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精霊島の花嫁  作者: 茶野
眠れる王国への鍵
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第五章 眠れる王 Ⅶ

「だから、その話はお断りしたでしょう――それにシセルさまが子どもってどういうことなの? イーズは? あなたたちの関係はいったいどうなっているの?」

 つれないなあ、とつぶやいたのがリーシェン。シセルは額に手を当てた。「オレが説明するよ」とイーズが進み出る。

「もうわかってると思うけど、リーシェンは一応精霊の王だ。オレは精霊王に代々仕えてきた一族の中から選ばれて、リーシェンの面倒を見てやってる。本当はお仕えしているって言うべきなんだが、まあ、リーシェンはいろいろあって力もなければ後ろ盾も人望――人間じゃないから正しくないか、それもないから、誰も仕えたがらなくてな。しかたなく幼なじみのオレが世話してやってるってところだ」

「幼なじみ?」マイが尋ねた。

「ま、たまたま生まれた時期が近かったんだよ。五百年来のつきあいになるな」

 イーズの言葉にリーシェンがうなずく。

「いろいろ語弊があったけれど、イーズとぼくの関係はそんなところだよ、カリン」

「で、シセルさまは」

 カリンはシセルに目を向けた。彼の表情は、先ほどとくらべていくぶん柔らかくなってきた。

「シセルは、元はと言えばリーシェンの気まぐれがきっかけだな。ある日突然、海に落ちてたってリーシェンが赤ん坊連れてきたもんだから、オレもラティカも――ああ、こいつも精霊な、とにかくびっくりしたぜ。生まれつきオレたち精霊のことが見えたのは運がよかった。そうじゃなかったら今ごろこんなところで魔法使いなんかやってないだろうよ」

「精霊が、人間の子どもを育てたってこと?」

「まあな」イーズは笑う。

「なんだかんだでいちばんシセルの面倒見てやったのはオレだけどな、リーシェンもラティカもたいした役に立たないんだ、これが。人間のことなんて全然わからないから、ダグラスに助けてもらったりしてな」

「ダグラスって、まさか十二賢人のダグラス・フレドール?」

 マイが問うと、イーズ、リーシェン、シセルがそろって肯定した。以前、リーシェンが「知り合い」だと言っていたのをカリンは知っている。

「そういうわけでオレたちはシセルの育て親のようなものだってことさ」

「へえ、そっちにもつながりがあったってことか。上層部も裏でなにしてるかわかったものじゃないな」

「そこは否定できないな」

 シセルが言った。

「リーシェンはその立場を利用して組合に関わってきている。このディーレン支部を作らせたのも、リーシェンのしわざだ」

「いいじゃないか。ぼくはおまえをこの島に住まわせたかったんだから。それにいつかカリンにも、ぼくのそばで暮らしてほしかった。その願いがかなってよかったよ。なんといっても、この島を作ったのはぼくだからね」

 ディーレン島――夢幻の神ディーレンスに名を由来する。ディーレンスはリーシェンだ。つまり。

「ここは、ぼくの島。ぼくの好きなものだけを住まわせるんだ。だから、マイ・オリオン、きみはすぐにだってここから出ていってほしいね」

「あいにく、おれはカリンのパートナーだから。魔法組合の命令でここにきているわけだし、それは無理だね。カリンがここにいるかぎり、おれはこの島にいる。またなにかあったら、カリンと一緒にどこかべつの場所に飛ばされるだけだけどな」

「……二度とは、あんなことさせないわよ」

「じゃあ、カリンはずっとここにいるつもりなのか? 昇級の機会もない、こんな僻地でずっとくすぶっていると?」

 まあ、べつにおれはいいけど、とマイはカリンの答えを待たずに言った。

「だれのものであるかは置いといて。おれはこの島、けっこう気に入ったから」

 なにか言おうとしたのだろうか、リーシェンは口をひらきかけたがすぐに閉じた。

 異変に反応したのは、誰よりもシセルが早かった。彼の杖が光ったとき、カリンは自分の杖を召喚してすらいなかった。

「いつまでもこんなところにいると、魔物に狙われる。最近、あいつらの動きは活発化しているから危険だ」

 溶けるように消えていく魔物の姿。一瞬のことだった。

 ――これが上級魔法使い。

 呪文も魔法陣も必要としなかった。そして魔物を苦しませることもなかった。

 今までにカリンが出会ったなかで、もっともあざやかな魔法だった。

「シセルには赤ん坊のときから杖を与えてきた。たしかに並の魔法使いより才能はある。だけど、シセルだって上級試験に合格するまでには十五年もかかったんだよ」

 カリンに聞こえるようにだけの大きさで、リーシェンがささやく。

「きみは杖を手にしてたったの五年でしょう。すぐに今のシセルのようになるのは難しいよね。これが、今のきみの問いへの答えになるかな? カリン」

 ――あたしはほんとうに上級魔法使いになれるの?

 カリンははっとした。リーシェンを見やると、彼は優しくほほ笑んだ。

「地道にがんばるしかないわよね」

 実力をみとめさせろ、といつかのシセルは言った。まずはそこからだ、とカリンは決意する。

 眠っているリオンを抱きかかえ、シセルは杖をかかげる。上級魔法使いのしるしである赤い魔法石が光る。赤い光にあたりが包まれる。



 精霊の国――願いがかたちとなってあらわれる場所。そして、とても危険なところ。

 魔物と精霊。不可思議な存在への問いの答えの一端をカリンは知った。

 ――もし、また“国”に行けたら。

 カリンは思う。



 顔も思い出せない、あのひとの姿を見ることはできるのだろうか。カリンを闇の中から救い出してくれたあのひとに会えるのだろうか。



 鍵はもう手に入れた。あとは、それをどう使うか。

 魔法によって浮かぶ感覚に、カリンは身をまかせた。森に静寂がよみがえる。




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