第二章 神の名を持つ島 Ⅷ
光が消えたとき魔法陣の上にはこわれた鍬に加えて、折れた刃らしき金属があった。
今度からこの魔法を使うときは呪文を唱えなくてもいいかもしれない。今の魔法で、以前よりも上達していると実感できた。
勝負はここからだ。自然と杖を持つ手に力がこもる。
先ほどの魔法陣の隣に、また違う文様の魔法陣を描き出す。隣のものにくらべると、かなり単純な構造である。リーザイン魔法学園を卒業した魔法使いなら、たいていがこの魔法陣をはぶくことができるだろう。カリンは今、初歩的な造形魔法を使おうとしていた。
杖をかまえた手がふるえる。ぎゅっと唇をかみしめる。
お願い、あたしの言うことを聞いて。すがるような思いで、カリンは杖を見つめた。
大きく息を吸いこんで、呪文を唱える。魔法の難易度によって呪文の長さは決まる。しかしカリンにとっては先ほどのものの半分より短い呪文であるにもかかわらず、それよりも長く感じられた。
元どおりになった鍬の形を思い浮かべる。できるだけはっきりと完成形を頭に思い描くことが、造形魔法成功の秘訣である。
杖の石が光る。
肩で息をしながら、カリンは魔法陣を見た。ぱっと笑みが浮かぶ。
「……リナリアさん」
「カリン!」
リナリアが鍬を手に取る。
「ほんとうにちゃんとくっついてる。できるじゃない、カリン」
「……ええ」
カリンはほっと胸をなでおろした。ふつうの中級魔法使いの倍の時間がかかったが、なんとか成功した。
「いつでもこれくらいの魔法が使えればいいんですけどね」
「まあまあ、あたしの鍬は直ったんだからいいじゃない。それより報酬としてなにか渡さなくちゃね。カリン、何がいい?」
組合のきまりによって、依頼を達成したあかつきにはその魔法に対する報酬を受け取ることとなっている。しかし多くの場合、取引は組合支部を通して行われるため、一介の中級魔法使いであるカリンが契約にたずさわったことはなかった。
学園では「報酬は多すぎても少なすぎてもいけない」と教わったが、カリンには今の魔法にどれだけの価値があるのかわからない。頭に手をやって考えこむ。
「そうだ」
リナリアが声をあげた。
「その頭。髪切ってからなにも手加えてないでしょ?」
肩につくかつかないほどに短く切られた金髪。髪質がやわらかいせいで、風が吹くたびに乱れてしまう。寝癖だらけのマイのことを言っていられない状態だ。
つい最近までは、長くのばした髪をふたつの三つ編みにしてまとめていた。しかし今の長さでは結うことなどできやしない。
「リナリアさん」
彼女が意図したことをさとる。
「名案ですね」
カリンはほほ笑んだ。