第三章 金と銀の少年 Ⅰ
リナリアに渡された手鏡をのぞきこみ、カリンは目をみはった。
はさみによってととのえられた髪は、乱れることなくふわふわとかるくはずむ。目の色に合わせた緑のカチューシャが、カリンをかわいらしく見せていた。
「それにしても、ひどい切り方だったわ」
カリンの肩や服についた髪をはらいながら、リナリアは言う。
「自分で切ったの?」
「いえ」
事情を話そうかどうか迷って、結局やめた。暗くなる話題を出してもしかたがない。
「まあ、いろいろあって」
「そう? 無理にとは聞かないけど」
手鏡をカリンが返すと、リナリアはそれを無造作に物が散乱した机の上に置いた。
「ありがとうございました。すごくうれしかったです」
カリンが椅子からたちあがったのと、家の戸が勢いよく開けられたのは同時だった。
「おい、母ちゃん!」
十歳ほどの少年が、息をきらしながら駆けこんできた。リナリアと同じ色の髪と目をして、顔立ちもよく似ている。リナリアの息子なのだろう。
「どうしたの、リオン」
「どうしたもこうしたもねえよ! さっきシセルさまの家のほうですっげー音がしたんだ! どかーんって!」
身ぶり手ぶりをまじえながら話す少年リオンは、ひどく興奮しているようだった。
「それでシセルは大丈夫なの?」
おろおろするリナリア。リオンのいう音が何をさすのか、カリンには容易に想像できた。
「心配しないでください、リナリアさん。たぶん、あたしの相方が火薬をいじってただけなので」
目をはなすとすぐにこうなるんだから! カリンは拳をにぎりしめた。
「リオンっていったわね? あんた、今言ったことは忘れなさい」
「えー、やだよ」
リオンは不満げである。
「おもしろそうだもん。もう一回見にいこうっと」
「だめよ! マイにかかわるとろくなことにならないわよ!」
カリンの制止をふりきり、リオンはディーレン支部へ向かって家を飛び出した。
「リナリアさん、ありがとうございました! それじゃ!」
いたいけな少年にはまだ火薬なんて早すぎる。いそいで彼のあとを追いかける。
「待ちなさい、リオン!」
「待てって言われると待ちたくなくなるよーだ」
体力のありあまる少年に、追いつくどころかだんだんと引き離されていく。ただでさえ体力がないのに、ローブ、強い日差しとくるとカリンに勝ち目はない。
肩を上下させながらカリンは、遠くなっていく小さな背中を憎たらしく見つめた。そうして杖を召喚する。
こうなったら先回りするしかない。
道の上に魔法陣を描きはじめる。なんとしてでもリオンより先に支部へ戻って、マイと出会わせないようにしなければ。
「カリン」
名が呼ばれ、肩をたたかれた。だがカリンにふりむく余裕はなかった。
「悪いけどあとにしてくれる? 今すごくいそがしいのよ」
完成した魔法陣の上に立ち、杖をかかげる。光がカリンをつつみこんだ。