表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
精霊島の花嫁  作者: 茶野
眠れる王国への鍵
22/82

第三章 金と銀の少年 Ⅵ

 リオンの期待を裏切るだとか、かわいそうだとか以前に、結局マイは自分が火薬実験をしたかっただけなのではないか。

 ディーレン支部の庭で少年に火薬のことを説明するマイは、とても楽しそうに見えた。

「リオン、マイが火をつけるときは結界のなかに入って」

 あまりにもマイがいきいきとしているので、それに水をさすような無粋なまねはできない。カリンは庭に防音のための結界と、衝撃をなくす結界を張って爆発にそなえる。万が一の場合を考えて、さらにリオンと自分のまわりを結界でかこんでおいた。

「よし、リオン見てろよ。これが最新作『煙多め、威力ふつう』だ」

 嬉々としてマイは言う。

「なんで煙が多いの?」

 まっすぐに手をあげて、リオンが問う。

「それはだな」

 マイが得意げになっているのが、カリンには手に取るようにわかった。

「こういうことさ」

 言うと同時に、マイは火薬に火をつけてすこし遠くに投げつける。破裂音とともに灰色の煙がもくもくとたちこめる。結界のまわりに煙が充満し、外のようすがどうなっているのかわからなくなる。

 いつもより音はひかえめだったことに、カリンは安堵した。

「すっげー……」

「感心するのはまだはやいぞ」

 前方にいたはずのマイの声が、すぐうしろから聞こえた。隣でリオンがおどろくのを、マイが何をしたかわかっているカリンはほほえましく思う。

「こうやって相手の隙をついたり、その間に逃げたりするんだよ」

 移動魔法を使ったことや火薬のしくみなどを、マイはリオンに説明した。わけのわからない専門用語を使うのかと思いきや、非常にわかりやすい説明だった。カリンは唖然とする。字も読めない子どもが熱心に話を聞くほどだ。ただの自己中心爆発男ではない――。

「なあなあ兄ちゃん、さっきよりすげーやつもあるんだろ?」

「まあな。見たいか?」

「見たい!」

「よく見ておけよ。これが『威力最大』――」

「マイ! 一回だけって言ったでしょう!」

 危ない危ない。約束をやぶって二回目の爆発実験を行おうとしたマイを、すんでのところで止める。リオンが不満の声をあげた。カリンは首を横にふる。

「……いいんじゃねえのか?」

 その言葉に男ふたりの顔が輝いた。だが幼い方は、その言葉を発した者の姿を見るなり、おびえた様子でカリンの背後に隠れる。

「シセルさま」カリンは苦い表情をうかべた。

 悪いひとではないのだが、前科がひとつふたつありそうな顔をしていることはカリンも否定できない。

「シセルさま、リオンとカリンをいじめているように見えますよー」

 マイの余計なひとことに、シセルは片眉をあげた。ローブの裾をぎゅっとつかまれたのをカリンは感じた。

「それはつまり、火薬実験を禁止していい、ってことか」

「いっ、いえー」

 ふたりのやりとりを聞いて、カリンはあきれるしかなかった。

「無責任なこと言わないでくださいよ、もう」



 *



 いやな予感がした。それは勘にすぎなかったが、イーズには誰よりも勘がすぐれているという自負があった。

 それを言葉で発しなくとも、相手には伝わった。

「困ったな。ラティカがいないから、今はきみしか頼れないんだ」

「わかってるさ」

 意志の疎通に言葉は必要なかったが、あえて声に出す。そうすることで愛する存在に近づけるような気がしたのだ。だが、望まなくとも主の悲痛な思いは手に取るようにわかってしまう。イーズはそっと目を閉じた。

 ――カリン・アルバート。

 主の心のすべてを占めるひと。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ