第四章 かたちのない国 Ⅲ
焦げのない食事をとるのはひさしぶりだ。カリンは毎回のごとく、大地の神アレイシスに祈りをささげる。カリンの祈りが終わるまで、マイは食事に手をつけず待っていてくれた。ふたり同時に、できたばかりのスープを口にはこぶ。
「うん」
先に口をひらいたのはマイだった。
「微妙」
「はっきり言ってくれるわね」
刃で指を切ってしまったマイが手当てをしているあいだにカリンが味つけをしたのだが、どうやらマイの口には合わなかったらしい。
「あたしはそれなりだと思うんだけど」
「それはカリンの味覚がおかしい。イーズの料理を食べすぎたせいか?」
「可もなく不可もなくってところじゃないの」
「料理の才能がないかもしれないな。リディルじゃ、料理ができないと嫁の貰い手がなくなるんだろ? 大丈夫か?」
「余計なお世話よ!」
はは、とマイが笑った。
「ま、それは冗談。女だから家事ができなくちゃいけないなんて、もう古い考えだろ。うん、たぶんカリンよりおれのほうが向いてる」
言いたい放題である。彼が今までイーズの料理に文句をつけなかったのが、カリンには不思議だった。
「そうだ、だれかに料理習ってきて、イーズに教えてやろうかな」
「そんなことしなくても、イーズと一緒に習えばいいじゃない」
「何言ってるんだよ、それは無理だろ」
マイの言葉にカリンは首をかしげる。
「何言ってるの、はこっちのせりふよ」
「ん。ちょっと待て、カリン、なにかかんちがいしてないか。イーズはさ、一生懸命なんだ。やりがいを感じてるんだから、いくら料理があれでも仕事を奪うわけにはいかない」
結局マイの言葉の真意はわからずじまいだった。
食事を終えて片づけをしたあと、カリンはいつもどおり部屋に戻って後輩リリー・エルへの手紙を書いた。昨夜送られてきた手紙を読むと、彼女は授業の課題に悩まされているらしい。ペンをはしらせ、助言を書き込む。
杖を手に呪文を唱えると、机に描いた魔法陣の上にのせた手紙は姿を消した。きっと明日の朝には返事が届いていることだろう。
寝台の上には『毛玉族』が積み重なっていた。カリンはそれをはらいのけ、毛布の中にもぐりこむ。それを待っていたとばかりに『毛玉族』や『ネズミ族』や『鳥族』がおしよせてくる。今晩は『猫族』や『ウサギ族』までいるようだ。寝台はいつになく窮屈である。
「だれかろうそくの火を消してくれる?」
カリンが言うと、我さきにとばかりろうそくに不思議な生き物たちがむらがった。カリンにほめてもらいたくてしかたがないのだ。彼らとのつきあい方をカリンはだんだん心得てきた。はたから見たら異端だろうが、ほかの人間の目からはなれた自分の部屋の中でだけカリンは自由だった。
あかりが消される。
階下から女性の声がしたのは、それと同時だった。
その声には聞き覚えがある。
「リナリアさん……?」