスの息がかかった連中、もとい彼によって推薦された者たちばかりで十二賢人の席が埋まっていくことが気に食わないのだ。

「魔法の能力だったら文句なしだと思いますよ。リオーネさま、あなただって彼には勝てない」

 口をはさんだのはそのダグラス派の筆頭アジェス・リドルだ。今ここにいる者の中ではいちばん若いだけあって勢いがある。そうだそうだとダグラス・フレドールがうなずく。

 前回のヴェルデも、前々回のアジェスも、そのまた前のカロン・クレヴァスもすべてダグラスの推薦によって十二賢人になれた部分が大きい。今回推薦されたのはダグラスの弟子だ。十二賢人の過半数の同意を得たのち、長老の同意を得て上級魔法使い全員による承認投票を行ったのち、正式に昇格するのだが、このままダグラス派が席を占めるようになれば次の十二賢人を選出する際に不都合が生じる。

「おいおいリオーネよ、お前の弟子はまだ中級だろ。十二賢人にしようだなんて考えが早すぎるんじゃないか」

 にやりと笑うのは、赤毛のガーシュ・ラドヴィンだ。

「ま、十二賢人にまでなれるほどの人材かどうか。うちのオーディンくんのほうが力はあると思うけどなあ」

「いいえ、リーヴァのほうが――」

「ほれほれ、脱線するでない」

 重鎮クラリス・オリオンがさえぎった。こほん、とわざとらしく咳をする。

「今は、候補をあげるとき。リオーネ、そなたが思う、次の十二賢人にふさわしい人物をあげてみよ」

 リオーネは幾人かの上級魔法使いの名をあげた。

 最後の空いた席は、先日病で世を去った十二賢人のものである。その空きを埋めるために、今、十二賢人たちは候補者を選出しているところだ。

「やっぱりシセルファ・カデットくんを出されるとなあ、そいつらもなかなかだが霞んじまうな」

 ガーシュが言う。

「ま、俺からしたらやっとですかって感じだな」

 前回の選出の際に反対票を入れた人間がなにを言う。と思ったのはリオーネだけではないはずだ。

「クラリスはどう思うの?」

 それまで黙っていたハーウェイ・ファーマシーが口をひらいた。

「ワタシはあんたが賛成するなら反対するし、反対するなら賛成するわ」

 リオーネにとってはハーウェイのあまのじゃくは救いの手になる。クラリスはシセルファ・カデットと親しいはずだ。賛成するに決まっている。リオーネはクラリスに対しても、反感をおぼえていた。

 理由はアデレード公子を組合に引き入れてしまったこと。王族などの権力者が魔法組合に属するなど前例はない。問題外だ。クラリスは誰に話をつけるでもなく、勝手にマイ・オリオンの名を騙らせマイス=エラルド・アデレードに杖を与えてしまった。よりによって、魔法組合の支部が存在しないアデレード公国の公子である。公子を仲介してアデレードに組合の支部を作らせようという魂胆だろう。争いばかり起こすアデレード公国に支部を作って魔法使いが頻繁に宮殿に出入りするようになったらどうなるか。リオーネが思い起こすのは百年前の戦争である。

 しかもその公子マイ・オリオンは試験に合格しクラリスの手を離れたら、早々にリディルで騒ぎを起こした。それにもかかわらず、除籍になるわけでもなくのうのうと魔法使いをやっている。それも、これまたきな臭いディーレン支部で! 彼のパートナーを決める際にも口出しをして、接点のないはずのリーザイン卒業生と組ませた。前途有望だったカリン・アルバートはマイ・オリオンのせいで昇進の道を絶たれたのだから同情する。ディーレン支部でくすぶっていては上級に昇進など夢のような話だ。

 数々のクラリスの悪行を思い出すうちに、ふつふつと怒りがこみあげてくる。

「ひとつ、いいですか」

 隣に座っていたカロンが察したのか、場の空気をかえようとしたのかさだかではないが、おもむろに右手をあげた。

「私は、シセルが辞退するのではないかと思っています」

 彼はダグラスに推薦されて十二賢人になったものの、生粋のダグラス派ではない。数年前リオーネの妹と結婚したため義理の弟である。そもそもカロンはダグラスのもとで働いたことはないので、むしろ中立派、あるいはわずかにリオーネの味方といってもいいかもしれない。

「それもそうだけど、他のやつで務まるか?」

 アジェスの問いに、カロンは首をかしげる。

「さあ。いないのなら開けておけばいい。何年か、何十年かあとにリーヴァ・サルハでもオズワルド・オーディンでも就かせれば」

「おいおい」

 アジェスがため息をついたとき、部屋の戸が外側から叩かれた。クラリスが封印魔法をとくと、リディル支部の年若い初級魔法使いが部屋に飛び込んできた。

「大変です――」

 外で起こった異変の知らせに、会議どころではなくなった。初級魔法使いに話を聞いたあとまっさきにとびだしたのはアジェス、続いてカロンである。

「魔物でないといいんじゃがのう」

 ひとり部屋に残ったクラリスは誰に言うでもなくつぶやいた。


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