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精霊島の花嫁  作者: 茶野
十二の星が消える夜
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第一章 星の祭り Ⅶ


 生まれてはじめて魔法を目にしたとき、何を思っただろう。そのときの、生々しい感覚は年を経るごとに薄れていく。かわりに十七歳になった今、あの夜のできごとはまぶしい記憶としてよみがえる。

 夢のようだった。

 命の恩人。あこがれのひと。

 彼のなしたことすべてが、今のカリンをかたちづくっているといっても過言ではない。

 同じようにはじめて魔法を体感した兄たちは、何を思っただろう。



 リディル王都で見るものすべてに兄たちは驚いていた。彼らにとってはなにもかもが新鮮で、ものめずらしいようだ。カリンにとっては数か月ぶりの訪れであるが、城下町の様子は普段と異なっている。《星の大祭》の、星をかたどった色とりどりの旗が都じゅうではためいている光景は懐かしく、同時に苦かった。リディル王国が《星の大祭》の開催地に選ばれるのは五年ぶりだ。

 カリンがはじめて《星の大祭》を見たのは、そのときだった。

 リーザス・クラスト魔法組合リディル支部から、たくさんの人々が街に向かって流れ出す。リディル支部の魔法陣へ、世界各地から移動魔法を使ってやってくるためだ。魔法使いを雇える人間は限られている。貴族や有力豪族、資産家に大商人、そして王族。裕福な者しか魔法使いを雇うだけの金を持たない。

 本来ならば掟どおりに、家族に対しても等価交換を求める。掟をやぶることになる、とカリンは危うんだ。しかしマイは言った。

「もう対価はもらってる。もらいすぎなくらい」

 彼はけして対価の詳細について口を割らなかったが、昨夜とくらべてすっきりした表情の母を見れば、彼女が契約に噛んでいることは疑いようもなかった。

 《星の大祭》の目玉は特設会場で行われる出し物と、それが終わったあとの《月の女王との踊り》である。昼間は出し物を楽しみ、夜になったら魔法で輝く十二の星の下で踊る。特に後者は、男女で踊れば仲が深まるという伝説もあり、そのためだけに祭りへやってくる者もいるほどだ。《星の大祭》に異性を誘うことは愛を告白しているも同然ともいえる。実際、リーザインの生徒たちはこの時期になると浮ついて、落ちつきがなかった。だがカリンは四年前以降――リディルで行われた次の年から、先輩のシャロンか後輩リリー・エルと一緒に出し物を見たりはしたものの、夜の部にはあまり興味がなく、さっさと学園の寮に帰って寝ていた。

 豪華絢爛な建物や出店に夢中になる兄たちを引っ張り、まずはリディル王立学園に向かう。末の兄ジャン・アルバートに会うために。

「ジャンお兄さんの専攻は?」

「天文学。昔っから星ばかり見てたもの」

 マイがカリンに話しかけるたびに、兄たちが敵意をはらんだ目で彼をにらみつける。

「ジャンのセンコウだとかなんとかがお前に関係あるかよ」

「関係のないことを聞いて何が悪いんですか、アデルお兄さん」

「お、お前にお兄さんと呼ばれる筋合いはない!」

 カリンは苦笑いしつつ、マイが兄たちの顔と名前を一致させていることに感嘆する。年齢の差こそあれ、兄たちは非常によく似ている。彼らの見分けがつくとは、マイの観察眼はなかなかあなどれない。どうやら完全に十一人の兄たちを把握したようだった。

 一対一では勝機がないと悟ったのか、兄たちは一致団結してマイをカリンの隣から追いやった。それからはいつものように、かわいい妹の取り合いである。

 ひさびさに会うジャンは、訪問してきた家族の姿に、「やっぱり」とため息をついた。

「変わってないね、みんな」

 学園で兄もいじめられていないか、カリンは不安だったが、白衣を着た末兄はとても元気そうだ。宝物を見つけたときのように、瞳が輝いている。その実、星こそ彼の宝物なのだ。星を近くで見たいがために、カリンと一緒に読み書きを習い、カリンよりも高等な勉強をして学校に行ったのだから。

 カリンと視線が合うと、ジャンは目を丸くした。お前、変わったな、といわんばかりの表情だ。なぜだかカリンはとても照れくさかった。どちらからともなく、苦笑する。

 スズメの涙ほどの給料で出店の料理を家族に振るまい、その味を堪能しているうちに日が沈んできた。カリンたちは特設会場に向かう。王立劇団による劇がちょうど終わったところで、ステージでは次の演目のための準備がなされていた。次はロナの民たちの踊りらしい。各地を旅するロナの民は歌と踊りで生計を立てているという。特有のあざやかなピンク色の髪は、ステージに魔法の灯がともされたことで、夕暮れの下でもよく目立った。百年前の戦争の際に滅亡にまで追いやられた民族だが、四大魔法使いのひとり、アルフェッカ・ロナが残りの三人の魔法使い――バルサ、ゼイン、そしてリーネの力を借りて再びよみがえらせたという。

 そのロナの民の踊りを見るのはカリンもはじめてだったので、期待をこめてステージを見つめていた。踊り子がまとう服や飾りは遠くから見ても美しい。少しでも見えるように、カリンは群衆のなかで必死につま先立ちをする。

「肩車してやろうか」

「いいわよ。子どもじゃないんだから」

「そわそわしているんだから、子どもも同じだよ」

 少し離れたところにいたマイが言ったが、カリンは聞こえないふりをする。

 楽しまなくちゃ、せっかくの祭りなんだから。

 人々のざわめきがやんだ。いよいよ始まるようだ。空はいよいよ暗くなってきた。空に浮かぶ魔法の星が輝きを増す。弦楽器が爪弾かれ、カリンは息をのんだ。そのときだった。

 

 

 魔法の星がゆらめき、ステージに影がさした。ステージを照らしていた灯が消える。ロナの民たちの動きが止まる。突然の異変に民衆はどよめいた。

 混乱する人々に押されながら、カリンは空を仰ぎ見た。

 魔法の星がゆれて、空のかなたに流れていく――。

 暗くなった世界で目をこらしてみると、なにものかが魔法の星をすべて抱えて飛んでいるようだった。

「マイ!」

 カリンは喧騒のなかでも届くように叫んだ。

「魔物か精霊だわ!」







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