第一章 星の祭り Ⅴ
最近、とてもうまくいっている気がする。
カリンが穏やかだとうれしい。
カリンが言ってほしいと思っていること、やってほしいと思っていることを考えて行動すると、カリンは笑顔になる。朝は少し失敗してしまったが、同じ過ちは二度と繰り返さないだろう。
人間は、表に出る感情と裏に隠された本当の気持ちがときどき異なっているらしい。彼らには心が何層もある。複雑な構造をしているのが、リーシェンにもわかってきた。
マイも、と思う。
マイも、もう少しカリンのことを考えてしゃべればいいのに。そうしたら口論にならずにすむのに。
反応がおもしろくてついマイをからかってしまうが、一方では彼のカリンに対する態度を心配する。シセルと似ている。シセルもまた感情表現が不器用だったのだと今になってみれば思える。
神の力を手にすることができたら、すべての人間の心が理解できるのだろうか。カリンが力を与えてくれたら。リーシェンにはカリンしかいないのに、カリンは拒否をする。リーシェンがカリンのことを“好き”ではないから。
そのよくわからない感情だって、神の力をもってすればわかるかもしれないのに。
カリンはすべて忘れてしまった。リーシェンは一時だって忘れたことがない。忘れられるはずがない。
――ぼくと、一緒に行こう。
差し出した手。ぎゅっと握られたときの、胸の高鳴り。
*
――そのときになればわかるのですよ。このひとこそが妃になるべきひとだと。あなたの父上もそうしてリリエラ、あなたの母上と出会い、神の力を手にしたのです。あなたがたのうちの誰かも、いずれ出会うことになるでしょう。
――ぼくには関係ないよ。兄上たちがいらっしゃる。ぼくがディーレンスになるはずがないんだから。
次代の神を見極める者だけに許された金の光を持つ、その精霊は肯定も否定もしなかった。
――それを決めるのは、あなたでもわたくしでもありません。新たなる選定者がきっと、あなたがた兄弟のうちのひとりを王に選ぶでしょう。
ディーレンスとリリエラの間に生まれた子が次代のディーレンスになることははるか昔より定められている。ただ、ふたりの神の間に複数の子が生まれたことは前例がない。しかも、リーシェンの兄は双子だった。
どちらが神にふさわしいか、ふたりは争いに明け暮れた。
哀しいことだと彼女は涙した。神の使いでもある彼女は、誰よりも清らかなる心を持ち、争いを嫌った。
――すべては、運命の星が導いてくれるのです、リーシェン。
*
“彼女”はこれから起こす騒ぎを想像して、思わず顔をほころばせた。リーシェンの困る顔が目に浮かぶ。偽の王のリーシェンには止められない。
誰にも内緒で事を運ぼうと考えていたが、黙っていられなくなって、大好きなひとにだけこっそり教えた。
「シーちゃん、あのね」
大好きな彼は彼女のたくらみを聞いても、顔色ひとつ変えない。つまんない、と心の中で舌打ちする。
「シーちゃん、困んないの? シーちゃんも行くんでしょ?」
「いや」
彼は首を横にふった。
「どうせ話すことは決まっている。どうでもいい」
「リーシェンがまた、口出すかもしれないよ?」
「かまわん」
ときどき、彼はリーシェンの行動を否定しない。自分の島に新しい支部を作らせたときもそうだった。リーシェンを攻撃したくてしかたのない彼女は腹立たしく思う。
「あなたの損にはならないだろう、ルルディ」
「そうだけどさあ、リーシェンごときが偉そうにしてるのが嫌。ルゥはね、あのちびっこに指図されるのはごめんなの。ラーシェイさまの命令なら大歓迎なのにぃ」
あまり芳しい反応が得られなかったので、彼が食いつく話題を放り込んでみる。案の定彼の心は重くなった。それに満足してルルディは棲家をあとにする。目指すはリディル王国。楽しい時間の始まりだ。