第二章 消えた王女 Ⅰ
キシリヤ王太子エレイナ・マリオンの捜索依頼――。
やっかいなことにまきこまれてしまった、とカリンは内心思った。
「わかりました」
それでも助けを求められたらやるしかない。断るという選択肢はありえないのだ。
ティル=エーリクは少しだけ安堵したような表情になったが、心の底から安心しているわけではなさそうだった。婚約者の無事を本気で心配している。
「まずは魔法地図で確認します。王女さまが普段身につけていらっしゃったものをなにかお持ちですか? 身につけていた時間が長ければ長いほど、体から離れてからの時間が短いほど、結果がはっきりとするのですが」
「それには〈王の腕環〉がいちばん適しているのでしょうが、あいにく、あれは取り外しができないものですね。新調したばかりでしたが、行方がわからなくなる前の夜に履いていた靴があります。それでもよろしいでしょうか?」
カリンはうなずいた。
「ですが、先ほどお話した魔法使いも靴を使って同じ魔法を試されたようなのです」
捜索をするときに、魔法地図を使うのは基本中の基本である。
「とにかく、やってみます」
カリンはディーレン支部に置いてあった世界地図を召喚した。ティル=エーリクから王女の靴を受け取って地図の上にのせ、呪文を唱える。
「うーん」
マイがうなった。
たしかに反応はあったのだ。だが、それがなにをさすのかカリンは知らない。
王女の靴は地図の上に浮かび上がり、迷うようにぐるぐると回っていた。
「……同じです」
ティル=エーリクが言う。
「“ある”のに“ない”……」
カリンはつぶやいた。いったいどういうことなのだろう。
「ところで第三公子殿下。靴だけ置きざりにされてたんですか? 普通どこかに行くなら、靴を履いて出かけませんか?」
そうたずねてから、「ちょっと待てよ」とマイは考えこむ。
「王女ほどの身分なら、何足も靴を持ってるのが普通か」
「ええ。しかしながら気にかかるのは、この靴がエレイナの寝台の横にきちんと並べられていたということなのです」
「……王女はもしかすると眠っていた」
マイが言わんとしていることをカリンは察した。
「眠っているところをさらわれた可能性、ね」
「現場を見られるといいんだけど。さすがになあ」
リディル王女の部屋に乱入したマイがまともな思考をしたことに、カリンは驚く。
「そうですね」
ティル=エーリクは困ったような表情を浮かべる。
「勝手にひとを入れるわけにはいかないでしょう。ですが、手段を選んでいる場合ではない事態かもしれません」
案内しましょう、と彼は部屋の戸を開けた。
「あなたがたをエレイナの部屋に通すことはできません。私が戸を開けますので、外から部屋の様子を見てください。それでなにか手がかりが見つかればよいのですが」
「とにかく行きましょう」
それでもできるかもしれない、という自信がカリンにはあった。