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精霊島の花嫁  作者: 茶野
十二の星が消える夜
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第一章 星の祭り Ⅰ

 魔法で輝くつくりものの星たちを見上げたら家族を思い出してしまって、カリンは泣きたくなった。十二人の兄たちの名前を上から順番に、心の中でつぶやいてみた。今、大声で泣いてみたら、兄たちは助けに来てくれるのだろうか、カリンを泣かせたやつをこらしめてやるといって。

 星はちょうど十二あった。それは創世神オルフェリアの十二の子神をあらわしているという。オルフェリアのぶんの星がないのは、かの女神が世界をつくったあとに深い眠りについたという伝承が反映されているからだと聞いた。オルフェリアを讃える祭りなのに、ひとりだけのけ者にされてしまってかわいそう、とカリンは思う。だが、それを言って聞いてくれる相手はどこにもいないのだ。

 かわいそうなカリン。まるでオルフェリアみたい。あたしが女神だったら、いやなやつをやっつけてやれるのに。

 それでもさみしいことには変わりないんだろうな、と気づいてしまって、たえきれずに走り出した。くすぶる気持ちをふりはらうように、あるいはそれに急かされて。家に帰ろう、魔法使いなんてやめてしまおう、ずっとみんなと一緒にいるんだ! 貴族だから金持ちだからといばったり、カリンの悪口を言ったり、いじわるをする人がいるところになんかいたくない。

 ――あんたなんか、だいっきらい!

 負け犬のようにしか言い返せなかったことが悔しい。

 学園の中では魔法の成績が他の生徒よりもよかったので、それにすがることで嫌なことをされても我慢できた。だが、あの子はちがう。魔法使いではない。なんとかという国の何番目かの王子だ。魔法を使えなくてもまったく困らない。強い魔法使いを雇って命令できる金を持っているからだ。

 ――たとえ魔法使いに身分は関係なくても、お前に卑しい血が流れてることには変わりないだろ。



 あのとき、絶対許さない、一生覚えていると心に決めたはずだった。

 結局故郷には帰れず、数年後には学園を卒業して中級魔法使いになり、ある日ふと忘れていた過去を思い出したのだ。

「ふふ」

 思い出したらたまらなくおかしくなってきた。

 今なら、あの自称王子さまとも仲良くできるかもしれない。

 ひとりでくすくす笑っているカリンに、ぬっと大きな影が覆いかぶさった。

「シセルさま」

 シセルは見てはいけないものを見てしまった、というように複雑な表情を浮かべている。目をそらしながら、手紙を差し出した。

 魔法組合リーザス・クラスト、ディーレン支部の一階にある食堂には、真昼間だというのに魔法使いたちが勢ぞろいしていた――といっても支部長シセルファ・カデット、中級魔法使いカリン・アルバート、そしてその相棒マイ・オリオンだけであるが。カリンは造形魔法の修業を、マイは読書を、シセルは島の子どもたちと魔物ごっこをしていた。わざわざ狭い部屋でやらなくともできることばかりであるが、暖炉がこの部屋にしかないせいで集まってしまったのだ。

 季節は冬。十二の月グランディウスは一年の終わりにふさわしく、甚大なる寒気をもたらしてくれた。深く積もった雪が物珍しくて好ましかったのは最初のうちだけで、今ではもう雪が降るたびにうんざりしている。カリンの故郷ではほとんど雪というものが降らず、リーザインでは降ってもうすく積もる程度ですぐにとけてしまっていた。マイも似たような環境であったらしいが、最近はもっぱら「雪なんてもう見たくない」とぼやいている。とにかくディーレン島は寒い。常夏の島キシリヤとは大違いである。

 魔法組合からこの支部に届く手紙はすべて、食堂の机に描かれた魔法陣の上にあらわれる。魔法陣を介してものを行き来させているのだ。

 カリンはおそるおそるシセルから手紙を受け取った。捺印を見ると、リディル支部から届いたことがわかる。宛名はまちがいなくカリンの名前だ。カリンは差出人名を見て、ぱっと顔を明るくさせた。

「ジャン・アルバート」

「だれそれ」

「カリンの愛人?」

 すかさずマイと子どもたちが寄ってくる。

「兄よ。リオンたちはともかく。マイ、あなたまでのぞかなくたっていいじゃないの」

「え、おれだけ?」

 マイが子どもたちの後ろを見やった。やれやれ、とカリンはため息をつく。子どもたちに見えないのをいいことに、リーシェンが机に座ってこちらを見下ろしていた。

「いつ気がつくかなと思って」

 リーシェンはにこりとほほ笑んで、無駄に優雅な動作で床に着地する。その際、床にころがっていた『毛玉族』のいくつかが犠牲になった。リーシェンに踏みつぶされた彼らはつぶらな瞳で王を見る。怒っているのだろうか。無理もない話だ。この部屋の床には『毛玉族』が密集して、足の踏み場がない状態である。むしろ彼らはリーシェンではなく、マイを嫌がっているようだ。マイを避けるように、彼の周辺だけぽっかりと穴が開いている。

 リーシェンがなにやら『毛玉族』に命じた。すると彼らは大きいものを下に積み重なり、柱のようになった。いくつもの『毛玉族』タワーがたっている光景は気になるが、それでも部屋はすっきりする。リーシェンを見れば得意げに胸を張っている。精霊王と名乗るにもかかわらず何の力も持たない彼は、自分に従う精霊に命令することしかできない。

 わざわざこんな狭い部屋に集まってくる必要はないのに、とカリンは思った。リーシェンがほほ笑みかけてくる。カリンの考えていることは精霊である彼には筒抜けなのだ。

 カリンは手紙に視線を落とした。一文字一文字丁寧に書かれた字が、書き手の性格を端的に表している。カリンが知っているものよりずいぶんうまいが、こちらのほうがより彼らしい。

「カリン姉ちゃんって妹だったんだな」

 子どもたちの一人が言った。

「そうよ。あたしには十二人も兄さんがいるの。これはいちばん下の兄さん」

 どよめきが起こる。

「カリンに似てる?」

「まあ、似てるんじゃない」

「優しい? こわい? いじわる?」

「……優しいわよ」

 そう答えて、ふいに胸の渇きを感じた。家族には、魔法学園リーザインに入ってから五年の間、一度も会っていない。優しい兄たち、父に母。

 会いたいと思った。今すぐ彼らに会いたかった。

 手紙には、カリンの卒業を祝う言葉が書き連ねてあった。宛先がリーザインになっているところを見ると、異動のごたごたのせいで今まで届かなかったのだろう。

 ――みんなに会いに行ってやれ。それと僕にも魔法使いの姿を見せてほしい。

 ジャン。カリンは兄からの手紙を抱きしめた。

「《星の大祭》に実家へ帰りたいか?」

 シセルに問われる。

「そういや、今年の開催地はリディルだな。ちょうどいいじゃねえか。帰れ帰れ」

 まるで追い出すようだな、とマイが笑う。

「カリンが帰るなら、おれも働かなくていいってことですよねー」

「そうだな。お前も国に帰っていいぞ。好きにしろ。もし、万が一依頼がきても、たぶん来ないと思うが、そのときは俺がなんとかしてやろう」

 本部で働いていたらそうはいかなかっただろう。ましてや上司が因縁のあるルーディだとくれば、カリンの願いなど聞き届けられるわけがない。

「ありがとうございます、シセルさま」

 《星の大祭》は毎年グランディウスの月の最後に行われる。祭まであと一週間。今からでも帰っていいというシセルの言葉に、カリンは甘えることにした。

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